【建設・インフラ特集】現場を変える産業機器
- 投稿日時
- 2024/12/11 13:57
- 更新日時
- 2024/12/12 08:49
人手不足・物価高・環境対応の三重苦を打ち壊す
材料高、人件費や物流コストの高騰、現場作業者の働き方改革による人手不足など、建設業界には今これまでにないほど多方面から重荷がのしかかっている。特に、人手不足は深刻で、ほぼすべての分野の仕事で発生している状況だ。本特集の前半ではそうした厳しい現場の改革に取り組む企業や役立つ製品に注目する。後半では上流を担う鉄骨ファブリケーターや鋼材商社の最新動向について探った。
建設資材価格21年比33%増
人件費も平均16%上昇
(一社)日本建設業連合会が公表する「建設工事の資材価格高騰(2024年11月版)」によれば、今年11月の建設資材物価は21年1月と比較して約33%も上昇している(=グラフ)。世界的な原材料やエネルギー価格の高騰に、円安が追い打ちをかけているといった状況だ。
さらに、鉄筋工や溶接工、型枠工など建設技能労働者の労務単価も21年1月当時と比べると全国全職種単純平均で16%も上昇しており、ダクト工に至っては21.1%上昇している。
そのため、建設費のうち材料費割合を50~60%、労務費率を30%と仮定した際、直近の45カ月で全建設コスト(平均)は21~25%上昇している。例えば、100億円の建設工事では、21年1月時点では材料費と労務費の合計が80~90億円であったのに対し、24年10月時点では101~115億円に上昇しているとみられ、多くの工事で21年1月当時の契約金相当額を材料費+労務費が上回る状況となっている。
こうした資材価格の高止まりや人件費の高騰が、企業の倒産という形で表れてきている。帝国データバンクの「全国企業倒産集計 2024年度上半期報」によれば、建設業における人手不足倒産(55件)、後継者不足倒産(55件)、物価高倒産(127件)はいずれも業種別で最多だった。人手を確保するためには賃上げが避けられない状況にあるが、4月から建設業にも適用された時間外労働への上限規制が、建設作業を担う職人不足に拍車をかけ工期が長くなってしまっている。キャッシュフローが潤沢でない企業は資金繰りが悪化し、経営が行き詰まってしまっている。
■人の作業をロボットに置き換え
こうした状況にロボットの活用に期待がかかっている。YKK APが今年発表した業界初の非木造建築向け窓施工ロボット「MABOT(マボット)」は、協働ロボットとAMR(自律移動型搬送装置)を組み合わせた人協働ロボットシステム。窓枠を設置する「Alignmenter01(アライメンター01)」と設置された窓枠を自動溶接固定する「Welfixer01(ウェルフィクサー01)」からなり、これまで熟練作業者が行っていた計測からくさびを用いた窓枠の建て込み、溶接工程までの一連作業を2台のロボットシステムで自動化する。省力化だけでなく、高所作業による災害リスクの低減にも寄与する。今後、実現場での実証実験を進め、「2028年には実運用にもっていきたい」(同社担当者)と言う。
YKK APは窓施工ロボットで現場の省人化に寄与する
香川県に本社を置く建ロボテックも建設現場でのロボットの活用を推進する。自動鉄筋結束ロボット「トモロボ」はマックスの鉄筋結束機「ツインタイア」をセットするだけで、ロボットが鉄筋の上を走行し、ロボットが自走しながら結束作業を行う。従来、鉄筋交差点を現場の職人が一つ一つ手作業で結束していた作業を自動化できる。
建ロボテックの自動鉄筋結束ロボット「トモロボ」
トンネルなどのインフラの点検にも自走式のロボットの活用が進んでいる。東日本旅客鉄道とオンガエンジニアリングが協働で開発した吸引型壁面・天井走行ロボット「SPIRADER(スパイレーダー)」は、電磁波レーザーを搭載しているため、橋梁やトンネル、構造物の壁面や天井の鉄筋探査業務を非破壊で検査できるもの。これまで高所作業車などを使って人力で測定していたものを、本ロボットを活用することで、移動時間を大幅に簡略化させることができる。31年度から始まる新幹線の土木構造物の大規模改修に向けて実用化を進めていきたい考え。
■省施工建材や最新工具で省力化
各社ロボットの活用を進めようとはしているものの、実運用はもう少し先の話になりそうだ。一方で、建材や作業工具を手掛けるメーカーは、少しでも現場負担を軽くするため、省施工建材やより作業しやすい工具などを投入している。
パナソニックは「省施工」をコンセプトとした照明製品群「ハヤワザ リニューアル」を用意。電気工事業の職人にも今年4月から時間外労働の上限規制が適用されているため、施工方法の簡略化や器具の軽量化、既設設備の流用を可能にすることで、施工時間を最大55%削減する。導入した現場の約35%が、施工時間の短縮だけでなく、「施工に必要な人員が減った」や「体への負担が軽減された」といった効果を実感している。
