【対談】SMFL「排出権付リース」中小企業初事例
- 投稿日時
- 2025/04/09 10:25
- 更新日時
- 2025/04/09 10:36

【写真右】岡本技研 小原 雄一 会長
SMFL 十輪地 孝宏 氏 × 岡本技研 小原 雄一 会長
先手先手の環境対策、選ばれる中小企業の競争力に
岡本技研(大阪府堺市)は昭和55年8月創業の比較的若い会社ながら、充実した設備で高品質の部品を製造し、最新鋭の検査機で品質管理ができる体制を整える。その研ぎすまされた生産力で大手メーカーから主要パーツ・製品の生産を託される。また環境に対する取り組みにも積極的で、ESG委員会の設置、太陽光発電やLEDの早期からの活用、切粉破砕圧縮機による切削油の再利用や産廃削減などを実施。中小企業としては極めて先駆的、野心的な環境対策を実施する。同社が、さらに一歩歩みを進めるために選んだのが、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)が提供するCO2排出量をJ︱クレジットで相殺する「排出権付リース」だ。大手企業では導入事例があった同リースだが、中小企業としては初の導入となる。大手取引先から環境対策を求められることも今後増える中小企業。本事例は、中小企業の環境対策戦略の参考になりそうだ。そこで岡本技研の小原雄一会長とSMFLエリア営業部(大阪)十輪地孝宏副部長に対談してもらった。
――岡本技研はESG活動に積極的ですね。
十輪地 岡本技研さんの取引先企業は、サプライヤーに対して社会及び環境に対する責任を果たすための規範を遵守することを求めていますね。
小原 取引先の要求にお応えすべく、設備面でCO2の削減を目指し、コンプレッサーの適正化や、CO2排出の少ない最新設備の導入を行ってきました。また産業廃棄物の廃棄量の更なる削減と徹底した管理も実施。廃棄油の再利用も行っています。
十輪地 産業廃棄物や廃油の再利用は具体的にはどの程度進んでいますか。
小原 あるメーカーの切粉破砕・圧縮機を導入し、複合加工機に搭載することで約41Lの切粉を圧縮して約3㌔にしました。減容率としては、約22分の1となり800㏄の切削油を再度リサイクル出来るようになりました。産業廃棄物の破砕、圧縮による脱油と減容化も行い減容率としては、約7分の1となり850㏄の切削油をリサイクルに回せています。環境だけでなく不法労働がないことをしっかり証明するなども行う必要があり、安全衛生委員会とは別に、昨年11月にESG委員会を立ち上げしっかり取り組んでいます。
――サプライチェーン全体で環境対策を求められる時代ですね。
小原 我々一次ベンダー、だけでなく我々から二次、三次と広く対応を求めないといけません。我々、一次ベンダーがまず手本にならないといけませんので、厳しく取り組んでいます。
十輪地 貴社は、取引先に求められる以前より環境対策に率先して取り組まれていますね。
小原 十数年前から太陽光発電とLED化に取り組んでいますね。堺市ではLED化についてはもっとも早い企業の一つです。
十輪地 どういった狙いがありますか。
小原 如何に原価低減をするか、ですよ(笑) ビジネスとしてのインセンティブがあるからこそ、継続的に社会的責任を果たしていくことができます。
十輪地 ESG委員会を立ち上げられて率先して取り組んでいる中小企業というのは、まだまだ少ないですよね。
取引先大手のESG要求は拡大する
小原 主要取引先が「世界スポーツ用品工業連盟」に加盟されており、環境や人権での取り組みが先駆的に強化されていくのはわかっていました。ただ、どの中小企業も、取引先の大企業から遅かれ早かれ取り組みを求められるでしょう。後追いで対応するのではなく、先手、先手で環境対策するのが、選ばれる中小企業としての競争力になります。
十輪地 「攻め」の環境対策ということですね。
