後工程を考える
- 投稿日時
- 2024/07/10 09:26
- 更新日時
- 2024/07/10 09:42
解消しない人手不足、自動化&省力化待ったなし
製品の品質を左右する最も重要な工程の一つでありながら、「キツい」「儲からない」と担い手が減少傾向にあるバリ取りや研磨などの後工程現場。刃物の一大産地や洋食器の磨きで有名な産地においてもその傾向は顕著で、これまでサプライヤーに依頼していた仕事を内製化・自動化せざるを得ないケースも増えている。
「(自動化機器を)導入した会社は『安上がりだった』『もっと早く導入すればよかった』という声が大半です」
こう話すのは、静岡県浜松市のバリ取り専業メーカー・藤本工業の藤本武洋社長。同社はバリ取りに特化したロボットSIer「TAFLINK」の幹事社でもある。TAFLINKが上市しているバリ取りロボット「バリトリガー」シリーズは同業のバリ取りメーカーをはじめ、これまでバリ取りを外注に出していたが、外注先の事業撤退を受けて内製せざるを得なくなったダイキャストメーカーなど、様々なバリ取りの現場で活用されている。
バリトリガーはバリ取りに深い知見を持つ、藤本工業、装置製作に定評のある東洋鐵工所、ロボットティーチングのエキスパートであるアラキエンジニアリングが現場目線で開発したバリ取り専用のロボットパッケージ。現在はワークの大きさや用途に合わせた3モデルを展開し、職人技に匹敵するバリ取りの自動化を実現する。
「TAFLINKでは機械やロボットを販売するだけではなく、後々の活用も見据えた勉強会も行っておりますので、1台導入して頂いたところからリピートで複数台導入、というケースも少なくありません」(藤本社長)
ロボットSIer全体を見渡しても、昨今は後工程へのニーズが増している。
「ここ数年、当社に寄せられる相談で一番多いのはバリ取り関連」。こう語るのはロボットメーカー・KUKAの代理店を務めるインフィニティソリューションズの小山田聡社長。同社に寄せられるのは金型加工やチタン製製品といった、ロボット自体に剛性が要求される製品の仕上げ加工だ。
「KUKAロボットは剛性が高く、加工精度の安定性、機械の頑丈さ、外力に対する変形のしにくさが挙げられる。また他社のロボットでは描けないような複雑な軌跡でも指示通りの軌跡を正確に辿ることができます。こうした点が金型や難削材を扱う現場から支持されている」(小山田社長)
■人とロボットの協働も進む
従来、手作業が主流だったバリ取りだが、専用機の導入による省力化・省人化も進んでいる。バリ取り機専業メーカーのオーセンテックは、ワーク形状やサイズに合わせたバリ取り機を多数ラインナップ。自社開発のブラシによる強力な研磨でバリを取りつつ、ヘアライン加工などワークの表面を美しく仕上げる技術も組み込んでいる。
「人手に比べ、バリ取りのスピードは10倍以上で圧倒的な仕上がり品質が得られます。また初めての方でもすぐに覚えられるよう、使いやすさも意識した機械作りを行っています。操作パネルにはタッチ式を採用しており、操作・設定変更がスムーズに行えるほか、視認性が高く、機械内部のワークやブラシの状況がひと目でわかり、作業がスムーズに行えます」(同社)
同社のバリ取り機は、洗浄機やロボットとの連携も可能。昨今では展示会ではファナック製協働ロボットを用いた工程間の自動化も披露している。
「ロボットとの併用で、作業の自動化を図りつつ、作業員の工数を極限まで減らせます。またそれぞれの機器に不具合が生じた場合でも、当社がすべての窓口となって対応できるようにしています。当社のショールームでは加工相談やテスト加工も行っています」(同社)
オーセンテックのバリ取り機+ロボットシステム
マコー、ウェットブラスト専業メーカー
精密加工の不可能を可能に変える
新潟県長岡市に本社を置くウェットブラスト装置の専業メーカー、マコー。1983年の創業以来、独自の開発力と技術力でこれまで2000台以上のウェットブラスト装置を製造・販売。世界20カ国以上への納入実績を持つ。高付加価値をもたらす後処理工程を実現する同社のコア技術を探った。
ウェットブラストは、粒子状の研磨材を投射し、ワークに衝突させ研削、研磨を行うブラスト処理のひとつ。研磨材と液体(主に水)を混ぜ、泥水のようなスラリーを作り、専用の噴射ノズルから圧縮エアによって噴射してワークを加工する。
一般的なブラスト処理としてサンドブラストが挙げられるが、扱える研磨材のサイズや加工精度などの点で大きく異なる。サンドブラストは圧縮空気で研磨材のみを吹き付け、比較的粒度の大きい研磨材を扱うため加工力に優れる。一方で、精密かつ均一な処理は苦手としており、投射される研磨材の粉じんの発生への対策や、前処理として脱脂や乾燥工程も必要となる。
