高度化する工作機械
- 投稿日時
- 2022/09/08 10:33
- 更新日時
- 2022/09/08 10:41
マイクやウォッチで操作、AIがじわり浸透
多軸・複合・見える化する工作機械は操作方法も大きく変わりつつある。インカムイヤホンマイクでの操作を想定した認識システムを提案するのは牧野フライス製作所。まだ開発段階だが、部品加工向け立形マシニングセンタ(MC)「v61」に搭載し、たとえばオペレーターがマイク越しに「フィルター交換の方法を教えて」と聞くと、その手順を機械が教えてくれる。と同時にチャット形式で会話内容を操作画面に表示して、該当するフィルター交換のマニュアルを表示してくれる。同社はこう先を見据える。
「今後は『工具交換して』『切削加工をスタートして』といった加工指示にも応えられるように発展させるつもり。ここまでできないと意味がない。1人のオペレーターが10台くらいを動かし、しかも遠隔操作する時代なので」
牧野フライス製作所の立形MC「v61」はマイク操作だけでなく、3Dの形状データから加工方法を自動ではじき出すマシニングプロセッサ機能も
シチズンマシナリーはグループの時計技術を応用する。開発中のスマートウォッチ(シチズン時計製)は「3号機、15分後に検品に移ります」「刃物交換してください」「切削油切れです」などと加工機の状態を知らせてくれる。機械の状態や生産状況を可視化するデータ収集ツール「アルカートライブ2」やシチズン時計が提供するIoTプラットフォーム「Riiiver(リィイバー)」を使って実現するもの。これまでにもスマホやタブレット端末を使えば同様の情報は得られたが、別の機械操作や切りくず清掃、打合せの最中でもスマートウォッチなら確認しやすく次の作業にスムーズに移れる。
シチズンマシナリーはウェアラブル端末によるDXを推進
熟練技能が必要とされるプロファイル研削盤をデジタル技術でカバーするのはアマダマシナリーの「DPG-150」。最大400倍の拡大が可能なルーペとともに4Kデジタルプロジェクターを採用した。計測したい箇所をタッチパネルで触れるだけでCADデータと現場との誤差を瞬時に計測でき、されに補正加工まで自動で行える。ミクロン単位の高精度加工を誰でも「スマホ感覚の操作」で行えるという。
■金属3Dプリンター、材料そろい新規参入も
11月8日から東京で開かれるJIMTOF2022で特別企画「Additive Manufacruringエリア」(南展示棟内、53社・166小間の出展予定、特設セミナー会場では15本以上の講演も)が設けられることでも注目されるのは金属3Dプリンターだ。パウダーベッド方式の金属3Dプリンター(LPMシリーズ)をもつソディックは、その造形用材料として自社開発の金属粉末「SVM(Sodick Versatile steel for Mold)」を提案する。アルミダイカスト金型の使われるSKD61(ダイス鋼とも呼ばれる熱間金型用の合金鋼)相当の材料特性をもち、同社は「この大きさを超える大型品も安定して造形できる」と水冷管を張り巡らせたバッテリーケース金型(サイズ210×210×41㍉)を示して言う。
3Dプリンターの利用実績は米GEの航空機部品への適用などが報告されている。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の予測によるとAMの市場拡大はワールドワイドで確実視されており、2030年にはAM装置6500億円、AM用材料5000億~6500億円、造形品2兆円の規模になるという(NEDO技術戦略研究センターによる2018年予測)。参入企業は相次いでおり、牧野フライス製作所は切削・放電・レーザーなどに次いでAM装置を手がける考えを示している(シンガポールにある子会社の研究所が欧州企業と一緒に研究開発中)。
■5軸加工機、精度高まり拡張も
5軸の高精度化が進んでいる。松浦機械製作所が今春発売した5軸立形ハイプレシジョンリニアモーター機「LF-160」は超精密加工や金型の磨きレスを求めるユーザー向け。新開発の主軸は軸振動を従来比65%低減し、高速領域での切削面の粗さをRa0・1ミクロン以下(実績値)に抑えた。工具回転振れを低減することで小径工具を長寿命化できるという。
松浦機械製作所の「LF-160」で加工した磨きレスのダイカスト金型(SKD61、サイズ50×50×60mm、主軸は毎分4万6000回転で加工)
新たな機能が加わってきた。5軸立形MCを旋削仕様にしたオークマの「MU-4000V︱L」はギヤ加工など複雑形状ワークを1台でこなせる。これに多本数ATC、AP、ロボット、ローダーなど豊富な自動化拡張アイテムを用意したのが特徴だ。ドリル加工時には異常を検知し、工具とワークの損傷を防止するAI加工診断機能も備える。
キタムラ機械の30番横形MC「Mycenter HX250iG」はデジタルを駆使した第5世代にあたり、AIも活用する。「AIによりまるでコピー機を扱うように加工できる自動運転機能を搭載した」と言う。2面のAPCはさらに拡張することができ、「10APC仕様にして自動化をいっそう追求した海外ユーザーもいる」そう。制御装置だけでなくMC全体としてグッドデザイン賞を初めて受賞してもいる。
■超精密を極める
超精密加工に対応するマシンが揃ってきた。芝浦機械のMC「UVM-450D(H)」は自社製の空気静圧軸受主軸に直線3軸をリニアモーター駆動とする。温度制御された液体を構造体に循環させることで熱変位を最小限に抑える。支援ソフト「UVM︱TSA」を使えば加工時に切れ刃の形状や摩耗量といった工具状態やワーク形状を計測、補正値を算出して最適な加工に導く。
超精密を広い加工領域で実現するのは西部電機のワイヤ放電加工機「SuperMM80B」。X800・Y600㍉の加工エリアで他社が保証しないピッチ加工精度±1ミクロンを保証する。同社は「加工領域の狭い高精度ワイヤはあったが、ここまでの広範囲はなかった。だが多数個取りで少しでもストロークを大きくしたい声が多い」と製品化の理由を話す。
微細加工機を揃える碌々産業は、それらに組み合わせて用いる機上計測・追い込み加工システム「COSMOS」を提案する。加工後にワークを自動で洗浄する装置を新たに開発、洗浄したワークを機上計測し、自社開発の形状精度追い込み支援ソフト「Planet」で追い込み補正をかけるなど、加工機内で「加工→洗浄→測定→追い込み補正」のサイクルを回せる。
(2022年9月10日号掲載)