「物流の2024年問題」を迎え打つマテハン機器・システム

「物流の2024年問題」への対応状況がついに4月から顕在化する。2023年を通じて一般にも危機意識の共有がなされたことで問題への認識は高まっている。政府も2023年6月には「物流改革に向けた政策パッケージ」や「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」をまとめ、令和5年度の補正予算では「物流効率化に向けた先進的な実証事業」といった支援策を拡充するなど問題への本気度が伺える。一方で、現場の対策状況は十分とは言えない。4月を迎えるにあたり、今からでも取り入れられる対策や製品はまだある。識者やマテハン機器メーカー首脳、物流事業者などへのインタビュー・取材を通じて探った。

トラックドライバーへの残業規制が様々な問題に波及

4月からトラックドライバーの残業時間が上限960時間に制限される。「物流の2024年問題」は、他業種では5年前から適用されている働き方改革関連法の規制が、トラックドライバーにも適用されることで起こる諸問題のことを指す。

そもそも働き方改革関連法の改正目的は、「少子高齢化による労働人口の減少」や「長時間労働の慢性化」などの国内の根本問題にメスを入れるため。過労死の防止やワークライフバランス実現といった観点から、時間外労働の上限規制や勤務時間インターバル制度の導入、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保などを改正法に盛り込み2018年に成立した。

改正法にあまりにも現状がそぐわなかったことから5年の猶予が設けられたトラックドライバーの現在の処遇を作った原因は、1990年の道路貨物運送業の規制緩和によって新規参入事業者が相次いだことだ。過当な運賃の値下げ競争に便乗する形で、トラック輸送を利用する荷主企業も製品原価を下げるため、コストに見合わない長距離輸送や長時間労働、付帯作業を半ば強制してきた。トラックドライバーの給料を下げ、長時間の労働を強いる形でなんとか維持されてきた国内の陸送網は、月に100時間を超える残業がまかり通り、ドライバーの過労死や健康障害、過重労働による交通事故を頻発させた。トラックドライバーの働き方の見直しこそが働き方改革関連法改正の本丸と言っても過言ではないだろう。

輸送能力不足と運賃高騰のダブルパンチ

ドライバーの拘束時間が減ることによる最大の問題が、輸送能力が不足し、物が運べなくなるということ。政府が2022年9月に設置した「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、年間の拘束時間の上限を現行の3516時間から原則3300時間とした上で何の対策も施さなかった場合、24年度には19年度の貨物輸送量と比較して14.2%の輸送能力が不足し、30年度には34.1%不足する可能性があると言われている(表1)。実際に、(公社)全日本トラック協会の第5回働き方改革モニタリング調査(23年公表、グラフ1)でも年960時間を超えるドライバーがいる事業者が29.1%と増加傾向にあり、厚生労働省の調査(22年公表)でも20%超の事業者がドライバーを年間3300時間以上拘束していると回答するなど規制への対応は道半ばであり、4月から物が運べないといった状況も現実味を帯びてきた。

輸送コストの上昇も問題になりそうだ。(公社)日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が昨年12月に公表した「2023年度 物流コスト調査報告書【速報版】」によれば、回答企業166社のうち輸送費の上昇などを理由に値上げ要請があったと回答した企業が144社(86.7%)。そのうち、値上げに応じた企業が133社(92.4%)と輸送コストの値上げが徐々に進んできており、一部メーカーでは物流費の高騰を主な理由として、24年度に製品価格を見直す考えを示す企業も出てきている。

新たな人材は確保しづらい

輸送能力を確保するために真っ先に思いつくのが人材確保だが、トラックドライバーの人手不足は他の業種よりもさらに深刻だ。厚生労働省の調査によれば、自動車運転の職業の有効求人倍率は約2.7倍と他の職業に比べても約2倍と非常に高い水準にある。加えて、帝国データバンクが1月に発表した「人手不足倒産の動向調査(2023年)」によれば、23年の物流業界の中小企業の人手不足倒産は22年の20件から39件へと約2倍増加している。また、トラックドライバーの年齢構成は40〜54歳が45%超を占めるなど高齢化も深刻であり、問題のさらなる深化も否定できない状況だ。

荷待ち時間の削減が即効性アリ?

