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AM EXPO初開催、航空・宇宙・防衛から自動車産業へ

投稿日時
2024/07/12 10:00
更新日時
2024/07/12 10:10
会場の様子

量産領域で日本の勝ち目あり

INTERMOLD名古屋やAM EXPO名古屋などがポートメッセなごやで、6月26日~28日にかけて同時開催され3万8998人が訪れた。今回初開催となった「AM EXPO名古屋」を中心にレポートする。なお来年4月16日~18日に東京ビッグサイトで第二回が開催予定だ。


日本AM協会の澤越俊幸専務理事は「1グラムでも軽く1ミリでも小さくすることに莫大なコストをかける航空・防衛・宇宙産業がAMを先導してきた。しかし去年の統計では、3Dプリンタの用途では自動車産業が抜いた。いよいよ民生品に軸足が移ってきた」という。だが、日本ではコスト、精度や強度への不安、品質保証の問題などが山積し積極導入に至らない。同協会は製品(量産品)ではなく「設計変更を必要としない、保守部品や治具・工具・ツールから取り組む」ことで、導入のハードルを下げようと試みる。また記念講演でデンソーの先進プロセス研究部ADM研究室担当次長の寺亮之介氏は、やがて来る量産段階では「日本の勝ちどころがある」と指摘する。

豊田自動織機はアルミ部品を鋳造する3次元冷却金型の事例を紹介。金型にはアルミを冷やすための冷却水管が通っているが、従来はドリルで加工するため直線的にしか配置できず、水管を通せない場所にアルミ溶着が発生。研きのために機械を止めていた。AMで金型を加工すると水管を毛細血管のように通せるのでアルミ溶着を防ぎ生産性が向上する。いすゞ自動車からも同様の事例が報告されていた。

三次元金型DSC_3349.jpg

豊田自動織機は3次元冷却金型

デンソーはAMで補給部品を代替え製造。量産のダイガスト部品と等価の品質に制御するAM技術のめどを立てた。2製品で信頼性評価まで完了させている。

中小企業でもAMを使って事業の可能性を広げた例も多い。高周波焼入れ用の銅製コイルを製造していたティーケーエンジニアリング。合屋純一常務は「銅製コイルは内部が空洞になっており、バラバラの複数部品をロウ付けで接合するか、バーナーで加熱して手曲げしていた。同製品を3Dプリンタで製造することで、ロウ付けが不要になり寿命が飛躍的に伸びた。既存品が10万個ほどしか焼入れ出来なかったのに対し100万個まで持つ。またロウ付けでは不可能だった形状も製造可能になった」とした。

銅製コイルDSC_3352.jpg

従来工法では不可能な形状の銅製コイル

■台湾の宇宙ベンチャー参入

台湾の宇宙ベンチャー「TiSPACE」が姉妹会社として北海道に設立したJT SPACE。ロケットの打ち上げサービスを提供する同社は、「ロケット部品を3Dプリンタで製造しており、自社開発の金属3Dプリンタも製造。それらを使ってプリンティングサービスなどを日本で提供していく」(担当者)とする。今年、自社製も含め10台の3Dプリンタを設置、来年には50台を設置予定で、アジア最大規模の生産拠点になるという。同社製のプリンタは低価格が特徴で「中国製は政府からの助成金で低価格を実現しているが、当社の機械はそれがなくても同価格を実現。欧米製の半分以下の価格なので量産が可能だ」と自信を見せた。


デンソー いすゞ自動車担当者インタビュー


自動車業界におけるAMの取り組みと今後の課題などについて、いすゞ自動車要素技術部鋳造技術グループシニアエキスパート・横山賢介氏とデンソーの寺氏にインタビューした。

金型における3D冷却水管の設計技術獲得に取り組んだ横山氏は「生産性を上げたいというのが第一にあり、豊田自動織機の講演なども見て『このままだとウチは、置いてかれるかも』との危機感が原動力となった。実際に取り組むと自由度が高すぎて、『これだ』というのがなく、あたりをつけて試行錯誤すると『そこそこ』うまくいった。ただし金型の壊れやすさなど課題も多く、ノウハウを獲得していけば今後の競争力につながる」とし「将来的には製品でも使えるようになるかもしれない。自動車会社なので『使える技術だ』と実証されれば図面を変えるところまでやれるかもしれない」と話す。

記念講演で先行する中国や欧米のプレイヤーも、やがて量産ならではの課題にぶつかるとし「量産経験ユーザーの視点を入れていかないと技術進化しない。逆に言うと日本の勝ちどころがそこにある」と指摘していた寺氏。「AMの普及にはコストダウンが欠かせない。材料を安くするためにはビッグユーザーの中で柱を決めて、マスを稼がないといけない。加工速度の高速化、または償却費を下げる活動へのサポートも必要だ。まだまだAM普及へのロードマップの共有が我々ユーザーとメーカー、業界で出来ていない」と指摘。また量産領域において「モノづくりの品質の追求ではまだ日本のほうが上だろう。半面、中国のエネルギーはすごく、これもすぐに追いつかれる。アドバンテージはあるがこのままだと負けてしまう。AMをいかに普及させるか、すぐにでもオープンな議論や対話を始めないといけない」と危機感をにじませた。


■メイン展示会INTERMOLDも盛り上がる

同時開催で、メインの展示会となるINTERMOLDでも様々な展示が来場者を楽しませた。牧野フライス製作所は長時間安定した高精度の加工を実現する立形マシニングセンタ「V56i PLUS」を展示。ベストセラー機「V56i」に、熱変異対策を強化したものだ。担当者は「テーブル内部に機械と温度を同調させた冷却液を流しており、加工しているうちにテーブルが冷えて時間がたつと精度が出にくいなどの課題を解決する。長時間の加工でも精度が安定しやすくなる」とする。仕上げ加工時間65時間で位置精度±2.5ミクロンのワークも展示し性能をPRしていた。

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大阪会場ではなかった牧野フライス製作所のキャラバントラック。 D2で加工した大型の金型を積んでいた。同トラックで営業スタッフが持っていけない大型ワークをユーザーに直接見せに行く。

地元企業の未来精工は名古屋会場だけの出展。バイオマスプラスチックの成形に適した金型技術の構築を目指していた。取締役の山田和敏氏は「どういった素材を混ぜたかで流動性などが全く異なる。かなりの数をこなさないとノウハウの構築は難しい。さまざまなユーザーと試作を一緒にやりながらバイオマスプラスチックが普及する近い将来に、金型技術を確立したい」とした。

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未来精工 さまざまなバイオマスプラスチックで成形したワークサンプル

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日本AM協会 専務理事 澤越 俊幸 氏





(2024年7月10日号掲載記事より加筆訂正)