【トップ対談】オーエスジー×山善

事業のベクトルは同じです。協業を深め、ともに未来を切拓いていきましょう。国内を代表する切削工具メーカー・オーエスジーの大沢伸朗社長と、生産財と消費財の専門商社・山善の岸田貢司社長でトップ対談を行った。話は足元の業況からモノづくり産業の変化、国内外の事業戦略などまで多岐にわたったが、何よりメーカーと商社のさらなる協業の可能性を確認する内容となった。

モノづくりへの貢献、さらなる協業を通じ

【画像1】タイトルイメージ
【画像2】対談を終えて握手

【業況】春先からボトムアウトの可能性も

岸田 生産財市場の新年見通しは、工作機械から産業機器、切削工具などで多くが横ばい、調整はもう少し続くとの見方が多いようですが、そうしたなかオーエスジーさんは前期過去最高の売上げを記録され、業績を維持拡大されています。直近の状況はいかがですか。

大沢 2023年11月期の決算発表を1月11日に終えたあと、アナリストや機関投資家からのヒアリングを受けると、皆さんほぼ共通して、今期増収増益見通しだが、どういう建てつけで伸長を見込むのかと質問をされます。なかでも関心が高いのは、中国の動向と日本の足元から今後の見通しということですね。当社の状況を言えば、中国に関してはまだ明るい話が出ていませんが、細かく見ますと、当社の場合は中国単一市場ではなく台湾と中国を合わせた中華圏という括りで取り組んでいて、直近では台湾工場の主力製品のタップが中国の電子部品産業や精密機器向けに明るい兆しが芽吹きだしています。中国の方は春節以降どうなるかというのが目先の関心ですが、今年の中国自動車生産量は3100万台を超える見込みと伝えられ、私どもの業界にとって悪い要素ばかりでもありません。

一方で肝心の日本は自動車分野の生産水準がかなり戻っています。しかし生産が上がらなかった時期に部品メーカーさんが増産に備えて在庫を積み増したという側面があり、在庫調整がまだ進んでいない。だからこれまでは生産が上がり出すと消耗品である工具の発注が増えたけど、今は以前よりもタイムラグが長いと感じます。ただ遅かれ早かれといいますか、春先以降には調整が一巡し、緩やかでしょうが国内も上がってくると思いますね。

それと航空機がすごくいい。B787の生産ペースが昨年来、月産4機から6機、7機と増産基調にあり、ピークの月産12機からくらべるとまだまだですが欧米で先行した航空機産業の回復が日本でもという期待があります。また半導体はよくなるタイミングがいつか分からないので若干弱気の表現が多いようですが、これも上向くのは間違いない。

国地域では、欧米を保守的に見ていますがプラスに行くでしょう。アジアはまだら模様だけどインドをはじめ上がっていく。中華圏も大きな回復ではないとしても上向くと見ています。

岸田 私も同じ見方なので話すことがなくなりましたが(笑)、賀詞交歓会などで明るい話をしようと思っても、「いや、まだまだ厳しいですよ」と言われるメーカーさんが多いですね。例えば自動車業界は好調で、皆さん素晴らしい決算を出していますが、エンジン、パワートレイン関係の新規設備を増強されているか?というとそうではない。つまり生産量や販売台数が伸びたら生産財の設備需要も上がるという単純な構図ではなくなってきています。

それでも、半導体関連需要がそろそろ上がる気配もあって、春先ぐらいがボトムかなと見てはいます。待ちきれないというか、今年末本格稼働とすれば、春先から増産設備の検討が始まるでしょうし、製造装置関係を生産するマザーマシン設備と周辺機器、そして切削工具販売を(半導体)市場に注力する方向でビジネスを広げたいと思います。

