イーグルクランプ、ロングセラー「SBB型」グッドデザイン賞に
- 投稿日時
- 2025/02/12 11:28
- 更新日時
- 2025/02/12 11:33

発売40年、鉄鋼用ねじ式全方向クランプ
「安全の歴史」評価され
鋼材などの吊り荷を縦・横・斜めどの方向にも吊り上げられる、鉄鋼用ねじ式全方向クランプ「SBB型」。発売から40年を経たこのロングセラー商品が、2024グッドデザイン賞に輝いた。デザインや機能もさることながら、何より評価されたのは安全・安心に向けた地道な積み重ね、イーグルクランプのDNAだった。クランプ専業メーカーとしての歩みを取材すると、華々しい結果の陰に「イズム」が垣間見える。
「イーグル使っとたら、間違いないやろ」。建設や造船など重厚長大産業では、職人からそう声が上がるほど、イーグルクランプのつりクランプが自然な物として根付く。吊り荷の重さを利用し重量物をグリップするつりクランプは今でこそ広く普及するが、ひとたび落とせば命をも奪う重量物を吊る役目柄、信頼を得るまでが難しい。イーグルクランプの歴史はそのまま、安全なクランプを追い求めた試行錯誤の歴史でもある。
1964年、日本が五輪に沸いた年に津山由蔵初代社長が初の国産ラッチロック付きつりクランプ「SL-1」の開発に漕ぎつけた。原点は呉の造船所で目にした海外製つりクランプ。当時、鉄骨など重量物を吊るには部材自体に穴をあけ紐を通すか、連結金具を取り付け後に削り取るくらいしか方法がなく、カム機構を用いたテコの原理で吊り荷の約2倍のグリップ力を発生させるSL-1は画期的だった。
取り付けも簡単で利便性は高かったが、軌道に乗るまで少々、時間を要した。新参者が信頼を得る難しさに直面したわけだが、品質に自信のあった由蔵氏は折れず、販売を伸ばしていったという。
当時の吊り具に求められる引張り強度の基準に対し、SL-1は開発当初から2倍以上の数値を出した。だが工業製品は開封した端から劣化が始まり、やがては寿命が来てそれでも使えばいつか事故が起きる。これを防ぐべく60年代に始めた無償点検制度は、今も同社の柱だ。クランプを1つずつ目視点検し結果はデータベースに10年保管して脈々と継承。長く営業兼エンジニアとして現場を回った深川博己執行役員が以下のように語る。
「医者が健康診断するでしょう? あんな感じですよ。昔の医者は家族ごと付き合うから『この一家はこの系統の病気になりやすい』と細部がわかる。クランプも現場で傾向があり、極端な話『この現場のこの班はこういう壊し方をしやすい』というレベルでお客さんのことがわかっている。僕らもそれを心に留めてアドバイスします」
製品が原因で起きた損害を補償する生産物保険も、66年に創業者が保険会社に粘り強く掛け合い日本で初めて実現に漕ぎつけた。安全講習会など教育も徹底。手を尽くして安全を追い求め、道具に厳しい現場の信頼をもぎ取った。国内の労災死者数は64年の6126人と比べ2023年は755人と8分の1に減っている。同社の功績も幾分、含まれるはずだ。
■安全だから売れたSBB型
グッドデザイン賞(GD賞)を受賞した鉄鋼用ねじ式全方向クランプ「SBB型」は84年に発売。本来、クランプは荷を吊る方向が決まっており荷に応じた選定が必要だが、SBB型は全方向に追従。ねじを締める手順さえ踏めば様々な物を吊れる。当初はあまり売れない影の薄い存在だったが、バブル期に建築現場の状況が一変し注目の的になった。建設ラッシュで「にわか職人」が建設現場に急増し、正しいクランプの使い方を知らないことによる事故が増えたのだ。
SBB型なら専門知識のない人でも安全に鋼材を吊れる――。SBB型は徐々に安全な製品として認知され、今では年間1万台を出荷する代表商品だ。GD賞でも安全性や先述のアフターフォロー体制が評価された。深川執行役員と、同じく現場経験の長い上野清治氏は目を細める。「まさに集大成。労災を減らすという会社の源流と安全点検活動が審査員の方に評価されたのが、僕らは嬉しかったですね」
SBB型は現場の声を吸い上げ、少しずつ改良を重ねてきた。点検の際などになじみの職人から本音のフィードバックが集まり、それを反映してきたのだ。ねじを締めると赤いラインが隠れる締付確認機構もその流れで生まれた。「スパッタがねじ山に付着すると、回転が途中で止まり締まったと誤認するかもしれない」(上野氏)。これを防ぐ機構だ。
他にも締付力を安定させるためにねじの先端パッドとねじ本体を分離させるなど、独自機構の数々を顧客の声に向き合って反映してきた。「本当に、お客さんと二人三脚で磨いてきたもの」と深川執行役員。「それを若い世代が、GD賞に結び付けてくれた。全員の総力です」
地道に成長してきたクランプ
企画広報部 広報課 主任 芳本 ひなの さん
――グッドデザイン賞の受賞、おめでとうございます。受賞が決まった瞬間は。
「発表の日は受験の合格発表みたいに、皆でパソコンの前で結果を待っていました。受賞が決まった時はとびあがって喜びました」
――鉄鋼用ねじ式全方向クランプ「SBB型」で応募された理由は。
「現在もっとも売れている商品ですし、それも最初からではなく、改良をずっと重ねて今に至っている点でSBB型に決めました。まさに地道に成長してきたクランプです」
――売れ筋になった契機は。
「バブル期に首都圏で高層建築がたくさん建ち、日当が上がったこともあって熟練工ではない方々が関東の建設現場で増加しました。ただ従来のクランプは吊る方向が機種ごとに決まっていて、ある程度知識が必要なんです。元々ベテランの職人さんが使い方を伝承していましたが、未経験者が急速に現場に増えたことで労災の件数が増えました。SBB型はあらゆる方向に追従できるので、誰でも安全に使えるクランプとして販売が伸びていったんです」
――今回の賞では中心的に動かれたと聞きます。この経験で見えてきたものは。
「私は営業ではないので、まずは勉強から始まりました。様々な人に取材をして、技術や安心安全へのこだわりを深掘りして…SBB型を使う意味も改めて考えました。そうして感じたのは改めてこの会社は面白いということ。資料の作成では、それをどうすればデザイナーの方々に伝えられるのか、非常に悩みました。こうして受賞に至りましたが、機能だけではなく安全のための活動を評価いただいたのが社員一同、嬉しかったですね」
――受賞をどう活用されますか。
「採用面でも活用したいと考えています。クランプは耳馴染みがないので、学生の方にも『専門的で難しそう』というイメージを持たれがち。それが『グッドデザイン賞を取った会社』となれば印象も変わりますし、それを入口に深く知っていただければ幸いです。もちろん採用以外でも、既存のお客さんには改めてSBB型に注目してもらえます。潜在顧客の方々がSBB型を使ってみようと思う契機にもなります。社員としても一層の誇りを持って活動していきます」
(日本物流新聞2025年2月10日号掲載)