小原 品質と納期と価格、これが中小企業が仕事を受注する勝負所でしたが、これからは環境対策などの社会的責任が加わります。対応できない企業は淘汰の対象になるかもしれません。また率先した取り組みの結果、現在のISO9001を取得しておりますが、このままの取組みで同14000も一年程度で認証取得したいです。
――環境対策に積極的に取り組む中で、さらに一歩進めるための「排出権付リース」だった。
十輪地 カーボンオフセットに向けた、次の一歩の提案として「排出権付リース」をご案内しました。省エネにつながる設備を入れるといった分かりやすさがないので取っつきにくい面もあったとは思いますが「他社に先んじて取り組む」という小原会長のお考えもあり採用していただきました。簡単に言えばリース物件から排出されるCO2に対して、当社がJ︱クレジットと呼ばれる排出権を購入して相殺するもの。このオフセット(無効化手続き)も当社で対応します。中小企業としては岡本技研さんが初の採用となり、大変意義深いものだと思っています。
小原 環境対策をやりつくした、とは言えませんが、出来る範囲のことには着手しました。ただ、ゆくゆくは「何%CO2を削減しなさい」というように具体的な要求をされる可能性が高く、立ち止まるわけにはいきません。これまでと異なるアプローチに魅力を感じました。
――設備から排出されるCO2を算出するなどご苦労も。
小原 算出は当社側でしないといけませんが、当社だけではできませんでした。仕入先の機械・工具商社「山善」、設備メーカーの協力を得て、機械の電気使用量データと、当社の機械の稼働時間を掛け合わせてシミュレーションしました。3社がコラボレーションしないと成しえなかったと思います。
十輪地 CO2排出量の算出はお客様にご対応いただく必要がありますが、環境対策という目的を共有しやすい取り組みなので、3社での連携も比較的スムーズだったと感じました。他の中小企業でも実施可能だろうという手ごたえを得ました。
小原 十輪地さんはほんとに勉強されていましたね。
十輪地 小原会長の想いに応えたいと炭素会計アドバイザーの資格も取り、御社のESG委員の一人になったつもりでがんばりました。
小原 十輪地さんにとってもビジネスとしてのインセンティブと社会的責任の両輪が上手く回って頑張ったわけですね。
――6月に設備がはいると。
十輪地 排出権付リースの契約が成立したのが本年1月。設備の導入は6月になります。第一回のオフセットの決算が7月15日に。今後、オフセット手続きを都度、当社で行っていきます。
小原 今回、排出権付リースで導入する複合機は既存機より加工時間を短縮できます。機械の効率が上がればそれ自体が省エネにつながりますし、企業価値の向上にもなります。最新機種への交換サイクルを早く回すことと排出権付リースの活用が、当社の新たな成長戦略の礎になりますね。
(役職などは2025年3月の取材時点のものです)
がっちり握手する小原雄一会長と十輪地孝宏氏
機械・工具商社「山善」カーボンニュートラルと環境ビジネスの両立を加速
グリーン戦略に注力
岡本技研における「排出権付リース」の設備サプライヤーとなり、同社に協力してCO2の算出を行った機械・工具商社「山善」のTFS支社。同取り組みの背景には山善の「グリーン戦略」がある。
「グリーンビジネスの拡大」に向け、全社戦略として「グリーン戦略」を掲げ、山善の温室効果ガスの排出削減、資源循環の促進や廃棄物の削減などの「株主資本コストの低減」に資する取組みとともに、事業面における「成長率の向上」の観点での取組みも推進している。
山善は、事業の特性上、生産設備を持たないことから、事業規模の割にScope1、2の排出量は極めて軽微だ。一方、オリジナル商品を有することから、Scope3の中では上流側カテゴリー1 「購入した製品(原材料)」と、下流側カテゴリー11 「販売した製品の使用による排出量」がその大半を占める。「当社がカーボンニュートラルを目指すためには、これらの排出量の縮減を図ることが、最も重要だと考えています」とする。
(日本物流新聞2025年4月10日号掲載)