EVか内燃機関車か
- 投稿日時
- 2024/09/10 16:43
- 更新日時
- 2024/09/10 16:58
自動車生産を巡る動向
ここ数年、工作機械業界における決まり文句は「様子見が続いていて、自動車メーカーの設備投資が進まない」。EVなのか内燃機関車なのか。世界の潮流を見るとEVに傾いているように見えるが、マクロで見た自動車市場は内燃機関車がEVを圧倒している。EVシフトがこのまま続くのか、内燃機関はまだまだ使われるのか。各国の情勢を紐解く。
国際自動車工業会(OICA)が発表した2023年のグローバル新車販売台数は、前年の8287・1万台から985.4万台増(前年比12%増)の9272・5万台と大きく伸長。一方でEV(ハイブリッド含む)の販売台数は約1400万台。うち60%が中国、25%が欧州、10%が米国で販売されており、世界のEV販売総数の約95%を占めている。
つまり次世代自動車は新車販売の2割にも満たず、一部の国や地域を除いていまだに主役は内燃機関車というのが現実だ。
EV(ハイブリッド含む)のもっとも普及率が高い国はノルウェーで93%、次いでアイスランド71%、スウェーデン60%、フィンランド54%、デンマーク46%、ベルギー41%とヨーロッパ諸国が上位を占めている。ヨーロッパ全体の普及率は21%で、2023年に販売された車の5台に1台以上がEVとなっている。
ヨーロッパ以外の国の普及率は、中国が38%ともっとも高く、次いでイスラエル19%、ニュージーランド14%。我が国日本の普及率は3.6%にとどまる。
EV普及がもっとも進んでいる欧州を見てみると、普及率の高い北欧諸国は総じて再生可能エネルギーの供給が潤沢な国々だ。「再エネでEV」こそカーボンニュートラルを目指す上で最も理想的なカタチと言える。
一方で様々な問題も浮上している。まずEV普及率首位のノルウェーだが、自国ではクリーンエネルギーを使用しているが、二酸化炭素を生み出す石油と天然ガスを他国に売って外貨を獲得している。さらに同国はEV普及を強力に推進しているものの、EVインフラ整備に腰が重く、休日になると給電ステーションは激しく混み合う。
さらに道路から発生する粉塵も問題となっている。EVは同クラスの車体のガソリン車に比べ車重はおよそ1・5倍。タイヤの摩耗に至っては4~5倍に達する。それゆえタイヤとアスファルトからの粉塵が発生しやすく、首都オスロでは健康に悪影響を与える水準にまで達している。
■中国製EVの
他の欧州諸国を見てみると、EV販売はここにきて急失速している。最大の市場であるドイツは電気代の高騰に加え、EV購入補助金の打ち切りが追い打ちをかけ販売が低迷。加えて世界2位の販売台数を誇るフォルクスワーゲンがドイツ国内での生産工場の閉鎖を視野に入れていると発表。フォルクスワーゲングループのオリバー・ブルーメCEOは「欧州の自動車販売は深刻な状況。経済環境の厳しさが増す中、製造拠点としてのドイツは競争力の面で遅れをとりつつある」とし、工場、サプライチェーン(供給網)、人件費の削減計画を推し進める構えだ。
EV導入に積極的だったイギリス、フランスも段階的に支援を縮小しており、販売への影響が出始めている。加えて中国からの輸入、組立車は補助金の適用外とする国も出るなど、内燃機関車回帰、というよりは自国の自動車産業の保護及び中国外しという面が色濃い。
一方、EV生産、販売共に世界首位となった中国は、新車販売における新エネルギー車(NEV=EV、PHEV、FCV)の割合を2027年までに45%に引きあげることを目標にしている。もともと2025年までに20%以上、2030年までに40%以上、2035年までに50%以上に引きあげることを目標に掲げていたが、早々にこの目標を達成したため、2023年に目標値を引きあげた。さらに2035年には新車販売におけるガソリン車はすべてハイブリッド車にするとし、ガソリン車は市場から排除するとしている。
2010年から導入してきたEVの購入補助金を、段階的な削減を経て2022年末に終了したが、販売台数は伸長を続けている。2023年は補助金なしであったにもかかわらず、販売台数は前年を上回った。
これにはカラクリがある。まず販売台数の伸びに寄与したのは50万円EVとして爆売れした「宏光mini」をはじめとする100万円以下の低価格帯EV。またEVの供給過多による各社のダンピング合戦が熾烈に行われている。スマートフォン大手のシャオミもEV市場に参入し「SU7」を上市、わずか27分で5万台の予約を記録した。だが「1台売るごとに数十万円の赤字」という。シャオミ同様に市場参入したファーウェイも同様だ。「本来30万元(約600万円)以上で売らなければ元が取れないが、競争力維持のため27万元に設定した」(同社)という。これらの異常なまでの競争が働いた結果、販売が伸長している側面も見逃せない。
■ハイブリッドシフトが進む国も
供給過多のEVに変わって、新たなユーザーを取り込もうという動きも出ている。EV中国最大手のBYDは、最低グレードの希望価格が7万9800元(約170万円)の格安ハイブリッドセダン「秦PLUS」を市場投入、さらに6月には航続距離2000㌔というハイブリッドセダン「秦L」をリリース。国内外のニーズを捉えていく構えだ。
