1. トップページ
  2. 特集記事一覧
  3. 働き方を変える、働き方で変わる

働き方を変える、働き方で変わる

三栄建設の2017年に移転拡張した大正工場には、通称「鉄のミュージアム」と呼ばれる世界初の構造を取り入れた先進的なオフィスも

生産年齢人口の減少と労働市場の流動化で、日本の採用事情はひと昔前とは一変した。名の通った企業でもない限り、募集をするだけでは人は集まりづらいうえ転職サービスの存在もあって定着が難しい。そこから脱するには労働者に“選ばれる”企業に変わる必要がある。そのすべこそ働き方改革だ。いまこそ快適な環境を整え従業員エンゲージメントを高める、あるいは機器やシステムの導入で生産性を改善し、人に頼らない仕事のやり方へとアップデートしたい。本特集はそのヒントをハード・ソフト、モデル事例など様々な面から探る。


人手不足の状況


ただでさえ資源の少ない日本で、またひとつ「人」という重要な資源が目減りしつつある。限られた人材を多くの企業が争奪するような構図で、必然的に大企業がこの競争を制し、中小企業には人手が流れ込みにくい。生産性を高め残業を減らし、あるいは自社の労働環境を改善し快適にする「働き方改革」の真価が今いちど問われている。改革に成功した企業は多くが人材を確保・定着させやすくなり企業の基礎体力も高まる。逆に人を「使い潰す」企業は人の確保で苦しみ、早晩、行き詰まることが想像に難くない。

足元の人手不足はそれほど深刻だ。日本商工会議所と東京商工会議所が中小企業を対象に調査し95日に発表した「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」(回答企業2392社)では、人手が「不足している」との回答が63.0%を占めた。

人材.jpg

2024年問題に直面する運輸業(同83.3%)と建設業(同79.2%)の状況がとりわけ深刻で、製造業も同57.7%で人手が不足する。人手不足企業の65.5%が「非常に深刻(廃業のおそれ)」または「深刻(事業継続に支障がでるおそれ)」と回答しており、人手に窮する中小企業の多くが事業を継続できなくなるリスクに苛まれていることが明らかになった。

いわゆる「人手不足倒産」も急増する。帝国データバンクは104日に発表した調査で、2024年度上期(4-9月)の人手不足倒産が163件にのぼったことを示した。「年度として過去最多を大幅に更新した23年度を上回る、記録的なペースで急増」しており、状況は差し迫っている。


2030問題も


人が集まる企業には理由があるが、逆に集まらないことにも何らかの理由が隠れている。特に昨今は労働者も応募時にHPSNSなどを確認するため、働き方を改善しそれを各種媒体でうまくPRする企業は人材採用でもアドバンテージを得やすい。逆に職場の問題点を放置すると口コミサイトで悪評が広まる恐れもあり、離職率が高く常に求人を出している企業も敬遠されやすい。つまり職場の快適性を外から判断するための指標・方法が増えており、実直に働き方改革に取り組むかどうかが採用シーンで差を生むと考えられる。

一例として、鉄骨ファブリケーターの三栄建設はDXを進めて働き方を大胆に変え、わずか8年前と比べ時間あたり生産性を67%も増加させた(左に記事)。若手もすぐに活躍できる環境を整えた結果、人材は多様化し平均年齢34歳の若い力が着実に育つ。RFIDを用いた管理システムで棚卸作業を従来比24分の1の作業時間に縮めた例もある(7面に関連インタビュー)。このように適切な対策・投資で生産性は大きく向上する余地がある。

働き方改革が叫ばれて数年が経過し、すでに何らかの施策を行った企業も多い。ただ何かを変えるには労力がかかるため、取り組みが途上で止まった現場も多いのではないか。約5年後には「2030年問題」が控え、国内人口の3人に1人が高齢者になると予期される。仮にこれをデッドラインとすれば、働き方改革に取り組むための時間はもう、あまり残されていない。


