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川崎重工、船舶保守部品の“地産地消”モデル目指す

投稿日時
2026/03/11 14:10
更新日時
2026/03/11 14:13
川崎重工業のエネルギーソリューション&マリンカンパニー 舶用推進ディビジョン 舶用推進システム総括部 舶用機械部 事業戦略課の大道義範担当課長(2月4日、岩谷産業神戸研修所で行われた講演にて)

世界中の港でAM(積層造形)保守部品を生産

造船を祖業とする川崎重工業が、金属積層造形技術で船舶保守の常識を破ろうとしている。世界中の港湾付近に大型金属3Dプリンターを配備し、必要な時に、必要な場所で部品を製造する「オンサイト製造サプライチェーン」構想だ。約12万隻におよぶ世界の稼働船舶が抱える保守部品の在庫を最適化し、不稼働による損失を防ぐことができればメリットは計り知れない。同社が挑むAMによる“地産地消”の部品製造モデルに期待が集まる(〈一社〉日本溶接協会 AM部会主催の第4回AM Worldセミナーより)。

川崎重工業のエネルギーソリューション&マリンカンパニー 舶用推進ディビジョン 舶用推進システム総括部 舶用機械部 事業戦略課の大道義範担当課長(2月4日、岩谷産業神戸研修所で行われた講演にて)

世界初の液化水素運搬船を建造し、ディーゼルエンジンや推進機関など船舶部品も手掛ける川崎重工業。同社が今、船舶保守のあり方を変えようとしている。核になるのが世界中の主要港湾の至近で、金属3Dプリンター(AM)を用いて必要な部品をその場で製造する「オンサイト製造サプライチェーン」構想だ。

海運業界における最大の懸念事項とも言えるのがトラブルによる船の停止。例えば、8500TEU(TEU=20フィート換算した積載可能なコンテナ個数)クラスの中型コンテナ船が故障で1日足止めされれば、約1100万円もの不稼働損失が発生するという。しかし船の寿命は一般的に30年におよび、外航船だと世界中のどこで壊れるか予測はつかない。保守部品の保管場所から遠く離れた港で船が故障すれば部品の輸送に時間がかかり、通関で手間取ればその間にも船の不稼働損は拡大する。いつ使うか分からない古い型式の部品を抱え続け、在庫コストを負担することは船主にとって少なからぬ負担だった。

一方、川崎重工業らメーカーにとっても多品種少量かつ大型の部品在庫を維持する負担は重い。さらにメーカー認証外の模倣品が流通すれば、品質保証や保守計画の信頼性も揺らぎかねない。

これに対して川崎重工業の解決策はシンプルだ。AMプラットフォームを構築し、部品の3Dデータを集約。船会社からの発注を受けると、船に最も近い港湾の製造拠点へデータを送信し、大型金属3Dプリンターで部品を製造して“地産地消”する。  

このモデルでは船主は必要な時に必要な分だけ認証された部品を調達でき、在庫依存から解放される。輸送距離の短縮はリードタイムとコストを抑えるだけでなく、輸送に伴うCO2排出削減という副次的な価値も生む。

■鍵は品質保証とルール制定

とはいえ課題も存在する。その筆頭が品質保証だ。従来は自社工場の品質保証部隊が検査を行ってきたが、世界各地にAM拠点で製造するとなれば、同等の品質をどう担保するかが課題となる。

現在、舶用AM部品の品質保証は「3階建て」のルール構造で整備が進んでいる。土台となるのはIACS(国際船級協会連合)が2025年に発表したAMに関する共通勧告だ。その上に各国の船級協会(NKやDNV等)が定める製造プロセス承認があり、最上階にメーカー独自の品質基準が乗る。 

オンサイト製造サプライチェーンによって世界各地で製造されるAM部品もこれらのルールをクリアする必要があるが、現状の船級ルールは「工場内でのモノづくり」を主眼に置いており、川崎重工業が構想する「オンサイトでの分散型製造」は完全に対応しきれていない。そこで現在、NTTデータグループ等とコンソーシアムを組み、分散型製造に対応した新たなルール形成に向け、船級協会と連携を進めている。

すでに実証も進む。川崎重工業は20年から世界各地でAM部品の実証試験を重ね、シンガポールのプロジェクトではディーゼルエンジン用冷却配管をステンレスAMで製作し、3週間で納品・実船搭載した。推進機関であるサイドスラスターのプロペラ翼をWAAM(肉盛アーク溶接)で製作した事例では、24年9月から実運用を継続している。さらに、エンジン部品の形状を必要機能を満足するよう構造最適化したうえでAMで造形し、90%軽量化した事例もあるという。

金属3Dプリンターによる製造単価そのものは、依然として従来製法より高い。しかし、輸送費、在庫管理費、不稼働による莫大な損失コストを算入すれば、その経済合理性は逆転しAMの方がコスト面で優位に立つ見込みだ。

長らくAM活用で後手に回っていると指摘されてきた日本。それだけに、国内IT大手らと組んだ本構想による金属AMのオンサイト製造サプライチェーンが、日本主導のデファクトスタンダードとなることが期待される。



(日本物流新聞2026年3月10日号掲載)