モノづくり入門
【第17回】いまさら聞けないモノづくりの基礎知識
- 投稿日時
- 2025/06/09 16:26
- 更新日時
- 2025/06/09 16:28
プレス加工
前回の当欄では成形加工について、主に型との絡みを重視して綴ってみました。
今回は成形加工を代表するひとつ「プレス加工」をみていきます。

金属板などに金型を押し付け目的の形状に導くのがプレス加工です。押し付け役は「プレス機」。ここまではよく知られますが、奥が深い。プレス機はオフィスの隅に置けるような電子部品用の高速小型プレスから、車のバンパー、ボディ等を成形する加圧数千トンのプレス機まで様々。超巨大プレス機で「〇〇万人の体重分を加圧力として実現」といったキャッチを聞いたこともありますし、最近は1万トンを超えるギガプレスも話題。まずそのくらい小から大まで幅がうんと広い。
プレス機による加工内容もせん断、曲げ、絞り、張出しなどと多彩です。ワークを送りながら順繰りにせん断し、曲げて、穴をあけるなど複雑加工を1つの金型・1工程で行う「順送プレス」は複雑部品の高速大量成形に適し、業種を超えて利用されています。
またコイル材やバネ制作における多種の加工を一台で担うフォーミングマシン(FM)もあれば、板材の打ち抜き精度の高さに特長をもち、工作機械による二次加工をほとんど必要としないファインブランキング(FB)も過去から関心を集めています。FMもFBも市場はニッチで、特にFBは九州M社の機械が知られますが、ほか海外含めライバルは皆無に近いよう(推測含む)。このように機種には多様性も相当にあります。
プレス加工は量産性に秀でる反面、小ロットには不向きで、モノの形状違いへの対応にも難があります。傷や打痕、割れ、かじり、バリ、また不良品率が比較的高いなどの問題も付きまといがちです。
また、針金を曲げると一定程度もとへ戻ることは皆さん経験でご存じでしょうが、スプリングバックと呼ぶこの応力の調整も必要です。軽くて強い新金属が増えるたび試行錯誤が起きます。
金属プレス加工の国内マーケットは月間約200億円。先にプレス機は電子部品用や車のボディ用など様々と記しましたが、実は需要の9割以上が自動車向けです。足元、トランプ関税問題とも関係し環境に厳しさがうかがえます。人手不足、後継者不足も言われます。
絞り
かつて某町工場取材で、手のひらサイズのマッチ箱のようなワークをもらった経験があります。これは電池ケース。絞り技術だけで一枚の金属板を細長の空間を持つ直方体ケース(一面のみ空いている)に仕上げていました。その難易度は推して知る、なんてこともできなかったけれど、大手メーカーの購買責任者が列をなして訪問するなど超絶な匠の技として話題でした。
へら絞りも匠の世界です。別の工場では円盤状の金属板を、へら棒で型に押し当て、みるみる目的の形状に。工業部品、管楽器の本体部、酒器などと応用も見事。こんな技巧の世界もプレス加工の領域に残っています。
(日本物流新聞2025年6月10日号掲載)