持続可能な物流の実現に向けて、これまで共同配送の検討やモーダルシフトなど輸送方法・手段の改革が検討の中心に据えられてきた。実際、共同輸配送を含む商慣行の見直しなどによる積載効率の向上は、2024年問題に対し最も大きなインパクトがあると確認されているが、一方で抜本的な改革は検討・実証段階であることが多く4月に間に合わない。

即効性のある対策が求められている今、次にインパクトがあり即効性もあるトラックドライバーの「荷待ち・荷役作業時間の削減」に取り組むことが肝要だ。国土交通省の調査によれば、現状トラックドライバーの1運行の平均拘束時間の内、荷待ち・荷役作業などに関わる時間は3時間を超える。これを1時間以上短縮すると、トラックドライバーの走行時間を規制適用前程度は確保できると見られている。実際、政府がまとめた「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」でも、真っ先に荷主事業者に荷待ち・荷役作業などに係る時間を合計2時間以内にすることを求めている。

荷待ち・荷役時間の削減に寄与する対策としてはどのようなものがあるか。政府が令和5年度の補正予算で新設した「物流効率化に向けた先進的な実証事業」は、中小の荷主企業への物流機器・システム導入を後押しする支援策。経済産業省の担当者が「即効性のある対策への投資枠として予算を設けている」と話すように、荷待ち・荷役時間の削減をターゲットとした補助金であると言ってもいいだろう。そこに例示されている物流機器・システムはパレタイザー・デパレタイザーやバース予約システム、レンタルパレット利用料、AMR、自動仕分け機、無人フォークリフトなどがある。いずれも、トラックバース周辺の省人化やDX化を短期間で実現できる製品が選ばれている印象だ。

拠点配置の見直しも

取り組みが進んでいないと言われつつも、荷主企業が水面下で着々と進めてきたことがある。物流網の見直しだ。トラックドライバーが1日に稼働できる時間は改正後も原則13時間と変わらないものの、実質的な運転時間上限は規制前よりも1時間強ほど減少するとみられている。これはドライバーの輸送可能距離にも制限をかけることになり、これまで500km超とされてきた1日の輸送可能距離が、450~360km程度まで減少する可能性がある。物流不動産のデベロッパーの首脳は「東北を例にあげれば、仙台を拠点に東北6県をカバーすることは今後は難しい」とみる。

既に物流網の見直しを進めている企業もある。窓製品を手掛けるYKK APは9月、埼玉県加須市に在庫保管型物流拠点「首都圏DC(Distribution Center)」を設置。システムキッチンなどを手掛けるクリナップは12月に商品物流拠点の相模原プラットフォーム(神奈川県相模原市)を全面改装した。いずれも、首都圏の物流網の強化を目的としており、YKK APは需要地で適正に在庫管理することで、現在輸送トラックのうち約3割を占めている長距離輸送(700km以上)や夜間輸送の削減とリードタイムの遵守の両立を目指す考えを示すなど、中継拠点の見直しの動きが加速している。

物流拠点の増加によって需要が高まっているのが、高い保管効率と省力・省人化に寄与する製品だ。そもそも中継拠点は敷地面積を大きく取れないことや人手の分散に繋がる。そのため、小規模から始められる柔軟性の高い自動倉庫や在庫管理の手間を省くことのできるピッキングシステムに注目が集まっている。実際、YKK APの首都圏DCでも同社初となる棚搬送ロボットによるGTP(Goods To Person)システムが導入された。増加する物流拠点に限られた人材で対応するためにも、省力・省人化に寄与する製品が求められている。

(日本物流新聞 2024年2月25日号掲載)

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