創業100年目にして製造業に本格参入した保温・保冷工事の最大手・ナイガイは、現場作業の簡略化や省人化を狙いダクト工事のプレハブ工法を導入。従来、ダクトを取り付けてから断熱材を巻き付ける2つの工程を行う必要があったが、工場で断熱材を巻き付けたダクトを現場に納入することで、断熱材を巻く作業を省略した。「建設現場の職人不足は深刻なため、現場効率化する提案は広く支持を受けています」という。
こうした建材だけでなく、工具を見直すことで省力化することも可能だ。超高圧電力ケーブルや光ファイバーの敷設工事を手掛けている常陸放送設備の田村弘代表が推す工具がフジ矢のオートマルチストリッパ。
「電工ナイフを使っていた時は、芯線を傷つけないように気を付けながら被膜に刃を入れて、皮をむいていたのですが、これを使えばワンモーションで簡単に皮むきできます。インドに光ケーブルを敷設しに行ったときには、ケーブルの皮むき作業の早さにインド人を驚愕させました」(田村代表)
現場の省力化には最新動向をいかに上手く取得するかも重要になるようだ。
常陸放送設備の田村代表がおすすめするフジ矢のオートマルチストリッパ
キャドマック、配管溶接に板金ソフト応用
治具作成を簡便化
MACsheetSEG5は展開図の作成も可能
シートメタル用CAD/CAMソフトの開発・販売・メンテナンスを手掛けるキャドマックの「MACsheet」シリーズが、建設業界からも引き合いが増えている。特にシートメタル用3DデザインCAD「MACsheetSEG5(G5)」は、板金モデルを作成する機能を応用することで、3次元的にねじ曲がった複雑形状の配管の溶接・検査用の治具製作を容易にする。
「高性能なファイバー溶接機の登場で、誰でも安定的に溶接ができるようになりました。さらに、中華製品が国内メーカーの10分の1で購入できるような製品を出してきて、国内でも試しに導入する企業が増えています。しかし、実際に誰でも簡単に溶接できるかというと、溶接する際や検査時の治具作成のノウハウがないため、実際の仕事に繋げるのは容易ではありません。G5を使ってそこを簡単にしたい」(同社担当者)
あるユーザーが複雑形状のダクト製作にG5を使ったことがきっかけのため、従来のG5の機能でも治具データを作成することはできる。しかし、現在の機能では溶接治具ノウハウの無いユーザーが簡単にモデルを作成できるものではないため、誰でも簡単・的確に図面作成ができるように機能を見直し、今期中には実装したい考えだ。
建設向けアシストスーツ
フルハーネスや腕上げ作業に対応
イノフィスの高所作業向け「マッスルスーツ HARNESS PLUS」
労働時間の削減だけが作業者負担を減らすことに繋がるわけではない。建設現場では中腰や腕を上げ続けるなど、長時間にわたって不自然な姿勢で作業をし続ける必要のある現場がある。そうした現場は狭所や高所などそもそも機械を入れられないことも多い。人がやらざるを得ない作業に対しても補助する製品が充実しつつある。
東京理科大学発のマッスルスーツを手掛けるイノフィスは、フルハーネス安全帯に取り付け可能な高所作業向け「マッスルスーツ HARNESS PLUS」を10月にラインナップに加えた。フルハーネスの国内シェアトップの藤井電工と共同で開発した製品で、安全落下試験などを行い同社製「ツヨロンフルハーネスX型」に適合。配筋工事や建設資材の運搬時に使用することを想定している。「労働者の減少と伴い、高齢者や女性も現場に立つことが出てきた。誰でも働きやすい職場づくりに寄与したい」(同社担当者)
胸より上に腕を上げて作業し続けなければいけない現場も多くある。そうした作業の負荷低減に役立つのが、ダイドーが開発した「TASK AR TypeS」。腕上げ作業の補助をする一風変わったアシストスーツで、既に発電所のメンテナンスや配管工事、架線作業などで活用されている。ある企業では、上向き作業を10分間の連続で行う際、未装着の場合12回休憩したのに対し、本製品を装着した場合1回で済んだ。こうした上向き作業は上肢障害を引き起こすケースもあるため、本製品などを使って対策を取ることが求められる。
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スーパーツール 技術開発部 永屋 貴之 主任/阪本 良太 係長
トーヨーコーケン 執行役員 山梨事業所 生産本部設計 第二部 梶原 宏生 部長
営業本部 営業企画室 田村 紘一 リーダー
愛知産業 本社営業本部 商品統括部
ポータブルマシン販売統括課 課長代理 石坂 亮太 氏
育良精機 工具事業部 副事業部長 兼 営業部長 廣澤 道夫 氏
(2024年12月10日号掲載)