オピニオン
米中対立の行方と日本の外交
- 投稿日時
- 2021/08/23 16:33
- 更新日時
- 2024/08/19 13:21
冷戦終結からわずか30年しか経っていないのに、米中の「新冷戦」が始まろうとしている。目下の米中対立が「新冷戦」ではないとの指摘も少なくないが、両者による覇権争いの基本的構図を考察すれば、明らかに「新冷戦」の入り口に差し掛かっている。
東京財団政策研究所 主席研究員 柯 隆(かりゅう) 氏
かつてのソ連と比較しても、今の中国の国力はソ連よりも遥かに強いだけでなく、国内においてナショナリズムは予想以上に高揚している。米ソ対立の時代と比較して違う点も見受けられる。それは経済のグローバル化である。一部の研究者は経済のグローバル化が戦争を阻止する役割を果たすと指摘している。そうかもしれないが、国家の覇権によるメリットが経済グローバル化の利益を上回ると判断されれば、国家覇権の維持が優先される。
むろん、米中対立はかつての米ソ対立とまったく同じように展開されるとは思えない。経済について、ハイテク技術をめぐって米中は激しく対立しているが、汎用品についてアメリカは中国からの輸入に頼っている。すなわち、米中は完全にディカップリング(分断)される可能性が低い。だからこそ、バイデン大統領は中国を脅威ではなく、もっとも深刻な競争相手と定義している。
米中が競争を続けるならば、競争のためのルールが問題になる。長い間、アメリカの対中エンゲージメント政策は中国に既存の国際ルールに従わせるために、国際社会に受け入れる考えだった。米中対立が激化する背景には、中国が既存の国際ルールに十分に遵守していないことがある。
しかし、根本的に考えれば、米中対立は単なるルールの問題だけではない。問われるのは自由と法治と民主主義を重視するアメリカは人権が十分に尊重されない中国の台頭を認めるかどうかである。中国政府のいう通り、香港、チベットと新疆の問題は中国の内政である。アメリカはそれについて口頭で批判するが、真剣に介入しようと考えたことがない。
問題は基本的人権を無視する中国が国際社会のリーダーになろうとして、アメリカはそれを許すかどうかである。米中対立が激化する背景に米中の相互不信がある。これこそ問題の本質ではなかろうか。
■乱世の国際社会
世論調査を専門に行う米国シンクタンクPew Research Centerの調査によると、76%ものアメリカ人は中国のことをよく思っていないといわれている。アメリカ人の中国不信は国民レベルに浸透している。このことは問題の深刻さを物語っている。
一方、日本の外交はかねてから事なかれ主義の色彩が強い。日中国交正常化前においても、日本では、かつての戦争で中国に迷惑をかけたので、中国の経済建設に協力して国交正常化を模索する動きが絶えずあった。
しかし、これまでの20年間の日中関係を振り返れば、情勢が大きく変化した。Pew Research Centerの調査によれば、8割以上の日本人は中国のことをよく思っていないといわれている。民主主義の国では、政治が世論に左右されやすい。近年、日本の政治は徐々に保守化しているが、それは中国の台頭に対する心配によるところが大きい。
あらためて日中関係の本質を考えてみよう。国際文化会館の建設に尽力し名著「上海時代」を残した松本重治氏は、日中関係は米中関係であると論じられていた。すなわち、日中関係が単独で決まるものではなく、米中関係によって決められるものということである。この見方は今でも正しいと思われる。
あらためて国際社会を鳥瞰すれば、今は乱世であるといわざるを得ない。乱世とはリーダーが不在で、秩序が乱れているという意味である。そのうえ、戦後、構築されてきた国際機関の多くはもはや機能しなくなった。その一例をあげれば、コロナ禍に対処しなければならない世界保健機関の対応は失態続きである。
結論的にいえば、今後の日中関係を展望するうえで、きちんと米中関係のあり方を精査する必要がある。一部の評論家はかつてニクソン大統領が突如として中国を訪問し、米中急接近により世界情勢に大きなショックを与えた経験から、アメリカは再び対中政策を転換する可能性について警鐘を鳴らしている。
アメリカの政策転換の可能性を完全に排除することができないが、中国は人権を無視した強権政治を改めないと、米中の和解は簡単に実現できない。そのなかで、日本は経済的に中国に依存しているが、安全保障について日米同盟に頼っている。日本外交のあり方が問われている。