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オピニオン

(一社)福祉防災コミュニティ協会 代表理事 鍵屋 一 氏

4月から介護業界BCP義務化、トイレと人の確保が最重要

今年4月、介護事業者に対してBCP(事業継続計画)の策定が義務化された。2020年12月頃の感染症大流行の真っただ中に突然話が持ち上がり、21年4月の「令和3年度介護報酬改定」で義務化が決定した。スピードを重視した影響か、ガイドラインの内容は十分ではないとの指摘もある。かねてより介護を含む福祉業界のBCPを推進してきた(一社)福祉防災コミュニティ協会・代表理事の鍵屋一氏に福祉業界のBCP策定の必要性やポイントなどを聞いた。

――この度義務化された介護業界のBCP策定のポイントを教えてください。

「今回のガイドラインで求められているポイントは主に以下の2点だと考えている。①ハザードマップ理解とそれに合わせた対策の策定②水道、電気、通信、交通などのライフラインが遮断された時でも継続的に福祉サービスを提供できる体制の構築」

――義務化の背景は。

「感染症の流行が大きなきっかけになったと思う。リモートワークなどをどんなに進めても、高齢者や児童を預けられる福祉サービスがないと、保護者は働くことが難しくなる。福祉サービスが止まると社会が止まるということが身をもって分かった。福祉の中でも介護は介護保険制度があるので、制度内でBCPのことも考えてくださいということ」

――義務化から4カ月。進捗状況はどうみますか。

「昨年10月の厚生労働省のデータでは、既にBCPを策定しているところが約3割、策定中が5割超。しかし、私のところには未だに策定したBCPで本当に実行性があるかと心配の声が寄せられている」

――ガイドラインの内容は十分ではない。

「重要なきっかけにはなったが、福祉施設のBCP策定の重要性を訴えてきた身としては不十分だと感じている。一般企業向けのBCP策定ガイドラインを手直ししたような印象。企業のBCPと違い、福祉サービスのBCPは利用者、職員、地域住民の命と尊厳を守ることが求められる」

――貴協会が考える福祉サービスで求められるBCPとは。

「私どもはBCP策定時に人(参集・応援職員の確保)、物(十分な備蓄)、情報(情報遮断時の安否確認等の対応)、場所(避難先や福祉避難所としての対応)、最後に資金を考える必要があると訴えているが、初めから100点のBCPが策定できるわけではない。最初は課題に対してメリハリを利かせた対策を打っていき、徐々にレベルをあげていく必要がある」

■トイレ対策が重要

――ファーストステップとしてまず確認すべきことはありますか。

「停電・断水時に最初に困るのがトイレ。まずはトイレ対策から見直してほしい。能登半島地震でも上下水道が寸断され、事前に対策を取っていた事業者でも大変苦しい状況を目の当たりにした。トイレができないと人は水や食事の摂取を我慢してしまう。そうすると体力低下や病気のリスクなど2次災害の可能性が高まる。トイレ対策は命を守る対策と考えていただきたい」

――具体的にトイレ対策とは。

「市場には既に様々なタイプの災害用トイレがある。一番簡単なのものはトイレに被せて使用するもの。用を足した後に凝固剤を入れて袋を縛るだけで、一番価格も安く取りいれやすい。しかし、高齢者には袋をセットしたり縛る作業が難しい場合もある。簡単に処理できる『ラップポントイレ』など、施設に合ったトイレを選定し最低一週間分ほど準備しておくことが肝になる」

――その他にも重視する点はありますか。

「人繰りをどうするか。ライフライン停止対策を取っていても人がいなければ福祉サービスはできない。施設が大きな被害を受けなかった場合、職員を十分参集できるか、適宜応援職員や地域の力を借りられるか把握し関係を作っておくことが重要。過去の災害では、福祉施設が無事だと地域住民が大勢押し寄せている。また施設自体が被災すると、他の施設に避難せざるを得ない。そうした状況に備え、福祉避難所のマニュアルを作成して地域と訓練したり、避難先となる他の福祉施設を決めておき、一番苦しい時期を乗り越えていく必要がある」

(2024年8月10日号掲載)