本間総合計画、疾患・障がいも「個性」と捉える家づくり
- 投稿日時
- 2026/07/01 15:18
- 更新日時
- 2026/07/01 15:23
体と感覚に合わせた空間工夫で暮らしを整える
高齢化が進む日本の住まいづくりにおいて、単に段差をなくし手すりをつけるだけのバリアフリーは転換期を迎えている。宮城県仙台市と中国・上海に拠点を置く本間総合計画の代表・本間貴史氏は、障がいや疾患をその人の「個性」と捉え、一人ひとりの心と体に寄り添う住まい設計を提案してきた。行動をスムーズにする空間の構造化や体内時計を整える照明技術など、医学的な知見と空間の工夫を融合させたこれからの住環境のあり方を聞いた。
本間総合計画の設計の原点は、今から約30年前、車椅子で暮らす夫婦と認知症の母親が同居する住まいの設計だった。当時はインターネットがなく情報も限られていたため、代表の本間貴史氏は千葉県の依頼主の自宅に自ら泊まり込み、24時間の生活を共にすることから始めた。そこで見えてきたのは、手すりを付け、段差を減らすといっただけの均一的なバリアフリーではなく、「障がいの種類や進行具合、ライフスタイルによって、不便に感じるポイントは全く違う」という気づきだった。
1999年に完成したこの住宅は多くのメディアに広く紹介され、それ以降、自閉症、ADHD、緑内障による視覚障害、進行性の筋ジストロフィーなど、さまざまな特性を持つ家族からの依頼が寄せられるようになる。本間氏は「障がいは病気ではなく、音楽や本が好きなことと同じ『その人の個性』」と語る。機能性だけを重視した病院のような無機質な空間にするのではなく、住む人が生活の主役になれるオーダーメイドの住まいづくりが、ここからスタートした。
同社が手がける住まいには、福祉の知見に基づいた工夫が散りばめられている。例えば、自閉症児が暮らす家では、空間の役割をシンプルにする「構造化」を取り入れた。「ここは食事をする場所」「ここは眠る場所」と部屋ごとに壁や床の色を変え、目で見えるサインを作ることで、混乱を避け、自然と次の行動に移れるようサポートする。また、建具に両親の目線の高さの小窓を設け、プライバシーを守りつつ子どもの様子を見守れるような自然なデザインの造作が施す。さらに自閉症児の療育住宅では「こだわり行動」をヒアリング。「何時間でも木漏れ日の光を眺めるのが好き」という特性に対し、リビングに面した中庭に大きなシンボルツリーを配置して木漏れ日を作り出した。「子どもだけでなく、誰にとっても気持ちいい光」という視点を設計のアイデアに加え、情緒の安定につなげている。

自閉スペクトラム症患者の住まいでは、ピアノ室に折上げ天井の形に変化を持たせ、視覚的構造化を図った
本間氏が健康的な暮らしを支える技術として注目するのが、1日の自然光の移り変わりを再現する「サーカディアン照明」。網膜が受ける光の刺激による覚醒ホルモンと分泌量の変化に目を向け、朝は太陽光に近い白っぽい色温度(5000~最大1万2000ケルビン)で目覚めを促し、夕方からはキャンドルのようなオレンジ色(1800~2700ケルビン)に切り替えて、自然な眠りを誘う。「中国・山東省で夜間の徘徊に悩んでいた認知症の居住者の事例では、この照明を取り入れたことで夜ぐっすり眠れるようになり、悩んでいた夜間の徘徊も止まり、介護する家族の負担が軽くなった」と語る。直接光源が目に入らないグレアレス型ダウンライトなどを採用する点も含め、光環境の制御は重視する要素だ。

認知症の高齢者住宅の事例では、むき出しの蛍光灯をなくし、サーカディアン照明やグレアレス型照明を取り入れるとぐっすり眠れるようになり、夜間の徘徊がなくなったことも
■「本当に必要な配慮」は十人十色
本間氏が考える住まいづくりは「バリアフリーありきではない。設計の前にまず疾患や障がい特性を徹底的に調べることから始める」という。
例えばパーキンソン病患者の場合、必ずしもスロープが最適とは限らずあえて階段の方が安全なケースもある。将来的な身体機能の変化を見据えれば、天井走行リフトを設置できるよう構造補強をあらかじめ行うことも検討する。
また、「車いす対応」として売られているキッチンや洗面化粧台は、足元を広くすることばかりに気を取られ、かえって使いにくいことがあるという。「例えば、ある料理好きな車いすのお客さまのケースでは、一般的な車いす専用流し台だと寸胴鍋の底が見えず調理しにくいため、コンロ台をあえて低く作った。また、水栓のレバーハンドルも標準製品だと短くて手が届かないときも多い。プラスチックで刀の鞘のような延長レバーを自作して対応したことも」と振り返る。洗面化粧台も、車いす対応の製品は足元を広く取ろうとして、ボウルが浅すぎて水が跳ねてしまう。また、「いかにも福祉用」というデザインが多く、「みんなが使える洗面台が、実は車いすでも使いやすいという洗面台があれば、選べる選択肢が増えていい」と指摘する。
本間氏が長年、メーカーと一緒に作りたいと願っているのが「高さを自由に変えられる手すりブラケット」だと言う。例えば脳梗塞などで半身が不自由になったとき、病気の進行やリハビリの具合によって、掴みやすい手すりの高さは変わっていく。公共施設のような一律的な高さ(日本では尺骨茎状突起が目安)だけではなく、状況の変化に合わせて高さを変えられる安全な手すりは、まだ世界にもほとんどない。
「これからは、建築士だけでなく、お医者さんや理学療法士、作業療法士といった医療のプロと連携した家づくりができる社会にしていきたい」と未来を見据える。現状は建築士が個別に情報を集めるしかないが、「リハビリの知識と建築の工夫が最初から繋がれば、障害を持つ人も一緒に住まう人も、自分らしく暮らせるはず。これからも積極的に高齢者住宅や介護リフォーム、障がい者住宅の提案を行っていきたい」と話す。

代表 本間 貴史 氏
(日本物流新聞2026年6月25日号掲載)