オピニオン
タイ投資委員会(BOI)事務局長 ナリット・テートサティーラサック 氏
- 投稿日時
- 2025/03/31 10:27
- 更新日時
- 2025/03/31 10:30
12月に半導体委員会設立、FDI誘致強化
サプライチェーンの見直しや中国依存から脱却する動きが世界的なものとなっている。生産移管やチャイナプラスワンの流れの中で、ASEAN諸国は大きな恩恵を受けると考えられている。過去には日系製造業の独壇場であったタイにも、各国から熱い視線が向けられているようだ。外国からの投資振興を担う政府機関・タイ投資委員会(BOI)事務局長のナリット・テートサティーラサック氏に聞いた。

――変革期にありますが、現在のタイへの投資状況を教えてください。
「2024年に受領した投資促進申請金額は、前年に比べて35%増の1兆1400億バーツ(約330億米ドル)となり、14年以来の高水準となりました。中でも、外国直接投資(FDI)は、同25%増え、全申請額の73%を占めています。これは、タイに対する国際的な投資家の継続的な信頼を明確に示しているものと考えます」
――増加分野に傾向はありますか。
「データセンター、クラウドサービス、半導体・先端電子機器製造における大規模なFDIが増加に大きく貢献しました。特に、データセンターとクラウドサービスを含むデジタル部門は、合計2433億バーツに相当する150のプロジェクトが投資誓約され、部門別投資額ランキングで初めて首位となりました。この分野の24年の主要プロジェクトには、米・Google(Alphabet)、豪・NextDC、印・Ctrls Datacenters、星・GDS IDC Services PTE Ltd.などの大手ハイテク企業やクラウドサービス企業による大規模データセンターの設立申請が含まれています」
――日本からの投資状況は。
「日本からの申請件数は271プロジェクト(491億バーツ相当)で、23年の第4位から1ランク下げ、第5位のFDI申請国でした。投資額ではシンガポール、中国、香港、台湾の後塵を拝していますが、日本のプロジェクトのほとんどが自動車・部品、オートバイ製造、航空機タイヤ、デジタルカメラ、エアコン製造など、タイの産業部門と経済発展にとって重要な分野であると考えます。また、今年は特に自動車産業やエレクトロニクス・半導体分野での日本企業の投資が増えると見ています」
――その理由は。
「2月13日、マツダがタイをハイブリッドコンパクトSUVの生産拠点とするために50億バーツ(約1億5000万米ドル)を追加投資することを発表しました。年間10万台を生産して国内および輸出市場で販売する予定とのことです。同社は70年以上前からタイの自動車市場に参入し、30年にわたりタイで自動車を生産してきました。バンコクで行われた毛籠勝弘代表取締役社長兼CEOとペートンタン・チナワット首相との会談で、毛籠氏は『製造拠点としてタイを発展させ続けるための重要な一歩であり、ハイブリッド技術を含む自動車産業のあらゆる種類の電動化を支援するタイ政府とBOIの政策を支持する』と述べました。これは、日本からのタイへの投資が増える可能性を示す非常に明るい兆候であると見ています」
■半導体分野の取り組みに注力
――半導体分野にも力を入れているとか。
「半導体および関連する先端エレクトロニクス製造への投資誘致は、我々の最優先事項の一つであり、29年までに5000億バーツの投資をもたらすと見積もっています。昨年末には、国家半導体・先進エレクトロニクス政策委員会(半導体委員会)を設置し、12月の初会合で同部門の戦略的な枠組みと熟練労働者の育成を承認しました。このように、タイ政府は半導体分野向けのFDIの新たな波に向けて準備を進めています」
―― 投資の状況は。
「プリント基板(PCB)や電子部品(E&E)を含むエレクトロニクス部門は、昨年、部門別投資額ランキングで2位となりましたが、ここ数年最大の投資シェアを集めてきました。特に半導体分野は昨年も、台・Foxsemicon Integrated Technology Inc. (Fiti Group)による半導体産業向け高精度機械部品・装置の製造工場建設投資や、泰・Hana Microelectronicsと泰・PTT Groupによるタイ・香港・シンガポールのウエハー製造合弁会社であるFT1 Corporationによるウエハー製造への投資などが挙げられます。PCB分野でも、中国や台湾、日本企業からの多額の投資も見られています。25年は、地政学的リスクなどを考慮して、こうした傾向がさらに強まると予想されています」
――日本にも期待している。
「私たちは、日本の非常に強力なエレクトロニクス分野の企業が、私たちが期待しているエレクトロニクス分野への投資の新たな波の一翼を担うはずだと信じています。既に、こうした政策を強く推し進めていくため、日本を含むFDIソース市場および技術ハブへのロードショーを始めています」
マツダの毛籠勝弘CEO(中央左)は2月13日、バンコクでペートンタン・チナワット首相(中央右)並びにタイ投資委員会( BOI )事務局長のナリット・テートサティーラサック氏(右)らと会談。タイをコンパクトSUVの製造拠点とすべく50億バーツの追加投資を決めた
トランプ政権誕生の影響は?
米国新政権の政策はまだ詳細が明らかになっていないことから、「状況を注視している」としながらも、「タイへの投資を検討している企業からの問い合わせは依然として好調」であるという。申請書の数も増えていることから、「現時点ではマイナスの影響はない」と話す。特に、サプライチェーンの多様化を求める多くの投資家がASEANに注目しており、「ASEANの戦略的立地にあり、陸・海・空の優れた接続性、ロジスティクス・ネットワーク、先端製造業へのすべての投資家を歓迎する政策、魅力的な税制・非税制上の優遇措置などにより、製造拠点として安全で中立的、かつ弾力性のあるタイが選ばれるようになっている」ようだ。
(日本物流新聞2025年3月25日号掲載)