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オピニオン

愛知大学 国際ビジネスセンター所長 現代中国学部 准教授 阿部 宏忠

中国政府の消費促進策 ―― 低調な個人消費は反転するのか

中国経済に元気がない。中国国家統計局が7月に発表した2024年上半期(1―6月)のGDP実質成長率は5・0%。政府の通年目標「5・0%前後」はクリアしたものの、消費も投資も弱含みで力強さに欠けている。

先日交流した関西圏の建設機械関連企業の方々も「中国からの受注が大幅に減少している。中国の不動産市場の動向を注視している」とのことだった。

中国経済の重石になっているのは、不動産市場の低迷だ。中国政府はこれまで不動産投資を経済の主力エンジンのひとつとして位置付けてきた。しかし、2020年に行き過ぎた不動産開発を抑制する政策を打ち出すと、減速傾向が鮮明となり、2022年の不動産投資額は前年比10.0%減、2023年は同9.6%減、そして2024年上半期も前年同期比10.1%減と下落が止まらない状況となっている。

この不動産市況の悪化を受けて、個人消費、企業投資は弱気な動きが続いている。その状況について、消費動向を示す経済指標から検証してみる。

グラフ1は中国の社会消費財小売総額の増加率の推移を示している。コロナ禍前の増加率は通年ベースで10%台が常態であった。それが202311月をピークに下降基調となり、直近の6月の単月ベースの増加率は2.0%に留まった。二桁成長と好調だった外食収入も、春先からは一桁台に低迷している。

社会消費.jpg

次に、中国の消費の特徴を確認してみよう。表1は中国の一人当たり消費支出の増加率の推移を示している。コロナ禍前の傾向として、「衣・食」が低下した一方、住居関連費のほか、教育・文化・娯楽や医療・保険などが高かったことがわかる。すなわち、生活必需品から生活を豊かにする消費へのシフトがみられた。

コロナ禍を経た現在はどうか。「衣・食」は高い傾向を示し、住居関連費や生活用品・サービス(家庭用耐久消費財、家具・室内装飾および家事サービス)が大幅に低下している。この結果からも、近年の不動産市場の低迷が、消費支出にも負の影響をもたらしていることがわかる。この傾向は右表の消費支出の構成比の変化からも読みとることができる。

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■政府による消費促進策の効果は?

中国政府は2023年以降、消費主導型の経済成長を目指し、各種消費促進策を相次いて講じてきた。237月には20項目からなる消費回復・拡大措置を打ち出した。具体的には、一部都市で実施されている自動車購入制限の早期撤廃、国産AIなどを搭載したハイテク電子製品の消費促進策が盛り込まれた。243月には、自動車や家電、住宅内装材・設備を対象とした買い替えに対し、補助金を付与する消費推進プランを公表した。7月には同プランの拡充措置として補助金が増額された。例えば、新エネルギー車の買い替えでは補助金額は1万元から2万元に引き上げられた。

消費・生産財だけでなく、サービスの消費に対しても「サービス消費の質の高い発展を促進することに関する意見」(20248月)が公布された。消費拡大が期待できる外食、家事、娯楽、旅行といったサービス消費において、生活の質を向上させる取り組みを奨励し、発展を促すとしている。

こうした中国政府による各種消費促進策は、コロナ禍後に相次いで公布された。しかし、消費関連データを見る限り、その効果は限定的で、本格的な消費回復・拡大には至っていないようだ。政府主導の消費促進策は、消費者ニーズをとらえたものになりにくい。少子高齢化の進展など人口動態を踏まえつつ、コロナ禍後のニーズの変化を十分に捉えた、きめ細かな対策が求められる。

(2024年8月10日号掲載)