ウェットブラストはサンドブラストに比べ加工力で劣るが、水を用いるために洗浄度が高く、微小な研磨材を扱えるため、高精度かつ均一な処理を実現する。また、サンドブラストでは研磨材と対象物の摩擦によって加工熱が発生してしまうが、ウェットブラストでは処理中に水が対象物表面を冷却するため、ワークへの入熱が生じない。
「ウェットブラストは乾式のブラスト加工では、投射が困難な微粒子を扱えることが大きな特長です。これにより対象へのダメージを極力抑えた、微細で緻密な後処理が可能です。また研磨メディアを流体で運用するためコントロール性が高く、表面粗さ、加工量を定量的に変化させることが容易で、かつ再現性にも優れます」(同社グローバルマーケティング部・須佐吉和氏)
同社がJPCAショーでお披露目した「WX(ウェットエックス)」
■圧縮エアを使わない新提案
同社のウェットブラスト技術は、自動車部品加工における前処理や超硬工具の刃先ホーニング、電子部品・半導体における精密バリ取り、航空機のおけるタービンブレードのピーニング、あらゆるモノづくりの現場で活用されている。
「切削工具における前処理では、複雑形状に対応しつつコーティング密着強度を上げ、製品によっては工具寿命を3倍にできたケースもあります。また半導体や電子部品における樹脂の薄バリも、当社のウェットブラストなら母材にダメージを与えず除去できます。ワークにダメージを与えないので、0.15㍉程度の極薄セラミック基板の異物やクラック除去にもお使い頂いています」(須佐氏)
そんな同社が6月のJPCAショー2024で新たに提案したのが、コンプレッサーを使わないウェットブラスト装置「WX(ウェットエックス)」。従来、研磨メディアの混ざったスラリーを圧縮エアで吹き付けて加工していたものを、エア無しで実現するという全く新しい加工技術だ。
「脱炭素化や省エネが求められる昨今、コンプレッサーによる消費電力をゼロにしつつ、精密な表面処理加工を実現する装置です。まだ参考出品の段階ですが、これからしっかりとブラッシュアップし、ユーザーニーズにお応えしていきたいと考えています」(須佐氏)
■後工程最適化製品
淀川電機製作所、10万回再生のバリ取り動画
コンパクトで安全性高いバリ取り機
わずか10秒ほどの「バリ取り」動画が、YouTube、X(旧ツイッター)、インスタグラムを合わせ、10万回を超える再生回数で注目を集めている。
淀川電機製作所の集塵装置付きバリ取り機「FW305S」の動画がそれだ。高速回転する研磨布に、素手でワークを持って研磨、続いて素手で研磨布に触れるという内容だが、金属を磨く、バリをしっかり取れる研磨布でありながら、素手で触ってもケガひとつしないという高い安全性がアクセスを伸ばしたようだ。
幾重にも重ねられた研磨布は、実際に手で触れてみてもその柔らかさが良く分かる。一方で布表面には細かいスリットが施されており、「人に優しくしっかりと研磨」できるようになっている。標準搭載されている集塵機は、作業時に発生する粉塵をしっかりとキャッチ。高性能カートリッジフィルターの採用と操作性に優れたシェイキングレバーにより、粉塵の剥離性を向上させており、メンテナンスも簡単に行える。
「従来、工具で行っていたような面倒なバリ取りも、誰でも早く簡単に行える。またバリには個体差があるが、これも手作業による強弱がつけられるので最適な加工が出来る。コンパクトな設計で設置場所も問わず、複雑な操作も一切無い。切削部品からプレスやダイキャストもの、パイプやアングルなどの鋼材の仕上げ加工など、あらゆるバリ取り、仕上げ加工にお使い頂きたい」(同社)
淀川電機製作所「FW305S」
柳瀬、ファイバーディスク新製品
圧倒的研磨力と耐久力で爆売れ中
「予想以上に売れて供給が追いつかない」。5月に行われた大阪どてらい市において、そんな嬉しい悲鳴を上げていたのが研磨材の総合メーカー・柳瀬。同社が今春上市したファイバーディスク「ハッピーファイバーディスク」が好調なセールスを記録している。一時期のような品薄感こそ解消したものの「現在も順調に売れ続けている」という。
ディスクグラインダーによる研磨・研削作業において、研削メディアの性能は作業者の負担に直結する。より大きな力をかけなければ削れない、となると作業者の負荷はもちろん生産性においてもマイナス材料だ。また作業の振動もじわじわと作業者の体力を削る。
ハッピーファイバーディスクは抜群の研削性能と低振動、火花の軽減を実現したファイバーディスク。加えて耐久性にも優れており、ユーザーの信頼をしっかりと勝ち取った。
従来のオフセット砥石に比べて約6倍という高い研削力を生み出しているのが、同社が独自に開発した砥粒。凸凹に配置されたセラミック砥粒がワークに効率よく当たり、圧倒的な研削量を実現している。
「ディスクの粒度は#36、#60、#80の3種類を用意した。一般鋼やステンレス鋼、アルミなどの表面研削やバリ取り、面取り、焼け取りなど幅広い研磨・研削作業にお使い頂いている」(同社)