■三栄建設

BIMを核にDX、やり切った先に大きな成果

時間あたり生産性67%


大阪のHグレード認定工場を持つ鉄骨ファブリケーター・三栄建設。2016年から始めたBIM)を核にしたDXが今まさに花開き、1日の業務時間は16年比で平均2.5時間減、時間あたり生産性は同67%増と飛躍を遂げた。鉄骨製作量は23年実績で34000㌧と同2倍強に増えたが、マンパワーには頼らず逆に社員数は微減。業務は平均年齢34歳の若手が中心になり、内勤女性比率も41%と人材の多様化も叶えた。DX果実を得るためどんな心構えで何を行ったのか。一連の取組みを進めた弘田昌文常務に話を聞いた。
書式3-2-02.jpg

開放的なオフィスで若手社員たちが働く

三栄建設は重軽量鉄骨が主体の鉄骨ファブリケーター。サブコンとしてあべのハルカスなど有名建築物の鉄骨製作を手がけ、来る大阪・関西万博では大阪ヘルスケアパビリオンへの鉄骨供給も担う。BIMを用いたDXを徹底した結果、2017年時点で約17千㌧だった同社の鉄骨生産量は23年実績で約34千㌧と倍増。にもかかわらず8割の社員が定時に帰宅でき、ワークインライフを実現する環境に変化。社員数はDXの効果が出始めた19年から徐々に減少、平均年齢34歳の若手社員が第一線で大型プロジェクトを引っ張る。だが同社も最初から成功を収めたわけではなかった。

DXの着手は16年。BIMソフト「Tekla Structures」の導入が端緒だった。同ソフトは3次元の構造設計が可能で、CADと違い寸法や見積等の建築情報を作成した3Dモデルに持たせられる。つまり業務全体をBIM前提の運用に切り替えれば、紐づいた様々なデータを使いこなし従来の2D図面より仕事の効率を上げられる……のだが、事はそううまくいかず多くの会社がベテラン社員や取引先の反対で未導入、または一部部署など限定的な運用に留まるのが実情だ。実際、三栄建設も運用を始めて2年程度は様々なトラブルや社内外の反対など「苦しみ」を味わったという。
3梁ロボット.jpg

梁溶接ロボットも運用中。BIMで作成した3Dモデルから動作を自動生成し教示レスで動く

だが同社は挫折せず、BIM活用をやり切り得たデータを「使い潰す」方針を取った。18年にはBIMで作成した3Dモデル(以下3Dモデル)との連携で材料発注や製作進捗を管理する独自ソフトを開発。その後も様々なソフト・システムで見積から製作、出荷までを一元管理できるようにもした。このDXが正確性と生産性を上げ様々な成果を生んだのは上述の通り。24年には悩める同業者に向けたBIM活用支援サービスも始めた。

■世界初のオフィス

同社の業務フローを詳しく見たい。まずはゼネコンから鉄骨の数量指示と図面(大半は2D)が届く。これを元に同社はBIM3Dモデルを作り、数量など様々なデータを足していく。見積はワンクリックで自動算出。発注も元は人が必要な数を2D図面から拾っていたが、今は3Dモデル内の情報に基づき発注リストも発注メールも自動で作成される。

生産も3Dモデルから作業量を分析、工場のキャパシティをグラフ化してピークを緩和するためのシミュレーションをオフィスで行い生産計画を立てる。鋼材加工には2D図面が要るが、本来人手で行う3Dから2D図面への変換も独自ソフトで自動化、それが加工指示書になる。加工プログラムも3Dモデルから自動作成し、現場は段取りを行い加工機を稼働させるだけ。実際、同社は年間3万㌧強の鉄骨加工を社員3人で担う。加工が終わると図面のQRを読み取り出来高データを作成し、計画と照会。出荷後の請求書まで作成する徹底ぶりだ。

こうしたDXと並行し17年には工場を移転拡張。オフィスも世界初の「3次元ボロノイ構造」を取り入れた先進的な建築とした。中に入ると、縦横無尽に配され幾何学的に絡み合う鉄骨に圧倒される。フロアは開放的だがさりげない段差で区分され、若手の社員たちが行き交う。様々な歯車がうまくかみ合った雰囲気を肌で感じられる。

