1. トップページ
  2. オピニオン
  3. 経済産業省 製造産業局産業機械 課長 安田 篤 氏

オピニオン

経済産業省 製造産業局産業機械 課長 安田 篤 氏

我が国工作機械産業の競争力強化に関するルール形成戦略に向けて

我が国の工作機械産業は、長い年月を経て培ってきた技術とノウハウにより、高い精度や耐久性を有する工作機械を生産・出荷しており、グローバルでの競争力が高く、また、自動車、電機・電子、産業機械といった幅広いユーザーが高品質な製品を製造するために不可欠な事業基盤です。

1974年神奈川県生まれ。東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻修了。98年に通商産業省(現・経済産業省)入省。米国留学(ハーバード大学ケネディスクール)、製造産業局産業機械課ロボット政策室長、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) IoT推進部長などを経て21年7月から製造産業局産業機械課長(現職)

近年、DXGXなどの世界的なメガトレンドへの対応が必須となる中、とりわけ我が国は生産労働人口や熟練工の減少といった構造的問題が今後一層深刻化することもあり、従来、工作機械の使用過程において熟練工に依拠するところの大きかった製造工程の構築、生産実行、品質管理などの対応について、工程間を一気通貫で効率的にデジタル化していくことがグローバルで求められております。

欧州や北米などの先進国や一部の新興国では、工作機械の主要ユーザーである自動車や半導体、航空機等の主要業界において、部品加工に必要な設計図の3D化や、三次元の形状モデルに構造特性を加えた3DAモデル等の活用、デジタルツインによる工程設計の最適化、工程間やサプライチェーン間のデータ連携が進んでおります。日本でも、大企業を中心に先進的な取り組みが進められているものの、ユーザー企業の心理的ハードルやデジタル化への対応の遅れ、データ連携のあり方の検討が必要であることなど、様々な課題が存在しております。

こういった状況を踏まえると、生産プロセスにおいて使用する周辺機器やソフトウェアとの連携など、サプライチェーン全体でデジタル対応を進めていかなければ、デジタルプラットフォームや関連するデジタルツールを掌握する海外事業者にビジネス上の優位性を奪われ、我が国工作機械産業の国際競争力に影響を及ぼすおそれがあります。政府においては、経済安全保障推進法に基づき、工作機械・産業用ロボットを特定重要物資として指定し、国内生産能力強化に向けた支援を進めておりますが、こうしたデジタル化への対応も、将来的には同分野における海外依存リスクを増減させる要因になり得ると考えております。

このような問題意識の下、工作機械の主要ユーザーにおける生産現場の実態に即したデジタル対応策として、開発から生産までのデータ連携に必要な情報の整理及びその連携形態、情報共有の前提となるセキュリティ環境の整備などについて検討を深めて参りました。今年度も、日本工作機械工業会メンバーや大学・シンクタンクなどの専門家の協力を得つつ、検討を深化させるとともに、主要ユーザーである自動車業界との連携を模索しながら具体的なアクションに向けて詳細検討を行うことを計画しております。

(2024年5月25日号掲載)