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NAC Global Co., Ltd. Japan Desk Manager 金山 尚永 氏/NAC名南コンサルティング 深圳事務所 総経理 浜田 かおり 氏/信金中央金庫(NAC国際会計グループ出向)審議役 成田 浩之 氏
- 投稿日時
- 2025/08/07 13:07
- 更新日時
- 2025/08/07 13:10
深圳の最前線 、戦略的パートナーに高まる期待
世界中の起業家がしのぎを削り、EV、AI、ヒューマノイドと話題に事欠かない「アジアのシリコンバレー」深圳市。全国の信用金庫のセントラルバンクである信金中央金庫からNAC国際会計グループに出向している審議役の成田浩之氏、「日系中堅・中小企業のグローバル化支援」をミッションとして香港で設立されたNAC国際会計グループの深圳法人総経理の浜田かおり氏、同グループ香港駐在のJapan Desk Managerの金山尚永氏に、現在の深圳の実情を聞いた。

【写真左】NAC Global Co., Ltd. Japan Desk Manager 金山 尚永 氏
【写真中央】NAC名南コンサルティング 深圳事務所 総経理 浜田 かおり 氏
【写真右】信金中央金庫(NAC国際会計グループ出向)審議役 成田 浩之 氏
――深圳の今の状況を教えてください。
浜田(NAC国際会計グループ) 中国全体で不動産不況や景気の低迷が進んでおり、深圳も例外ではありません。昨年実施した日系企業へのアンケートでは、事業拡大が2割、維持が6割、縮小が2割という状況です。コスト削減への圧力は強まっている一方で、環境対策やIT関連といった必要不可欠な分野では、一定の投資が継続されています。深圳市には全国から若者が流入していることもあり、小売業は比較的堅調で、日系の飲食店なども一定の進出が続いています。日系製造業は従来、OA機器や光学部品を中心としたサプライチェーンを構築していましたが、BYDなどの中国EVメーカーやテック企業との取引へ用途転換に成功している企業もあります。一方で、長年同じ製品を作り続けた中堅企業等では、これまで地元企業との取引や技術提携には積極的ではなく、日系企業が深圳の急速な発展についていけていないという感覚があります。成熟した日本市場の感覚に引きずられ、思い切った技術投資に踏み切れなかったと悔やむ経営者の声もありました。
成田(信金中央金庫) 深圳には、世界的なテック企業からスタートアップ企業まで、さまざまなレイヤーの企業が集積しています。中国政府は「低空経済(Low-altitude Economy:LAE)」を推進しており、深圳市内には1700社を超えるドローン関連企業が存在し、空撮・農業・測量などの分野で熾烈な競争が行われ、日系企業もビジネスチャンスとして視察等の動きが活発化しています。また、AIやバイオ、ロボット分野といった高付加価値産業にも、日系企業がビジネスの機会を狙っています。
――モノづくり企業についてはいかがでしょう?
成田 中国の先進企業は、EVやロボットなどをスピード感をもって開発する力があります。ただし、それらをユーザーに届け、安定稼働させて納得感ある製品に仕上げる部分では課題が残ります。たとえばバッテリーの性能やEVの静粛性、ロボットの安定稼働といった点で、日本の中小企業が持つ緻密な技術や“真似できない職人芸”に対する期待は高まっており、戦略的パートナーとしての関心が高いです。
――日系企業に動きは出ていますか。
浜田 中国に進出している日系企業の多くは、地方政府の出資実績作りの思惑もあって、個別に現地法人を立てて複数拠点化しているケースが見られます。これにより管理コストがかさんでおり、最近ではこうした法人を統合する「組織再編」の動きも進んでいます。
■米中対立で、日系企業への対応は柔軟に?
――米中対立が激化していますが、日本企業への期待感などに変化はありますか。
浜田 日系の商工会議所などが地方政府との政策交流会を実施していますが、深圳でも、総領事はじめ日系企業幹部等が中国側政府担当者や副市長などと直接対話する機会があります。フレンドリーな他地域に比べ、かつて深圳は非常にビジネスライクで、「ホームページに記載してあるのでご覧ください」といった事務的な回答もあったのですが、米中対立の長期化や若者の就職難等経済悪化の危機感からか、最近では、些細な質問にも真摯に答えるようになっており、対応の変化ぶりからも状況の深刻さが伺えます。
成田 浜田さんの言うような日本からの投資再評価の動きが感じられます。地政学リスクと直接の因果関係があるかは断言できませんが、中国企業だけでは乗り越えられない課題に対して、日本企業の技術力や信頼性への期待は確実に高まっています。
――生産移転については。
浜田 中国からベトナム、インドネシア、タイなどに生産拠点を移すケースも出ていますが、実は中国側からこれらの国への対外投資には多くの制約があります。表向きは奨励されているように見えても、実務上は手続きが煩雑で、資金を出すのは極めて困難になっています。
成田 我々の現場でも、ASEANへの生産移転を検討する動きがみられます。中国で製造してアメリカへ輸出するという従来のビジネスモデルはもはや成り立ちづらくなっています。とはいえ、中国で築き上げたサプライチェーンをそのまま他地域に持ち出せるかというと、そう簡単ではありません。それでも、BCPの観点や今後の経済成長に伴う市場の拡大等を見据え、生産移転を検討する日本企業の姿がみられます。深圳を含む中国市場への対応と併せて、このような支援の相談があった際は、各信用金庫やNAC国際会計グループ様等と連携して支援していきます。
――香港の役割も重要化していますね。
金山(NAC国際会計グループ) 人民元の国際化はいまだ発展途上であり、(中国内地では)外国からの投資を表面的には歓迎しつつも、国外との入送金手続きには非常に厳格な規制がかかっています。これは企業の事業運営上の大きな壁となっています。香港に現地法人を持ちながらも、その機能を十分に活用できていない企業も少なくありません。香港は本来、中国本土へのゲートウェイとしての機能があるわけですから、それをうまく活かせば、事業運営のスムーズ化が期待できます。中国や香港に対して得体の知れない恐怖感や先入観を持たず、冷静にビジネスとしての条件を見極めてほしいと思います。