一連の取組みを行った弘田昌文常務は「やれることはやったので、後は若手がどうやっていくかだ」と語った。同社の次の一手に期待したくなる。


※BIM:建築設計用の3Dモデリングソフト。3DCADと違い建材パーツに寸法や数量、価格等様々な情報を持たせることが可能で、その情報を基にDXが可能になる


【インタビュー】常務取締役  鉄構事業部長  弘田 昌文

やり切れば景色が違う


――BIMの導入前はどんな状況でしたか。

「人海戦術でした。工場を管理していた頃は、なぜ加工に必要な情報が遅れるのかと疑問でした。かと思えば一気に指示が来て、納期に合わせるには工場(の頑張り)しかない。立場が変わり全体の作業を洗い出すとものすごく2次元で手作業でした。PCを使っているだけで鉛筆と作業性が変わりません。このままでは明日がない。そういう危機感で、従業員の方々には半ば諦めてもらいながらツールを2Dから3Dへ丸ごと変えました」

――最初からうまくいったんですか。

2年くらいはしんどい時期でしたね。移行途中のトラブルで3D化が槍玉にあがることも相当ありました。ただやり切れば景色が違うと確信していましたから、とにかく一気通貫で3D化し、苦労はすべてご褒美として返してもらおうと。まずは経験がなければできなかった仕事をデータに置き換え、その活用のためにソフトを作りました。すると新たなアイデアも生まれて3Dモデルにもう少しデータを足し、それを吐き出す新たなソフトを作る。そういうサイクルを回したんです」

――若手も活躍されています。

「若い人は3Dに興味があり飲み込みも早い。2Dに慣れたベテランの方は年齢的に引退が見えています。若手の成長という観点でも3Dを選ぶしかないわけです。元々、修業せずとも仕事ができる会社にしたいという思いがありました。今はどの部署も昔のように上司の下について学ぶようなことはありません。自分の席の位置さえわかれば勝負ができます」

――働き方改革に悩む企業は数多くあります。経験からアドバイスを貰えますか。

「現状、働いてくれている方々の席をまず作ることでしょうか。我々も変化についていける人とそうでない人がいましたが、待遇を維持したまま活躍いただける場を作りました。変えるべきところは一気に変えるけれども、取り残さないことが重要です」

――フットワークも重要ですね。

「何かあればいつでも戻れますからね。リセットボタンはあります。押すと、痛みもちょっとだけありますが。行ってだめなら次の道に行けば良いし、八方塞がりなら止まれば良い。止まっている間に世の中が変わることもあります」


オカムラ「CO−Do LABO

(港区赤坂)

「社内共創」促す新オフィス


コロナ禍以降、ハイブリッドワークが進み社内コミュニケーションが希薄になったと耳にする。10年以上オフィスの働き方改革をサポートしてきたオカムラもそうした状況に陥った。5月、同社の「実証実験の場」の役割を持つラボオフィス「CO-Do LABO(こうどうらぼ)」(港区赤坂)を、同社としては初めてオフィス環境事業本部と物流システム事業本部が大規模に同居する「社内共創」を促す空間にリニューアルした。事業部と事業部だけでなく、個人と個人、チームとチーム、部門と部門など、様々な形での社内共創を目指すオカムラの最新オフィスを訪れた。


オフィスビルのエレベーターを降りてオカムラのラボオフィス「CO-Do LABO」に入ると不思議な印象を受ける。初めて訪れたにもかかわらず身体が空間にスッと馴染み、すぐにでも働けそうな気がするからだ。

オフィス環境事業本部と物流システム事業本部の約350人が働く約2400平方㍍のL字形フロアには天井高の仕切りがほとんどなく、有機的な形の一続きのライン照明がフロア全体を繋ぐ。

中央に置かれた空間「陽だまり」はイベントや勉強会、打合せなどフレキシブルに使用でき、両事業部の垣根を超えた共創を促進する。その両側には10人以上が座れる大きな机から4人ほどが着座可能な小さな机、ソファーからスタンディングデスクまで、様々な単位やスタイルで働くことが可能なスペースを用意。陽だまりと各事業部エリアの間にクッションのように挟み込むことで、ゾーニングを緩やかに示しながらもフロア全体の一体感を失わせない。

