オピニオン
真潮流~14
- 投稿日時
- 2020/12/10 15:40
- 更新日時
- 2024/08/19 13:20
工業系用語表記法の見直しを-不統一は、教育上も大問題-
専門の雑誌社や新聞社から記事の執筆依頼をお受けするが、原稿の校正段階で、用語の表記を変えられてしまうことが多く、困っている。「元に戻したい」とお願いをすると、「業界のルールになっているので、このままにしたい」とのお返事で閉口することがある。
専門の雑誌社や新聞社から記事の執筆依頼をお受けするが、原稿の校正段階で、用語の表記を変えられてしまうことが多く、困っている。「元に戻したい」とお願いをすると、「業界のルールになっているので、このままにしたい」とのお返事で閉口することがある。
最悪なケースは、JISで正式な用語表記が決まっているのに、表に示すように無視される場合である。マシニングセンタ→マシニングセンター、ターニングセンタ→ターニングセンタ―、大形(小形)→大型(小型)などと変更されてしまい、混乱を招いている。
上述の「形」との「型」使い分けは、大混乱の様相だ。金型など型以外は、「形」を使うのが原則になっていることも認識しておきたい。
次に問題なのは、外来語の長音の取り扱いである。JIS Z8301:2008(付属書G(規定)文章の書き方、用字、用語、記述符号及び数字)で、原則的なルールが決まっており、3音(文字)以上の場合には、語尾に長音符を付けないことが原則になっている。しかしながら、工業系の新聞でも、上記の事例を含めて、ほとんど無視されている。例えば、ユーザ→ユーザー、メーカ→メーカーなど、非常に多くの用語が挙げられる(表参照)。
また、外来語はカタカナで、日本語は平仮名と漢字で表記することになっているが、ボールねじ→ボールネジ、もの→モノ、ものづくり→モノづくりといった具合だ。特に「ものづくり(MONOZUKURI)」とは、ものを生み出すのに必要なプロセス(企画・構想、研究開発、設計、生産計画、製造、評価、販売、サービス、廃棄など)すべてを包括した生産活動のことであることは、国レベルでも認識されていることだ。それにも関わらず、それを「モノづくり」として、製造プロセスしかイメージできないような表記がなされ、正しい理解が阻害されている。「ものづくり」は、単一の日本語であり、「モノ」と「づくり」の合成語ではないことも理解しておく必要がある。
また、最近では、できる限り英語に近い発音表記にすることを原則としているが、その意識もなく、日本語化されたため、混乱を生じている用語もある。例えば、ミリング→ミ―リング(JISでは混在)、ウェーハ(JIS)→ウエハ(ウエハー)などが挙げられる(表参照)。今後も、技術進歩に応じて多くの新外来技術用語が使われるようになると思われるが、日本語化する際には十分留意する必要がある。
著者は、JISに則って表記するように学生に指導しているが、文字情報を発信しているマスコミ業界が上記のような状態なので、その影響は大きく、多くの混乱が生じている。
特に著者は、教育機関に勤めていた関係で在職中はとても困った。学生に正しい用語表記法として教えたことが、新聞や雑誌で異なる表記をされると、学生から指摘を受ける。更に困るのは、自分の執筆した記事の用語表記が教えた通りになっていないという指摘を学生から受けることだ。そこで最近は、インタビュー記事など各社の責任でまとめる記事は良いとしても、著者が執筆する記事については、著者責任での用語表記にしたいとお願いをしている。
このような状況は、教育上も好ましくない。技術革新が急速に進む今こそ、工業系マスコミ業界として、用語の表記法を見直して欲しいものだ。
日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。