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オピニオン

東北大学 災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門 津波工学研究分野 教授 今村 文彦 氏

日本主導で進む防災技術のISO化

防災分野をISO化しようという動きが最終段階にある。2015年に仙台で開催された「第3回国連防災世界会議」を契機に、東北大学・災害科学国際研究所と(一社)日本規格協会、三菱総合研究所が中心となって規格化を進めてきた。地球上で災害が頻発化する中、世界に防災・減災先進国である日本の技術を輸出するきっかけになると期待されている。防災ISOを中心となってまとめている同研究所 災害評価・低減研究部門 津波工学研究分野 教授の今村文彦氏に話を聞いた。

地震計・防災食・金融・情報分野で先行

――防災の国際標準化に貴学が中心となって取り組んでいます。

「本学では2007年から地域社会の防災・減災に関する研究を進めてきました。そうした活動を進めていたさなかに東日本大震災で被災したことを受け、被災地の復興・再生への貢献と自然災害科学の最先端研究推進のため、124月に災害科学国際研究所(IRIDeS)を設立しました。15年には仙台で開催された『第3回国連防災世界会議』に全面的に協力し、17年から(一社)日本規格協会などと共に防災の国際標準化に取り組んでいます」

――防災ISOの検討背景を教えてください。

「近年、地球温暖化などを理由に世界的にも災害が頻発化しており、持続可能な社会の実現や安全保障の観点から防災・減災分野への関心が高まっています。国連防災会議が行われた15年には、国連でSDGS(持続可能な開発目標)やパリ協定(気候変動問題に関する国際的な枠組み)が採択されましたが、それと同時に仙台防災枠組みも採択されています。レジリエントな(回復可能な)社会構築にはそれぞれの枠組みの連携が重要だと説かれており、19年からの感染症の流行でよりその重要性への認知が国際的に広がっています」

――日本主導でISO化する理由は。

「国際的にみても日本の災害対応は先端をいっています。それは行政の取り組みだけでなく民間のシステムや製品に関しても同様です。特に近年、災害が複合化・激甚化する中で民間の力が求められており、実際に国内では行政と民間が連携する事例も増えてきています。一方で、これまでの行政中心の防災・減災から民間を巻き込んだ取り組みにするには、防災・減災に関するビジネスモデルの見直しも必要になると考えます。国連での枠組みはあくまで国同士。ISO化することで日本の優れた防災・減災技術をしっかりとビジネスにつなげることができると期待しています」

■防災を輸出産業に

――23年の規格発行を目指されていましたが現在の進捗状況を教えてください。

22年に現状と課題を洗い出したテクニカルレポート『ISOTR6030』を採択し、23年に仙台防災枠組みをもとにした基本枠組み『ISO37179』を発行する予定でした。しかし、想定していた以上に国際的な関心が高く、対象となる災害の指定範囲の選定など規格の定義や目標の特定に時間がかかっています。現在、最終草稿の段階まで進んでおり、25年の早い段階には発行できるとみています。その中でも個別規格である地震計システムに関する規格『ISO37174』が先に発行されました」

――地震計以外にはどのような個別規格が検討されていますか。

「防災食やリスクファイナンス、防災情報などでも既に規格化を進めている段階です。このほかにも避難所で必要になる『生活』や『衛生』は重要だと認識しています。特に衛生環境の悪化は2次被害の発生原因となるなど、避難所での運営課題となりやすいです。国内では既に様々な製品が出ています。そうしたノウハウを共有し、標準化していくことが重要になると思います」

――防災ISOが発行された後に期待することは。

「先に申し上げた通り、日本の災害対応向け製品やシステムはレベルが高い。海外でも役立つケースは多々あります。しかし、現状そうした優れた技術を客観的に評価できなかったり、知るためのフックが限られている。防災ISOを進めることで、防災・減災分野を輸出産業として位置づけていきたいです」

(2024年8月10日号掲載)