オカムラ_写真2.jpg

様々なワークスタイルを選択できる。ライン照明が事業部が交わる境界部分を柔らかく繋ぐ。「照度や色味を暖色系にすることで、落ち着きのある空間を作っています」(碇山氏)

社内共創をリニューアルのテーマとしながらもCO-Do LABOが「考動ラボ」である通り、ABWActivity Based Working)といった一人ひとりの主体性を高める働き方も従来通り重視する。

当然の如くすべての机がフリーアドレス化され、オンライン会議などに使用できる個室や集中スペースも用意。一人ひとりの生産性とチーム全体で連帯した共創を、緩やかなグラデーションのある空間構成によって違和感なく両立する。

■人をオフィスの中心に

CO-Do LABOの働き方改革は空間的な枠組み作りだけにとどまらない。部門ごとに活用・管理方法や部屋の設えを任されているBUSHITSU(部室)や自治会制度など、「人」を中心に据え、整えた環境をより上手に活用するための機会や仕組みづくりにも力を入れる。

オカムラ_写真3.jpg

BUSIHITSU(部室)の様子。部署ごとに使い方などを自由に決められる

「当社が長年サポートしてきた場や環境づくりが働き方改革に有益であることは分かっているが、一方でどんなに良い場を用意しても使う人の意識を変えないと改革が成功しないことも実感してきた。今回も、新たな働き方に慣れていない物流システム事業本部に向けては、移転前にワークショップや勉強会を行った」(同社取締役専務執行役員オフィス環境事業本部長兼営業本部長・河野直木氏)

移転後も事業部間での勉強会など仕事を通じた関わりだけではなく、勤務後のサークル活動などインフォーマルな関係作りの機会も積極的に推進する。

「両事業部は男女比や年齢層など社員の属性が全く異なる。仕事以外で触れ合う機会を増やすことで、より多種多様な共創を育めると考えている」(河野氏)

■日々実証

CO-Do LABOでは空間全体の実証だけでなく社内で多様な実験が日々展開され、アンケートなどで様々な社員からのバックアップを得られるような仕組みを取っている。

「デスクも意図的に様々な高さの物を用意している。これまで日本のオフィス家具は高さ720㍉を基準としてきたが、昇降デスクの活用状況を調査するとそれよりも若干高い位置で使用しているケースも多く見られた。そのため、固定デスクにも820㍉や750㍉など高さを変えた机を用意し検証している」(同事業部働き方コンサルティング事業部長・碇山友和氏)

今期中には事業部間同士での実証実験も始める予定だ。オフィス環境事業本部が展開する自動貸金庫の技術を応用した全自動ファイル管理システム「NEORE(ネオール)」に、物流システム事業本部の持つ自律搬送ロボット(AMR)の技術を連携させることで、オフィス内での自動配送を実現したいという。河野氏は「物流システム事業は当社にとっても伸びしろの高い事業。事業部をまたいだシナジーを生む活動を積極的に行っていきたい」と今後の活動に期待を示す。

オカムラ表.jpg


ルネセイコウ、超ワイドに座面高さ調整

座り方改革へ


PW-500.Si.jpg現代人とは切っても切り離せないデスクワーク。ただ長時間同じ姿勢で椅子に座り続けると次第に姿勢が崩れ、それでも座り続けていると腰や背骨が悲鳴を上げ腰痛になる。かく言う記者もこれを書きながら腰痛に悩まされている。

ルネセイコウの国産プロ用作業チェア「プロワークチェアーシリーズ」がその打開策になるかもしれない。座面の高さを簡単に、そして超ワイドに12段階可変できるので体への負担を軽減しながら作業性を上げられる。シートは用途に合わせて様々な選択肢があり、作業や体格差によらず快適性が高まる。

大規模製造ラインや細かい作業が必要な精密機器工場、最先端の学術研究施設や物流など採用実績は様々。同社によれば欧米の産業界でも採用され、高評価を受ける。大阪デザインセンターデザイン賞を受賞した見た目も功を奏し、一流ミュージシャンがステージ上で使うこともあるという。働き方改革の第一歩として、まずは座り方改革を進めたい。


■関連記事LINK


サトー  国内営業本部 担当部長(RFID販売担当) 山本 弘志 氏




(日本物流新聞1010日号掲載)