オピニオン
2024年よりも早い段階で需要回復か
- 投稿日時
- 2021/01/25 15:04
- 更新日時
- 2024/08/19 13:18
機体よりも、エンジンに打撃
-IATA(国際航空運送協会)は、世界の航空需要が新型コロナウイルス感染症の影響を受ける前の水準(2019年)に戻るのは2024年頃になるとの予測を発表しています。
東京大学名誉教授 未来ビジョン研究センター特任教授 鈴木 真二 氏
「1918年~19年に流行したスペインかぜを参考に算出した予測と聞いています。中東戦争、湾岸戦争、SERS、米国同時多発テロと比べて長期化する見通し。とくに国際線は厳しい状況です。ワクチンの開発次第で需要回復の時期がもう少し早まると期待しています。人の動きは止まっているものの、物流に大きな影響はありません。グローバルなネットワークで構築されているサプライチェーンは、早々見直せるものではありませんから」
-需要の急激な減少が航空機生産に影響を与えています。
「確かに全体的に落ち込んでいます。2020年上半期の民間機出荷数は、ボーイングで前年同期比7割、エアバスも5割減っています。ボーイングは、737MAX墜落事故の影響で以前から減産していたこともあり、サプライチェーンの長期的な見直しが必要なまでになっています。両社は大きな打撃を受けながらもレイオフ(一時的な解雇)や他部門への再配置で耐えています」
-サプライチェーンへの影響は。
「航空機産業に関しては機体よりも、エンジンの方が深刻です。エンジンに関しては部品交換などのメンテナンスで利益を上げているため、運航が止まると費用回収ができなくなっています。航空機産業は、供給責任の観点から長期的に仕事が確保できる一方で、今回のことでイベントリスクに弱いことが再認識されました。リスクヘッジのために収益構造や雇用形態を見直す必要がありそうです」
-各国も支援を強めています。
「米国、欧州にとって、航空機は戦略的にも重要な産業ですから、巨額な支援策を投じています。米国はエアラインだけでなく、国際安全保障維持を目的にミリタリー関係のメーカーも支援しています。欧州は新型コロナウイルス感染症からの復興を目的に、脱炭素技術も含め総額150億ユーロを投じます。中国にとっても航空宇宙は重要な位置付けにあるので、強力な支援策はあるはずです」
■単通路機が市場の軸に
-コロナ禍前は、旅客需要の拡大で長期的な成長が見込まれていました。
「アジアのGDPが年率数%増加し、中間所得層が増えたことが明るい見通しの背景にありました。ワクチンが開発されて現在の状況が収束すれば、観光目的の旅客需要は早い段階で戻ってくるはず。リモートの限界も見てきたので、ビジネス向けの需要も多少減る程度でしょう。航空機内は、外気の取り込みと内気循環、さらにHEPAフィルターで感染リスクを減らしていますし、空港内も水際対策や自動チェックインなどの取り組みを進めています。業界全体でこういった安全性の周知も図っているところです」
-今後の見通しについて。
「航空機市場はコロナ前から大きく変化する可能性があります。つまり長距離国際線で使われる双通路機の需要が落ち込み、反対に国内線や単距離国際線向けに単通路機やリージョナルジェットの需要が拡大するということです。昨秋、開発凍結が発表されたMSJ(三菱リージョナルジェット、現スペースジェット)も、個人的には復活するチャンスはあると見ています」
■次世代に向けて
-次世代航空機に向けた開発も進んでいます。
「バイオ燃料の実用化が先行しています。ジェット燃料に混合して使うので、航空機の材料や構造に変更はありませんが、水素燃料を使用するジェットエンジンが金属劣化しない設計に変わります。一方、液体水素単独の場合は、かなり大きなタンクが必要になるので、設計自体も大きな影響があるでしょう」
-燃料電池はいかがでしょう。
「航空機の電動化は電池容量に従ってバッテリー重量が大きくなることから、小型プロペラ機に機種が絞られそうです。ジェット燃料とのハイブリッド的な使い方は、電動ファンで離陸アシストした後、ジェットエンジンで飛行するというものです。いずれの方法にしても、ICAO(国際民間航空機関)が発表した『航空機からのCO2排出量を2050年までに05年比で半減する』という目標に向けた研究が進みます」
-注目している素材は。
「CFRP(炭素繊維強化プラスチック)です。CO2排出量削減と燃費向上を目指し、さらなる機体の軽量化が進み、CFRPの導入が加速します。すでにボーイング787の約50%がアルミから置き換えられています。日本は素材分野に強く、加工技術にも優れていますから、ティア1と協力しながら新たな案件が受注できることを期待しています」