大沢 おっしゃるように、主要な需要業種が上向けば生産財も伴って伸びるという構図ではなくなっていますね。なかでも中国の自動車メーカーは自前の国内サプライチェーンを持って、自国内での調達ルート、商流をこの一年ほどで構築しました。競争力のある世界的グローバル部品メーカーというのは、世界の様々な自動車メーカーと取り引きを行う強みを持っていたけれど、対中国自動車メーカーだとこれがなかなか通用しなくなっています。なぜかというとローカルのものすごく絆が強い中国の世界になかなか入れない、その現実につきつけられている。ですから結果生産量を増やしても行先が無く在庫がダブつくような状況に追い込まれていると、外野から見ているとそういう風にみえます。

【開拓】ゲームチェンジ、あらたな挑みを

岸田 大沢社長が半年ほど前にスピーチで「ゲームチェンジ」という言葉を使われたのが強く記憶に残っています。ゲームチェンジという、「従来の枠組みから飛び出していくマインドを持たないと厳しいですよ」と、暗に示唆された。平たく言えば市場が変わっていく中で、我々のターゲットを何処へもっていくか?ということがひとつあると思います。

中国のお話が出ましたが、この市場への「一辺倒な依存」は少し見直す時期だと思いますね。世界の工場から世界の市場になった中国に戦略の舵を切り、中国でたくさん生産すれば中国で多く買っていただける時代は確かにありがたかったですね。でも大沢社長がおっしゃるように、彼らは自ら開発出来る能力を有し、それを再現性をもって正確に生産し、大量に売っていく腕を持ってしまったわけです。よって、我々も過度な依存から脱却し、(中国と)協業しながらも、新規ビジネスをどう切拓いていくか?というのが大きなテーマだと思います。例えば、今は国や民間企業が、半導体産業の育成や誘致、次世代モデルの技術開発を必死になってやっていますが、それに沿った新たな取り組みなどは、私どもも大きく期待しています。

大沢 そう、自動車産業ひとつをみても変調が凄い。確かに販売はいいが、一方でEVは一本調子の伸びというわけでもなくなった。つきつめれば中国系の人たちと世界の勝負になってきた構図も見えます。そうした世界に日本がどう対峙していくかという大きな話の中で、我々個々の企業の在り方が問われています。

岸田 いろんな新市場はありますが、一説では世界の自動車産業は400兆円になるといわれ、やはり裾野の広さも魅力的ですよね。要は、そういうマスマーケットの「どの場所で」我々はサバイバルするのか?が問われてるんじゃないでしょうか。反面、日本は国内・海外含め自動車に匹敵でき得る成長産業も作っていく必要があります。これは民間のメーカー、企業一社でやっていくのはなかなか厳しいのではないでしょうか。

ただオーエスジーさんは、中国含め海外が厳しい中、それも主力の自動車向けがまだまだ回復途中というなかで業績を伸ばされています。いろんな市場でリードされていて、海外比率が67%と高いのも実力の表れですね。海外のスタッフも若手の方からどんどん育っていると見受けられます。

大沢 いや、だいぶん年とっているんですよ(笑)。海外の話になりましたが、当社の海外比率が67%へ上がったその起点というのは、20年ほど前に先代がですね、私の父ですが地球会社と銘打って、これからは日本だけで成長を目指すのは現実的に難しい、外に出稼ぎに行って事業を行う「出稼ぎ地球会社」にすると宣言したんですね。当時の海外売上比率は3割あるか無いかだったと記憶します。で、わたしも屯田兵として海外に赴任し、現会長の石川も海外に目を向けました。そうやって海外に活路を見出そうと。いまはおかげさまで33カ国に拠点があります。嗅覚を働かせて海外に経営資源を投じるという部分においてはスピード経営でやってきた、そこがいまのわれわれにとって有利な部分をもたらしていると感じます。こうした経緯は、アメリカで指揮をとられ海外市場の開拓に努めてこられた岸田社長と合致しますね。事業のベクトルが当社と山善さんで同じだと感じます。山善さんは海外14カ国に64事業所を持たれ、インド、メキシコなどと市場開拓を続けてらっしゃる。今日は、海外に足場がある相互の強みを活かしあって、もっといろいろやれることがあるのではないかという話をしたかったんです(笑)。

