オピニオン
国土交通省 海事局 課長 吉田 正則 氏
BRIDGEによる次世代造船所、AI・ロボット利用で建造量倍増へ
- 投稿日時
- 2026/06/24 14:15
- 更新日時
- 2026/06/24 14:20
研究開発とSociety5・0との橋渡しプログラム「BRIDGE」を内閣府が進めている。総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)のイニシアティブのもと、統合イノベーション戦略等に基づき、官民の研究開発投資を拡大し、技術革新を社会課題の解決や新事業創出につなげるものだ。そのなかに我々が取り組む「AIの活用による次世代造船所の実現に資する技術開発」(令和7年度補正予算)がある。令和8(2026)年3月までの1年強のプロジェクトになる。

国土交通省 海事局 船舶産業課 課長 吉田 正則 氏
(博士〈工学〉、技術士〈船舶・海洋部門〉)
プロフィール
よしだ・まさのり 1974年徳島県生まれ。神戸大学工学部機械工学科、ロンドン大学UCL(MSc)、東京海洋大学博士後期課程(工学)修了。1996年運輸省(現国土交通省)入省、2014年海事局付(ロンドン大学〈UCL〉留学、ノルウェーFNI客員研究員)、16年(独)海上・港湾・航空技術研究所などを経て24年7月から現職。運動不足は1駅手前で降りて歩いたり、ここ10年ほどは自宅でダンベル(片側20㌔)を使って筋トレしたりして補う。
なぜ造船所にAIの活用が必要なのか。まず人手不足がある。日本の造船業の就労者数は最も多かった2016年度は9万人超だったが、その後技能者が減り、2025年度には7・6万人まで減った。ピーク時から2割弱減少している。就労者が減少している中で、今後船舶が複雑化していくことを考えると、人手不足に対応することが必要になる。
国としては2035年に向けて、建造量907万総㌧(2024年)を1800万総㌧に倍増しようと計画している。そのためには当然、造船設備を増強し、生産性を上げていかなければならない。生産性を飛躍させるにはAIやDXを利用する必要があるし、自動化を進めていかなければならない。造船のロボット、AI活用は必須と言っていい。
船舶の複雑化への対応も求められる。たとえば今後造られる船舶はカーボンニュートラルが進んでいくことになる。外航船は原則としてIMO(国際海事機関)の基準に則って造られる。IMOは2050年にカーボンニュートラル、ゼロエミッションを目標として掲げている。現在の船舶は主に重油を動力としているが、LNG(液体天然ガス)が出始め、アンモニアや水素がもっと使われる可能性が十分にある。そうなれば次世代船舶は重油を扱う船と比べて船内構造、船体構造は圧倒的に複雑になる。
■異業種の50社超が連携
我々は2つのプロジェクトを実施している。1つは経済安全保障重要技術育成プログラム「K Program」(造船に関わる予算は120億円)において、デジタル技術を活用し設計から建造まで一気通貫で行い、高性能な船舶を効率的に開発・設計することを目指す。
もう1つが、ロボットの活用。BRIDGE(造船に関わる予算は150億円)において、鉄板を切り、曲げ、溶接し、組み立て、塗装する、という建造工程をロボット化し省人化を図る。船は大きいもので長さ300~400㍍になり、部品点数は数十万から多いと100万点と言われている。それを組み立てるには広大な敷地が必要で、造船現場は非常に複雑になる。それをうまくシミュレーションしながら製造の最適化が求められる。ロボットと人が協働していくことも踏まえたシミュレーション基盤も作っていかねばならない。
これらで造船業を再生し国際競争力を高めることを目指すことになるが、我々の最終目標は建造量を1800万総㌧に倍増させること。ある意味、待ったなしの状況で、研究のための研究をしているというものではない。研究成果を造船所にしっかりと実装する必要がある。できなかった、で終わらせるようなことは我々は一切考えていない。
ただし、現実的にはBRIDGEは1年強のプロジェクトであり、できることには限度がある。たとえば溶接一つをとっても、下向き、立て向き、上向きなど色々あり、難易度も異なる。ブロック内は狭い箇所も多く、重いロボットは持ち運ぶのが困難で軽量化が必要となるし、高所での溶接を自動化する際の難しさもある。また造船現場は平たんではなく、物資輸送をロボット化するのも簡単ではない。
課題はほかにもある。建造工程は先ほど述べたようにシンプルに見えて極めて複雑だ。現在普及しつつあるAIをうまく活用することも必要になる。連携も重要で、造船所やロボットメーカー等が個別にできることは限られる。特定の加工技術を熟知する企業と連携をしていく。また大企業だけでなく、とりわけAIに絡んではスタートアップ的な考えを持つ企業の能力も必要になる。BRIDGEはそうした連携も目指しており、今回の造船プロジェクトでは米国の大学等を含め50社超が関わっている。1つのプロジェクトに他業種にまたがってこれだけ多数の企業が関わることは珍しい。それだけ造船業に関わる皆さんが本気で取り組もうとしている。
裏を返せば、造船の自動化がこれまで進みづらかったとも言える。造船業は基本的に労働集約型産業で、現場の作業者に多くのノウハウが蓄積されており、このノウハウに基づく高い品質や生産性が国際競争力の強化に大きく貢献してきた。そこをAIやロボットを活用して自動化していく。それがまさに勝ち筋の1つになる。BRIGDEでどこまで発展させられるか。同プロジェクトは試金石でもある。関係者が一丸となって取り組むことにより、他国に勝る自動化を達成することができると確信している。

(日本物流新聞2026年6月25日号掲載)
執筆:モノクエ編集部
本記事は、創刊70年超のモノづくり専門紙「日本物流新聞」の編集部が制作しています。製造業に精通した専門記者が、現場取材に基づいた正確で鮮度の高い情報をお届けします。