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オピニオン

働き方改革に必要な考え方と戦略

投稿日時
2021/06/25 14:55
更新日時
2024/08/19 13:19

新型コロナウイルスの蔓延によって、日本企業は弱点を露呈し、企業と労働者双方の視点から「働き方改革」の推進が待ったなしで迫られるようになった。

プロフィール
1954年生まれ。兵庫県出身。主な研究分野は「個人を生かす組織・社会づくり」。神戸大学大学院経営学研究科修了。三重大学人文学部助教授、滋賀大学経済学部教授を経て、2004年から現職。今年6月、PHP新書から「同調圧力の正体」を発刊した。

同志社大学 政策学部 教授 太田 肇

テレワークの利用率を他国と比較すると、アメリカ、イギリス、ドイツなどでは5割以上を占めているのに対し、日本では31%3分の1に満たない。一方、仕事の生産性についての主観的な評価をみると、日本では「かなり落ちた」または「やや落ちた」という人が48%と半数近くに達し、アメリカ、イギリス、ドイツなどを大きく上回っている(=グラフ/野村総合研究所「Withコロナ期における生活実態国際比較調査」20207月)。

さらにわが国ではテレワークで「上司の監視が強まった」とか、「部下の評価が難しくなった」というような問題も指摘されている。

こうした問題の背景には、集団的な業務が多く、一人ひとりの仕事の分担が明確でないという日本的なマネジメントがあると考えられる。個人が組織・集団に溶け込み、「一丸」となって仕事をする日本型のスタイルが、コロナ禍のもとでのテレワークと相性がよくないのである。

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テレワークだけではない。政府が推奨している副業・兼業の推進にしても、ワーケーションや選択的週休3日制の導入にしても、「個人の未分化」すなわち組織や集団に個人が溶け込んでいる日本企業の仕組みが大きなネックになっている。

■動機付けの 仕組みを

もっとも、この問題はコロナ禍以前から表面化している。ワークエンゲージメント(仕事に対する熱意)を国際比較した複数の調査結果を見ると、日本人のワークエンゲージメントは世界最低水準にある。その一因は、やはり一人ひとりの分担が曖昧で集団でこなす仕事が多い点にあると考えられる。

集団での仕事が多いと、周りのペースに合わせる必要があるため個人の裁量が小さくなる。また自分だけがんばっても成果があがらず、報酬にもつながらない。そのため前向きなモチベーションも、仕事を効率化する意欲も生じにくい。

個人と組織・集団が一体となった日本型組織は日本企業の強みだった。ところが技術的・社会的な環境の変化によって、逆に弱みとなるケースが増えてきたのだ。1990年代半ばから続く日本の労働生産性や競争力の国際的な地位低下も、それと無関係ではない。

したがって日本企業でも仕事の「分化」、すなわち一人ひとりの仕事を分けることが必要になる。とくに物流業界の場合、通常業務を迅速かつ正確にこなさなければならない仕事が多いので、責任を持って自分の役割を果たすように動機づける仕組みづくりが求められる。

問題は、どのように分けるかである。私は3種類の分け方を提示している(太田肇「「超」働き方改革」ちくま新書)。

1は「職務型」であり、いわゆるジョブ型雇用はこれに当たる。欧米では一人ひとりの役割、求められる能力・資格、報酬、付加給付などが職務記述書に細かく記載されており、社員はそこに記載された範囲の仕事に責任を負う。各自が職務をこなすことで組織全体が機能するようにシステムが設計されている。

2は一人ひとりの専門で分ける「専門型」である。たとえば製品開発や各種プロジェクトなどにおいては、各分野の専門家がチームを組んで開発やプロジェクトの遂行に当たる。メンバーは自分の専門の範囲で貢献し、責任を負うことになる。技術の高度化や消費者ニーズの多様化によって、専門型の人材が活躍する機会が増えている。

3は「自営型」であり、組織に属しながらも半ば自営業のように、ある程度まとまった仕事を一人で受け持つ。業種によっては周辺業務をアウトソースしたり、ITで効率化したりすることで個人の守備範囲を広げ、以前なら数人の集団で行っていた仕事を単独でこなすようになったケースがある。

■ハイブリッド型が 主流に

近年、大企業を中心に職務型(ジョブ型)の導入が検討されているが、日本企業、とりわけ中小企業にはなじみにくく、全面的に取り入れることは難しい。

まず処遇面の課題がある。職務型では社内でその職務が不要になった場合、最終的には職を失うことになるが、雇用保障の厚いわが国では容易に社員を解雇できない。またスキルアップして職務のグレードが上がらないかぎり、年数がたっても給料は上がらないため、年功的な風土が根強いわが国では受け入れられにくい。

つぎに仕事の面の課題として、そもそも欧米で職務主義が普及したのは少品種大量生産が主流の工業社会であり、その時代には経営環境も安定していた。

ところがポスト工業社会に入った現在は、技術革新が急速に進み、経営環境の変化も激しい。そして社員の仕事内容もしばしば変化する。したがって仕事内容を細かく定義して契約する職務主義は柔軟性に欠け、変化に適応しづらい。とくに中小企業では一人で複数の仕事を受け持つことが多く、一つの職務だけ担当すればよいというわけにはいかない。

このような理由から、職務型が導入できるところは、経理、財務、人事、法務など特定の部門に限定されるだろう。

一方、自営型は仕事の範囲も内容も比較的柔軟に対応できるので、日本企業にはなじみやすいと考えられる。具体的には企画、開発、デザイン、営業などの部門に適合しやすい。また必ずしも雇用という就業形態に限定されず、独立して業務委託契約を結ぶといった選択肢もある。実際にコロナ禍でテレワークを取り入れたのを機に、開発や営業の社員を本人同意のうえで業務委託に切り替えた企業も見られる。

いずれにしても、いずれかのタイプに全面的に置き換えるのは現実的でなく、これまでのスタイルも含め、複数のスタイルが社内に存在する「ハイブリッド型」が主流になるのではなかろうか。

ただ、第1~3のどのタイプを取り入れるにしても本人に選択させるか、職種を限定して、あるいは関連会社を設立するタイミングなどに試験的に導入し、状況を見ながら対象を広げていくことが望ましい。