オピニオン
製造業DX実現のカギ~第26回
- 投稿日時
- 2022/12/21 08:56
- 更新日時
- 2024/08/19 13:17
人の動作や作業負荷をデジタルで再現
前号に引き続き、動作シミュレーションについて解説させていただく。PLCとの連動では、「PLCなしでのプログラム検証」ができる。このため、ロボットシミュレーション同様、シミュレーションモデルとプログラムデータのみで、製品仕様違いによる加工差異の再現や、メンテナンスモードや非常停止モードの再現、連続生産の再現を実現する。
特にメンテナンスモードや非常停止モードの実証は実機で行った場合危険を伴うことが多く、シミュレーション上で検証し、懸念点を事前に洗い出しできることは、エンジニアの安全性向上だけではなく、精神的な負荷も大きく減らすことにつながる。
実機PLCとシミュレーションの連動も行えるため、実際の設備がまだない段階から、PLCのハードウェアに依存する要素も含めてデバッグが行える。そのため、生産ラインの開発期間短縮に大いに寄与する。
さらに、汎用的な通信仕様であるOPC規格に準拠しているため、PLC以外にもHMI(タッチパネルなど人と機械が情報を伝達するインターフェース) やS C A D A(監視制御システム)にも適用が可能だ。
機械だけではなく、人の動作や作業性、作業負荷なども検証することができる。人のモデルも複数用意されており、動きもPC上で簡単にシミュレーション上に反映させられる。このシミュレーションを行うことで、想定されるタクトタイムなどだけではなく、体にかかる負荷なども定量的に予測できるため、最適な人員配置の検証や、自動化すべき作業の検証、最適な治具の配置などにも活用可能だ。
さらに、VR(仮想現実)との連動もできるようになってきた。VR対応のHMD(頭部装着ディスプレイ)やサイバーグローブと組み合わせることで、工具を持った状態での挿入性、ワークの移動性などを事前検証、工場全体を自由に移動して移動や保全性に問題が無いかどうかの確認もできる。バーチャルならではの使い方として、安全柵内に侵入してのロボット動作の確認や、高所・高温など実際には人が危険で立ち入れない場所においてでさえ、各種検証を行えるというメリットがある。
■未来予測が大きな利益をもたらす
日常生活を振り返ってみると、私たちの生活は「デジタルツイン」に満ち溢れている。例えばグーグルマップは、リアルの地図をデジタルにコピーして、携帯電話などの移動情報や、公開されている渋滞情報などのリアルタイムデータを組み合わせて未来予測を行い、単なる経路案内ではなく、最短到着時間、最短距離などの目的に応じた案内をしてくれる。しかもデジタルにコピーする地図は、衛星写真、地図データに加え、実際に車で走行しながら撮影したデータなども組み込み、情報の厚みを持たせている。
アナログ行動と組み合わせた例では、飲食店探しが挙げられる。今ではWEBなどに好みの条件を入力し、お店を探す方も多いだろう。逆に言うと、WEB上で検索できないお店は見つけることが困難だ。
そのため、飲食店を開店する際には、HPやSNSの他に、各グルメサイトへの掲載がオーナーの常識となっている。しかし、実際にお店に行ってみると「個室」といっても薄い仕切りがあるだけだったり、「落ち着いた雰囲気」を特徴としていても、隣で学生が大声で騒いで会話ができなかったりしてしまう。その様なお店は口コミ機能やコメントというアナログ行動を反映するリアルデータにより、デジタルデータに反映される。
電車をはじめとした乗換案内もデジタルツインの一例である。乗換案内はJR、私鉄、地下鉄などの路線図と時刻表というデータに加え、乗換に要する時間などのアナログデータもデジタル化され、活用されている。そのデータを基に、出発地と目的地、出発時刻(到着時刻)を指定するだけで、複数のルートを瞬時に算出してくれる。
例えば新大阪駅から東京駅の移動は、新幹線でおおよそ2時間30分で到着することがわかりきっているため、検索しない人もいるだろうが、新大阪駅から下北沢駅の場合はどうだろうか。駅名や路線がわかっている目的地でも、1~2回乗換が発生するだけで乗換案内を活用する方も多いのではなかろうか。
本来、経路案内やおいしいお店探し、乗換案内などよりも、未来予測がもたらす利益が莫大で、さらに予測精度が必要なはずの工場のほとんどは、この「デジタル」を作る工程を飛ばしてしまうため、未来予測さえ行えていない。これは絶対行うべきであり、国として製造業の競争力を向上させるために、「工場建設の際はデジタルとセットで取り組むこと」といった法律を作るべきだというぐらい重要だと考えている。
(2022年12月25日号掲載)
チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。