植木鋼材、板金加工業が「インテリア」メーカーに
- 投稿日時
- 2025/03/14 09:00
- 更新日時
- 2025/03/14 09:00

トルンプ製レーザー加工機導入を機に
幾何学模様を縦横に組み込んだ鹿沼組子のウォールパーテーションや毛筆で書かれたような「鐵書」、ガラス細工を思わせる繊細な模様・色をつけた照明器具。いずれも金属板をレーザーで加工したものだ。造形美に思わず目を奪われる。
これらを生み出したのは植木鋼材(栃木県宇都宮市、社員30人、1962年創業)。2022年に改装した事務所棟1階のショールームに展示する。同社は鉄鋼販売からスタートし、一般鋼材・非鉄金属の切断・曲げ・塗装も手がけるいわゆるジョブショップ。素早い納品を心がけ常時700㌧の鋼材(365品種)を保有し、年間700㌧の板金を加工する。
同社が変容を遂げたのはこの4年ほど。社内にデザイナーを抱え、「美」を生み出す企業になった。冒頭のウォールパーテーションはこれまで取引のなかった住宅メーカーやホテル、レストランに採用された。新事業は広がりを見せ、23年にラグジュアリー客船「飛鳥Ⅲ」(今夏就航予定)の進水式に用いられるメモリアルコインを受注し、昨年にはパリで開かれた世界最大級のインテリア関連の国際見本市「メゾン・エ・オブジェ・パリ」への出展を果たした。
植木揚子社長。後ろに映るのはウォールパーテーション
「鉄を切っているだけではパリの展示会とは縁がなかった。出展後には海外企業から新しいビル建築においてインテリアの一部に採用したいと相談をいただいている」
3代目の植木揚子社長は近年の目まぐるしい変化をそう話す。きっかけをつくったのは2台のトルンプ製レーザー加工機の導入だ。「加工能力が非常に高いが、価格は従来切断機のおよそ2倍。大きな投資になった」と明かすが、「新事業は鉄の美しさを表現でき、一般の人の目にも触れられる。夢が広がった」と希望に満ちる。
最初に導入したトルンプ製レーザー加工機「TruLaser 3030 fiber」
■メンテ楽に、生産性アップ
同社は2018年、古くなったシャーリングの代替機として標準的なファイバー伝送式2次元レーザー加工機「TruLaser 3030 fiber」(発振器出力4㌔ワット)を導入。ステンレススチールで切断板厚0・35~25㍉と薄板にも対応できるようになった。トルンプ製を選んだ理由は「精密切断に取り組みたかったのと、トルンプのマシンはレーザー発振器が自社製でメンテナンス性が優れる。サポートも手厚く、レスポンスが早い」と言う。
昨年にはさらに能力の高い同レーザー加工機「TruLaser 1060 fiber」(10㌔ワット)を導入し、対応板厚は36㍉まで高まった。手持ちのプラズマ加工機でも同じ厚板に対応できたが、17年間使い続けて老朽化し、加工時に発生するドロス(溶解金属の付着)の処理に時間を要していた。「プラズマはラフに切るにはいいがドロスと塵が発生し、集塵機が故障すると工場内が真っ暗になるほどだった」と植木社長。
導入した2台のマシンは塵やドロスの発生がほとんどなく、メンテナンス性が大幅に改善した。だが、「もっと大きな効果は生産性の向上」と言う。プラズマ加工機とレーザー加工機を併用すると、プログラム作成が別々になり手数が増える。同様の2台のレーザー加工機に切り替えたことで工程集約が図れ、リードタイムの短縮につながった。ドロス処理が要らなくなったことでプログラム作成やネスティング、加工に無駄なく時間を割けるようにもなった。
■ターゲットは富裕層
同社は従来、顧客から受け取った図面に基づいて加工する受け身の仕事が多かった。だが、微細加工ができるようになったことで技術的な幅が広がり、「意匠性のある仕事に携われるようになった」。ブランド「maasa(マーサ)」(https://u-maasa.com/)を立ち上げ、3つの切り口で自ら製品を生む。91種ある模様を組み合わせられるEDO Styleの鹿沼組子、「鐵書」など造形・切絵作家とのコラボレーション、ネックレスや指輪、ゴルフマーカーなどのアクセサリー類(ブランド「鐵あそび」)――だ。
繊細な筆の運びを表現する「鐵書」
「価値の高い商品としてこちらから提案できるようになった。鉄をカットするだけでは価格勝負に陥ってしまう」
植木社長はそう話す。「展示会でトルンプ製品を見ると溶接機、曲げ加工機、パンチレーザー複合加工機とあれもこれもほしくなる。新しい投資ができるようビジネス拡大に努めたい」と先を見据え、手持ちの機械には価格以上の価値を感じている様子。今後は海外ビジネスも視野に、また富裕層ニーズをとらえながら新事業の売上高を既存事業のそれを超えるくらいに育てたいという。
(日本物流新聞2025年3月10日号掲載)