BYDのハイブリッド車「秦PLUS」
顕著なハイブリッドシフトが見られるのが米国だ。同国内における2023年度のEV販売台数はおよそ119万台、前年度からの増加率は約47%にとどまった。一方で、ハイブリッド車は前年比65%増の124万台を記録している。
創業以来、順調な伸びを見せてきたテスラ。だが2024年4~6月期決算は売上高こそ前年同期比2・3%増の255億ドルと微増したが、最終利益は45.3%減の14億7800万ドルと2四半期連続の減益となった。在庫ばかりが積み上がる中、従来の「値引きをしない」スタイルから一転。「モデルY」は30万~50万円のディスカウントを決行している。
他の自動車メーカーもEVの急失速に頭を悩ませている。フォードはEVに120万㌦(約1兆9000億円)の新規投資を行うとしていたが、これを延期。EV向けに建設されたカナダ工場もガソリン、ハイブリッドSUV生産にシフトする見込みだ。
日本国内でもハイブリッド車、エンジン車を見直す動きが出ている。トヨタ、マツダ、スバルの3社は5月、1.5リッター直4自然吸気エンジンと1.5リッター直4過給エンジン、2リッター直4過給エンジンの3種類を新開発したと発表。いずれもコンパクトな設計で、1.5リッター直4自然吸気エンジンは、既存の1.5リッター直3エンジンより体積が10%、全高が10%低減。1.5リッター直4過給エンジンは、既存の2.5リッター直4自然吸気エンジンより体積が20%、全高が15%低減。2リッター直4過給エンジンは、既存の2.4リッター直4過給エンジンより体積が10%、全高が10%低減した。
トヨタ、スバル、マツダによる新エンジン
出力と燃費に関しては、1.5リッター直4自然吸気エンジンと2リッター直4過給エンジンについては、出力、熱効率ともに従来エンジンより向上させている。
「脱エンジン」を掲げたホンダだが、5月の決算会見において三部敏宏社長は「ハイブリッドは我々のもともとの武器。今後も技術を磨く」と発表。また藤村英司執行役常務も「まだHEVを中心とするICE(内燃機関)モデルにもかなり注力していく」と意気込む。
「自動車向け工作機械需要は底を打った」と見る向きもあるが、果たしてどのパワーユニットに積極的な投資が行われるかは依然として不透明な状況が続きそうだ。
国内EV関連事業の動向
EVの販売が減速している一方、中長期的には市場拡大という見通しの大筋は変わっていない。国際エネルギー機関(IEA)は、全販売台数に対し、2035年までのEV(PHEV含む)の販売シェアは50%を超えると予測している。国内メーカーやSIerも、EV関連事業の生産能力拡張や製品開発の動きを強めている。
自動車や航空機産業を含むモノづくり全般の自動化に、ロボットSIerとして実績を重ねてきた豊電子工業(愛知県・刈谷市)。
最近の景況感について盛田高史社長は「かなり忙しくなってきている。手がけるシステムの内容がコロナ前とかなり変わり、以前は自動車だとエンジンやトランスミッション、ハイブリッドのラインを受注することが多かったが、今はEV関連の自動化の引合いが多い」と話す。「ギガキャストやバッテリーラインの自動化の仕事やEVラインの溶接工程を含めてこの1年ほどかなり多く、すでに納めたものもある。この需要に応えるために第5工場を本社のすぐそばに作った。ここではバッテリーのリーク検査装置を作る。1システム120㌧前後とかなり大きなボリュームだが、当社は単体ロボットのハンドリングというよりはラインとして受注することが特徴で、メガインテグレーターを目指してずっと活動している」。
受注獲得に向けて独自の取組みにも力を入れている。「お客様へのプレゼン時、たとえば電池ラインはかなり長いラインになるので、VRゴーグルを装着してもらい設備のなかにバーチャルで入っていく体験をしてもらう」。
「第5工場が稼働したところだが、次に6つ目の当社としては最大規模の工場を検討中。やはり電池のラインを受注しようとすると、長い工場が必要になる。ラインビルダーは大きな工場を保有している企業が多く、積極的にこの領域にも参入チャレンジをしていく」と力を注ぐ。
■モーターの溶接課題の解消
アマダは、神奈川県伊勢原市の本社内に昨年2月に開設した技術提案施設「アマダ・グローバルイノベーションセンター(AGIC)」について、訪問客の相談で最も多いのは溶接で、実に66%を占めると言う。関心が高い理由については「自動化率が低く、前工程の影響を大きく受けるからだろう。たとえばEVモーターには100カ所ほどのヘアピン溶接加工を速く的確に行う必要がある」(岸本和大イノベーションセンター長)と話す。この4月にアマダウエルドテックを吸収合併した同社は溶接事業を強化中だ。それを象徴するのが昨年10月のPhotonix(光・レーザー技術展)で披露した3次元レーザー統合システム「ALCIS-1008e」。4kWのブルーレーザーとファイバーレーザーの2種の発振器を切り替えられるほか、切断、積層造形もこなす。EVモーター用の72カ所のヘアピン溶接は3Dヘッドを用いて16秒で行えたことを一例として示した。