造幣局、勲章製造に金属積層造形を活用
- 投稿日時
- 2026/03/09 13:43
- 更新日時
- 2026/03/09 13:47
職人技と自動化の共存さぐる
造幣局は貨幣製造のみならず、勲章や褒章の製造も担う。その中核工程の一つである七宝盛付作業に、AM(積層造形)の考え方を応用した自動化技術を導入している。一方で、国家技能とも言える職人技の継承も大きな課題となっており、自動化と熟練技能の両立という難題に挑んでいる。
七宝盛付は、釉薬を金属部分の溝に挿し込み焼成する工程で、従来は完全な手作業で行われてきた。上位勲章は数量が限られるが、下位勲章では年間1万個以上を製造しており、省力化の必要性が高まっていた。
造幣局研究所では平成14年頃から自動化に着手。圧写、打抜・切抜、ヤスリ整形を経て金属部を成形し、七宝盛付・焼付、研磨へと進む工程のうち、七宝盛付を自動化した。
ベースとしたのは武蔵エンジニアリングの高性能卓上門型ロボット「SM300OMEGAX-3A-SSSM」。これにディスペンサーとシリンジを組み合わせ、CAD・CAM制御によるオリジナルの七宝自動盛付機を開発した。
「FDM方式とは異なり、シリンジ内で攪拌された釉薬を吐出するため、位置制御だけでなく圧力制御が極めて重要になる。職人の腕をデジタルデータへ置き換える作業に苦労した」(木村勇一研究官)。七宝は一度に盛ると膨らみすぎるため、複数回に分けて積層する必要がある。この工程の再現には試行錯誤が続き、装置は3度のバージョンアップを経た。
導入後の運用は一筋縄ではいかなかった。七宝係の池上英一作業長は「釉薬の粒度にはばらつきがあり、その日のコンディションで吐出状況が変わる」と指摘する。職人が手の感覚で補正していた微差を埋めるため、現在は加工後の勲章をサンプリング計測し、圧力や軌道を微調整する運用を採る。「自動化した先に、また別の職人芸的な工程が発生している」と池上氏は苦笑する。
生産性は大きく向上した。熟練職人で一日20枚程度だった製造数は、現在では100~120枚(導入初期は約80枚)まで拡大。人の手なら多層化するほうが仕上がりは良くなるが、機械特性を生かし3層から2層盛りに工程を削減した。現在6種類を自動化し、1種類をテスト中という。
ただし課題は残る。「面積が広く練習課題に適した部分ほど自動化が進めやすい。しかし技能継承を考えると、あえて手作業を残す部分も必要。自動化と人の習熟プロセスをどう両立させるかが重要だ」(木村氏)。池上氏も「機械で可能な工程をあえて手作業にし、新たなトレーニングプロセスを構築している」と語る。AM導入は省力化だけでなく、“技能の再定義”という側面も持つ。
■金属AMも挑戦、四角の記念貨幣も
造幣局では金属AMの応用にも取り組む。貨幣製造では、マスター金型「種印」を製作し、それを転写した「極印」で量産する。種印はマシニング加工後、職人が長時間かけて仕上げる重要部品だ。特に種印の生産数が少ない記念貨幣では破損すれば時間的・経済的損失は大きい。「史跡名勝天然記念物保護100年記念2020プルーフ貨幣セット」の種印破損事例では、AMによる肉盛補修を実施し、極印への転写を成功させた。
しかし課題もある。「肉盛り部は急冷による加工硬化が強く出る。仕上げのキサゲ加工で工具が破損するケースもあり、別アプローチを模索中」(木村氏)。
さらに純銅を用いたブランク材のAM造形にも挑戦。パウダーベッド方式(電子ビーム)やバインダージェット方式での造形に可能性を見出している。通常貨幣への適用は想定していないが、記念貨幣への展開は視野に入る。将来的には金型レス製造も理論上は可能となり、従来のプレス技術では困難だった複雑な多角形や立体形状の記念貨幣が登場する可能性もある。
(日本物流新聞2026年3月10日号掲載)