岸田 ええ、是非よろしくお願いします(笑)。当社も海外比率を更に伸ばしたいと思っています。当社の強みを言わせていただければ、グローバルで生産にかかる商材を供給し、技術サポートもできることです。海外の拠点毎にお客様へのサポートレベルに相違があるのは確かですが、要はこの強みを活かしたい。強みの一例として、こういうケースが増えています。某社がメキシコに進出することになったけど、某社のある某国の商社はフォローできない、なぜならメキシコに拠点も無ければ、あったとしても技術サポート能力がない。そこで、当社にお声がかかる。同じ製品をメキシコで作って販売を拡大したいのだったら、山善ならば技術サポートもサービスもできる。これを当社では「クロスボーダー戦略」といっていますが、世界に67カ所ある拠点で情報を共有しながら、ベトナムやメキシコをはじめ、他国に進出されるお客様のお手伝いがこういう形で実現できることは優位だと思います。

【協業】情報と技術の中身の違いを、活かしあう

岸田 こうしたことをもっと強化しますし、それもメーカーさんと一緒になって進められれば市場は更に広がると思います。信頼関係のあるメーカーさんに「一緒にやってくれますよね?うちも精一杯やりますから」と投げかけ、当社は60年代から海外を開拓し、80年代に現在のスタイルを築いてきました。今の時代、それこそゲームチェンジが求められる中で、もう一度、大切なパートナーと一緒に肩を組みなおして徹底的に海外市場を開拓していくべきじゃないかと思います。

大沢 商社とメーカーの協業は非常に大事だと私も感じています。というのも、ひとつにはお互いが持っている情報ソースが違うと思いますね。われわれは市場の動向を見る、リスクをみるというなかで得る情報はお客様から、もっといえば売りたい先から得ることが多いけれど、商社の場合はたくさんの商材をサプライヤーさんにいかに供給するかという点で、情報のソースが大きいと思うのですよ。今は世の中の動きの予測が立てづらく、少し前の情報で我々が決め打ちで動くとすればそれは物凄いリスクなんですね。実際にこれで行こうと動き出した時はもうぜんぜんズレているといったことが起きてしまう。

そういう点でもいろんな関係性を持ちながら広く情報をお持ちの商社から我々が行動する際に正しい情報をいかに得るか、そして強い協力体制ができているパートナーの場合は相互に有効な情報をシェアしていく、こういうことを連携して取り組みたいと思っています。

岸田 我々がメーカーさんとパートナーシップを組んで海外でビジネス展開するにあたって、商社にもやっぱり技術力が必要だと思っています。メーカーさんがお持ちの技術力とはまた違う「現場での技術力」と言いますか、そこの部分で山善はそこそこの優位性を有していると感じています。当社の社員がお客様に設備を販売するうえで、なにか調整が必要だったり、時に生産に支障をきたすようなトラブルが発生することもありますが、迅速に対応できるだけの拠点も有しています。網羅の度合いが濃いということですね。そこをメーカーさんにフィードバックできるということは、メーカーさんにとってもメリットになると思います。

大沢 ちょっと僭越ですが、今のお話をお聞きして、我々が持っている現場における技術力と、山善さんが磨こうとされている技術力の部分では、さっき出た情報ソースと同様、違いがあると思います。我々の技術力というのは我々の商材、つまり工具ですね、英語で言えばマシニングという分野の技術力はどこにも負けないと。他方、山善さんの目指す技術というのは、口幅ったくなりますがマニュファクチャリングであり、生産全体に対してサジェスチョンする技術力をどこまで磨き込めるかということでしょう。そのなかにマシニングは含まれます。ここで互いの強みを活かしあえると思うんです。例えばカーボンニュートラルへの対応といった生産すべての仕組みからメスを入れていかないと解決できないようなことに対し、山善さんが持たれているリソースの組み合わせによって解を出し、出すだけでなくやってのける。要はマシニングと言う専業的な部分と、マニュファクチャリングというプロセスそのものを含めた総合的な面とを重ねて、何かしらモノづくり業界に提案する力を磨いていくことが、一歩も二歩も先を行くひとつの道じゃないかと思いますね。

