オピニオン
製造業DX実現のカギ~第19回
- 投稿日時
- 2022/09/08 10:26
- 更新日時
- 2024/08/19 13:22
サプライチェーンのデジタル最適化
製造業DXには大きく二つの流れを考える必要がある。一つは製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売までの全体の一連の流れにおいてDXを実現する「サプライチェーンのDX」。もう一つは商品企画から、製品設計、工程・設備設計、ライン設置、生産準備を経て、生産までの一連の流れにおいてDXを実現する「エンジニアリングチェーンのDX」である。ここでは前者について解説させていただく。
多くの工場では、製品の原材料や部品の調達を行う「調達部門」が存在する。製造現場から依頼が上がってくる購入品を、まとめ、仕分けして、納期や価格を発注先と調整しながら滞りなく購入し、入荷したものを依頼元にしっかり引き渡す段取りまでを実施する。このように説明すると一見シンプルな業務に見えるが、購入品の種類は企業によっては数万種類にも上り、時には発注が後にも先にも1回限りというものも多い。
もちろん私がビジネスを行っている「ロボットSIer」「装置製造業」も例外ではなく、日々多くの調達を行っている。そして調達する先も多岐にわたるため、その企業にあわせた発注が必要となってくる。発注方法も多岐にわたり、メール、指定の注文書、WEBからの依頼、時にはFAXも活用する。このように複雑かつアナログな処理を行いながら、同時に自社の管理システムにも発注状況を入力し、管理を行っている企業も多い。
想像するだけでも膨大な工数と綿密な作業が必要であることがご理解いただけると思う。この説明はほんの一部ではあるが、この先の製造、在庫管理、配送、販売までも含めて、プラットフォームの構築とデータ蓄積により効率化を行い、新しい価値を生むのが「サプライチェーンのDX」である。
一例として、ミスミグループ(以下ミスミ)の「meviy(メヴィー)」というサービスを紹介させていただく。ご存知の通り、ミスミは約3100万点もの品揃えを誇り、必要な生産材をワンストップで提供している。FA装置用部品や金型用部品は、サイズをミクロン単位で指定することができ、サイズ違いまで含めるとバリエーションは800垓(一兆の800億倍)にもなるという。メヴィーでは金型から切削加工品、板金部品までを製品によっては最短即日出荷で対応する。
このサービスの凄さは徹底したデジタルデータの活用による無駄の排除と、スピードにある。使い方は至ってシンプルで、発注するエンジニアは発注したいものの3次元CADデータを、プラットフォーム上にアップロードする。そうすると、AIが自動で解析し、最短3秒で見積りと納期を回答する。問題がなければそのままWEBから発注する、これだけで見積もられた金額と納期で部品が届くのだ。材質を変えると、それに合わせた金額に即時に更新されるし、驚くことに部品によっては表面処理や公差等級まで指定できる。
■効率化に繋がるデータ活用
従来であれば、発注先にあわせて2次元CADに図面を描き起こしたり、電話やメールで補足説明をしたりする必要があった。内容によっては在庫の確認をしたり、表面処理だけ別企業に依頼したりするなど、見積りだけで膨大な工数がかかる。この工程を、人手をかけずに一瞬でやってのける。これにより、設計者は納期を把握しながら設計業務に従事でき、必要なタイミングギリギリまで設計に集中することができる、調達部門の業務負荷も減らすことができる。発注内容の行き違いによる手戻りも減る。これは、ミスミ自身だけではなく、サービスを使う側の工程さえ変えてしまうほどのインパクトを持っている。
これは、ミスミが膨大な加工に関するデータ(時間・単価)を持っていて、それをプラットフォームに落とし込むことができたからこそ実現している。
ここから先は推測になるが、見積りに必要な時間や原材料費データも、最初から精緻な値で積み上げることは難しかったと思われる。しかし、サービスが使われれば使われるほど、データが蓄積され、見積りに必要な原価や時間の積算精度は向上していくはずである。市場ニーズも手に取るようにわかり、場合によっては競合他社の納期や費用のデータも推測し、適正な市場販売価格の計算にも活用できるかもしれない。売れる製品、利益が出せる製品がわかると、今度は自社が注力すべきポイントも自然と見えてくるであろう。
まさに、プラットフォームの構築とデータ蓄積により効率化を行い、新しい価値を生んでいるのだ。ミスミにとっても、購入する側にとっても「サプライチェーンのDX」の一つの事例といっても良いだろう。
大企業だからできたサービスだと思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、自社の調達方法や在庫管理、販売方法を含めたサプライチェーンを、今一度「データ」という視点で見直してみて欲しい。効率化の種や、新しい価値を生み出すヒントがどこかにあるはずである。
(2022年9月10日号掲載)
チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。