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オフィス環境とホワイトカラーの生産性、関係は?

投稿日時
2021/07/16 09:28
更新日時
2024/08/19 13:19

働き方から逆算したオフィス環境を

テレワークの普及に伴い、オフィスワーカーの働き方が急速に変化している。オフィス環境を見直す企業も増えているが、その際に気になるのが働き手の生産性に与える影響。オフィス環境とホワイトカラーの生産性にはどのような関係性があるのか。オフィスの生産性やテレワークに詳しい関西学院大学総合政策学部の古川靖洋教授に聞いた。

■プロフィール
(ふるかわ・やすひろ)1962年神戸市生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程修了、商学博士。2003年~関西学院大学総合政策学部教授。2007~2008年ワシントン大学客員研究員。主な研究分野は計量経営学、経営戦略論、オフィスの生産性。著書に『テレワーク導入による生産性向上戦略』(千倉書房)など。

関西学院大学 総合政策学部 古川 靖洋 教授

 ――オフィス環境の改善は、働き手の生産性向上につながるのでしょうか。

 「オフィス環境と生産性は、残念ながら『直接的には』関係がないと考えています。動機付け要因に関する有名な研究に『ハーズバーグの二要因理論』というものがありますが、環境要因の改善は一時的な不満解消にはなるものの、本当の意味でのモチベーション向上にはつながらないという結果が出ているんです」

「直接的には」というと、間接的には関係するということでしょうか。

「ええ。あくまでも『間接的な関係』にとどまるということですね。そもそもホワイトカラーの生産性を測る画一的な指標はなく、財務指標ベースでの可視化はできません。そこで我々は、オフィスコンサルを手がけるエフエムソリューションと長期にわたり共同研究を行いました。そして生産性を測る指標として①創造性の発揮(どれだけアイデアを生み出せたか)②情報交換度(各人がどれだけ情報交換できているか)③モチベーションの3つを設定しました。どのような要因が指標にとってプラスかを、オフィス環境要因やそれに従属する要因を含め質問するわけです」

「そうした研究結果から、オフィス環境は『3つの指標の必要条件だが十分条件ではない』ということがわかりました。標準的なオフィス環境を提供しなければそもそも生産性アップは望めない一方で、オフィス環境を闇雲に整えても生産性は上がらないと。要するに、何のためのオフィス改善かを見据えねば意味がないということです」

「これを行えば生産性が上がる」というような絶対的な施策はないと。

「ある程度の傾向はありますが、最適解は企業によって違うため画一的なことは言えません。ただ往々にして、上が一方的に決めたり単に流行に乗じた施策は効果が薄いことが多い。数年前からフリーアドレスデスクが流行っていますが、これも形式的に実施したのではワークフローをいたずらに混乱させてしまいます。例えば目標管理制度をジョブ型に変えた場合、成果で評価を測るわけですから従来の『対向島型』のオフィス配置である必要はない。対向島型は上が指示して下から成果物が戻ってくるというジョブの流れを受けたものなんですね。しかしジョブ型であれば働く場所はさておき成果が重視されますから、フリーアドレスでもテレワークでも良いということになるわけです。働き方を変えるからオフィス環境を変えるのが正しい形。目的を見据えれば目指すオフィス環境も見えると思います」

 働き方とオフィス環境が合致している企業例は。

「野村総合研究所の横浜ランドマークタワーでしょうか。調査業務が多い企業ですが、従来の働き方では紙の資料が多く、デスクに資料が溜まって効率も落ちるという課題があったようです。そこで会議資料はオンライン配信で、紙を配る場合にもすぐに回収ということを徹底して実行しました。それによってオフィススペースも減り、そうした形が定着すると働き方も変わる。もちろんアーカイブなどのインフラやルール作りが必要ですし、定着まで時間はかかったようですが」

■テレワークで変わるオフィス環境

急速に拡大したテレワークについてはどう見られますか。

「個人的には推進派ですが、多くの方が考えるテレワークは在宅勤務とイコール。すなわち家かオフィスの2択という極端なことをテレワークだと捉えています。従来提唱されてきたテレワークはICTを使ってオフィス以外の場所から働くということで、例えば子供の送り迎えに柔軟に対応できるなどワークライフバランスの向上を見据えていた。それが感染症対応に迫られ、極端な形になってしまったのが現状です」

そうした働き方は今後も根付いていくのでしょうか。

「現状のテレワークが極端だとは言いましたが、一方で感染症が終息した後に100%出社というこれまた極端な働き方に戻るかというと、そうならないのではないかと。テレワークに労務管理やコミュニケーションが難しいという指摘があるのは事実です。ただし多くのアンケート調査でも、生産性や働きやすさが『上がった』『変わらない』とする回答は『下がった』という回答よりも多い。要するに、できないと思われていたことが実はできると判明したことがこの1年の成果です。テレワークが多くの働き手の働きやすさやモチベーションにつながるのなら、それを選べるようにするのが企業にとっても必要なことだと思います」

そうなると、オフィスの形も変わっていきそうですね。

「ええ、働き方があってオフィスがあるわけですから。何があっても今まで通りの働き方をするならオフィスも変える必要はないですが、柔軟な働き方が実現できると周知された今、それが企業のコストダウンや働き手の効率アップにつながるのであれば、最終的には働き方も変わっていくのではないかと思います。仮にテレワークと従来の働き方が併用になれば、オフィスは面積を縮小してフリーアドレスになるでしょう。いずれにせよ、企業は働き方から逆算したオフィス環境を整えるべきでしょうね」