逆風に立ち向かうインド、今必要なのは本当にMake in Indiaか?
- 投稿日時
- 2025/11/13 09:08
- 更新日時
- 2025/11/13 09:28
世界最大の14億超の人口を抱え、GDPは来年日本を抜き世界4位に躍り出る予定のインド。かねてから次なる「世界の工場」として注目を集めてきた。米国の通商政策によって関税が重くのしかかる今、困難を跳ね除けさらなる成長への期待も大きい。
モディ政権が2014年に打ち出した「Make in India(メイク・イン・インディア)」をキャッチフレーズとする製造業振興策は、インド経済の底上げに確かに寄与した。法人税率の引き下げや税制の一元化(GST〈財・サービス税〉導入)、倒産・破産法の整備、通関のデジタル化など、企業活動を阻む制度の壁を次々と取り除いた功績は大きい。世界銀行のビジネス環境ランキングでは、2014年版の142位から2020年版では63位へと大きく飛躍。製造業の実質付加価値も倍増した。医薬品、自動車、鉄鋼などの輸出産業が育ち、ジェネリック医薬品は新興国市場を席巻、粗鋼生産量は日本を抜き世界2位、自動車の生産台数も日本に迫る4位となっている。
エレクトロニクス分野でもインド国内での携帯電話の組み立てが拡大。iPhoneを中心に中国からの移管が進むスマートフォンは、2025年第2四半期の米国向け出荷の44%がインド製となり、中国を抜いて1位となった。こうした製造業関連の動きは確かに経済の成長を押し上げ、インドが「世界の工場」に踊り出る下地を作りつつある。
しかし、当初掲げた「製造業比率をGDPの25%に引き上げる」「1億人の新規雇用を創出する」といった目標からはいまだ遠い。統計上、製造業のGDP比率はむしろ低下傾向にあり、経済成長をけん引しているのはサービス産業だ。近年の成長率7%ほどのうち、5割以上を占めるのはサービス業であり、ITサービスやビジネス・プロセス・マネジメント(BPO)などの分野が成長をけん引している。たとえばインフォシスやタタ・コンサルタンシー・サービシズは欧米企業の業務プロセスを請け負い、人工知能(AI)やクラウドを活用した高付加価値サービスによってグローバルで存在感を高めている。
■国内改革がさらなる成長の肝に
製造業が伸び悩む背景は、インド経済の構造的な弱点にある。労働人口の約4割がいまも農業に従事し、モンスーン期の降水量がその年の成長率を左右する。日本総合研究所・調査部 マクロ経済研究センター 主任研究員の熊谷章太郎氏は「インドでは気候が経済指標の一つである」と指摘し、食糧保管施設などの整備が不十分のため、不作時の対応は困難を極める。そのため、豊作で農村所得が伸びれば消費が拡大し、干ばつになれば成長率が鈍る。こうした天候依存の構造が、製造業主導の安定成長を難しくしている。
さらに熊谷氏は、現在の製造業振興策に、独立後のインドが「重厚長大産業」に過度な期待を寄せて行った国家主導の社会主義的な経済政策が失敗した歴史を重ね合わせる。鉄鋼など資本集約型の産業に巨額投資を行ったが、雇用吸収力が低く、経済の裾野を広げることはできなかった。近年は、雇用創出が限定的な半導体産業に大きく軸足を置いており、同じ轍を踏みかねないと警鐘を鳴らす。
人口という最大の強みを活かすには、より労働集約的な産業——とりわけアパレル、履物、食品加工など——の育成が不可欠である。だが、アパレル輸出ではバングラデシュやベトナムに先を越され、低賃金労働を吸収する産業基盤は十分とはいえない。
こうした雇用創出の停滞は内需にも影響し、結果的に製造業の発展の妨げとなる可能性も大きい。熊谷氏はボトルネック解消のためにも「労働集約型産業のビジネス環境の改善が重要になる」と指摘する。
メイク・イン・インディアをキーワードに成長を続けてきたインド。グローバルでの存在感も高まりつつある。一方で、足元に目を向けると雇用やインフラ分野などに課題は多い。国内のボトルネックをどう解消するか。それこそが、メイク・イン・インディア10年の次に問われることとなりそうだ。
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(日本物流新聞2025年11月10日号掲載)