【人財】日本のレベルの高さを武器に

岸田 100%同意しますね。マニュファクチャリングの全体的な生産支援、技術サポートを我々がやり、専業的な技術面でメーカーさんに貢献いただくという体制がモノづくりへの貢献に欠かせません。このスタイルで事業を伸ばすには私どもはもっと技術を磨かねばならない、これは今なお課題だと感じています。

大沢 技術スタッフの養成ひとつとっても、悩みどころでありますね。

岸田 ええ。海外スタッフには加工に詳しい技術者もいれば、構想設計や別の特定工程に秀でたものもいます。ただ、例えば生産工程全体の自動化をディレクションできる人が欲しいと思って高いサラリーを用意してもそうは集まらない(苦笑)。技術をトータルに磨いて仕事すべきだと、「これは大阪の立売堀で決めたんだから従いなさい」と言っても通用しませんし(笑)。だからなぜそういうトータルな技術サポートが必要なのか?ということを真剣に伝える必要がある。すると「そうかなるほど」と、モチベーションを上げてくれる現地スタッフも増えています。ここまでをしっかり伝え切れればついてきてもらえるんです。余談ですが山善70余年の歴史の中で初めて現地採用のスタッフが役員になりました。役員会議では同時通訳を入れるなど苦労していますが(笑)。

それと同時に、話は変わりますがお客様のサポートという点で、日本スタイルのすばらしさということをよく考えます。というのも、私は長野県で営業を10年ほど経験したあと海外に赴任したのですが、お客様が何を求められているか?を親身になって考え、どういう解決策がベストか?を、国内商社様は社長からご担当まで非常にレベルの高いところで実践されている。それもマーケットシェアを常に意識して事業を進められている。これは海外の商社さんにはないですよね。そういう企業様は地域貢献という意識も極めて高いと実感します。偉そうな言い方に聞こえるかもしれないけれど、ほんと国内市場で流通に携わる方々は素晴らしくレベルが高いと思います。

大沢 海外のディストリビューターは多くが提案力がないしドライですよね。優秀な方はいらっしゃるが。日本の地域商社はお客様からは見えないウラの努力も凄いですし。

岸田 サービスの質が高いという日本の強みは将来に活きるんじゃないでしょうか。

大沢 ただ日本もずっとこのままかというと、日本も人手不足問題があり、享受する側は今までのサービスを引き続き求めてくるでしょうが、人が創り出す付加価値の高いサービスと、システマティックな対応のハイブリッド型に変えていき、そうしたなかでなお日本の良さを世界にアピールできる方向にもっていきたいですね。

岸田 ええ。是非日本の上質なサービスを活かしながら、国内で世界で、モノづくりに貢献できる事業を拡げたいと思います。互いのリソースを活かしあって、ともに、未来を切拓いていきましょう。今日はありがとうございました。

(日本物流新聞 2024年2月10日号掲載)

関連記事

mt:ContentLabel>サムネイル

生産性を飛躍的に高める切削工具

切削加工における生産性向上を図る上で、もっとも費用対効果が高いと言われている「切...

mt:ContentLabel>サムネイル

IT人材難時代におけるモノづくり企業「DX推進」の鍵

我が国モノづくり企業はデジタル化においてライバル国に大きく遅れを取っている—。数...

mt:ContentLabel>サムネイル

狭まる「脱炭素包囲網」

すでに深く浸透したカーボンニュートラル(CN)というワード。「またその話か」と顔...

mt:ContentLabel>サムネイル

オンライン座談会:日欧中のロボット技術とユーザーメリット

少子高齢化に伴う人手不足、なかなか改善しない労働生産性―。その解決に有力とされて...