ハッピーファイバーディスク
レヂトン、作業性と可搬性に優れる
コードレスローラー研削機
切断砥石から研削・研磨に特化したソリューションを揃えるレヂトン。作業性と可搬性に優れるコードレスタイプのスイングローラー「CLSR―50」で後工程の作業効率向上を提案している。
本体構造をイチから見直し、ブラケット強度やギアの耐久性、砥石交換ボルトの耐摩耗性などを向上。ハードに使われる現場においても安定した性能を発揮する。
使い勝手にもこだわった。本体には1段階から5段階までの回転数調整とオートモードを搭載。用途に合わせた回転数や、同一の作業を行う際の利便性を向上させている。また研削方向によって本体カバーを反転して使用できるようになっているので、角度を変えての作業や狭小部での作業にも対応できる。
スイッチをオンにした状態でバッテリーを取り付けてしまった際にも、急に起動しないため、スイッチの切り忘れによる事故を防ぐなど、安全性も高めた。
「黒皮剥がしにおいて、従来のオフセット砥石に比べ5倍から8倍のスピードでの作業を実現する。採用いただいた現場では、広範囲のサビ落としにも活用されている」(同社)
バッテリーには36Vマルチバッテリーを採用。HiKOKIマルチボルトアライアンスに対応しており、他の電動工具との互換性も高い。
スイングローラー「CLSR-50」
東洋研磨材工業、定番「鏡面加工ショットマシン」に荒加工向けメディアが誕生
ショットブラストマシンの「定番」となりつつある東洋研磨材工業の鏡面ショットマシン「SMAP」。従来のエアブラストではなく、遠心力を応用した噴射加工により、研磨メディアの吐出量を大幅に向上。高い加工効率を実現するとともに、難易度の高い鏡面加工を「誰でも簡単に」行えるようにしている。
「当社のSMAPは乾式研磨のため、洗浄などの工程が不要。また専用の治具を使わずともすぐにセッティングと磨きが出来る。またノズルから発射する研磨材は弾性のあるものを採用しており、ワークの形状変化を極力抑え、均一な研磨を可能にしている。実際に目視しながらの研磨になるので、ムラなく磨けるとともに部分研磨にも対応できる」(同社)
これまで鏡面加工を始めとした仕上げ加工でその実力を発揮してきたSMAP。だが、昨今、同社には「荒加工への対応」ニーズが増加しているという。
「仕上げは機械処理しているが、前処理は手作業でやっているという現場や、加工面をブラスト処理しているが形状が崩れてしまう、といった現場から、研磨工程を効率化したいというニーズが多々あった。そこでSMAPで使える荒磨き用の研磨材『SDメディア』を開発した」(同社)
同社によると、研削盤やワイヤー放電加工で前処理した超硬ワークを約2分で表面粗さ0・3ミクロンまで均一に仕上げることが可能という。
東洋研磨材工業「SMAP」
モトユキ、黒皮取りから鏡面加工まで
幅広ベルトで作業効率向上
モトユキが5月に新発売したローラーサンダー「ハイローラーGMC︱HR―2A」は60㍉のワイド幅ベルトを採用。ベルト式はワークに馴染みやすく、点ではなく面で捉えるので狙い通りの加工面を得やすい。また広範囲を効率よく均一に作業できるので、作業効率と研削・研磨精度の向上も実現する。
「従来機のGMC―HR―1Aは無負荷で1分間に4300回転だったが、新製品のGMC―HR︱2Aは1分間5200回転に大幅パワーアップし、研削、研磨時の振動をさらに抑制した。細径グリップの採用で持ちやすく、作業負荷を軽減する。またアイドルローラーはスライド式になっておりベルトの交換もかんたんに行える」(同社)
同機種に対応する研磨ベルトも充実している。ベルトの砥材はワークや用途に合わせたCBN、シリコンカーバイド、ジルコニア、アランダムを用意。黒皮取りやメッキ取り、塗装剥がしに向く粒度60(P)から鏡面仕上げ向けの粒度2000まで6種類をラインナップした。
「トラック架装のロッカーレールの黒皮除去や、コンクリート型枠のサビ除去、金属製品のヘアライン加工や鏡面仕上げなど、幅広い現場でお使い頂ける」(同社)
ローラーサンダー「ハイローラーGMC-HR-2A」
不二越「バリは最初から無いほうがいい」
バリを出さない「バリレス」工具
切削加工と切っても切れない縁にあると思われていたバリ。しかし、「バリは最初から無い方がいい」をコンセプトに、バリとの縁切りを果たしたのが不二越のアクアREVOドリル「バリレス」シリーズだ。
同製品は従来のドリルに比べて先端の刃先を鋭角にして振れを抑制。切削抵抗が低減し、ドリルがワークを抜ける際、バリを細かく分断・切除しワークに残さないよう設計・開発されている。これにより平面の抜けバリはもちろん、バリ取りが難しいクロス穴の加工においても抜群の威力を発揮する。また切削長が伸びてもバリを抑制し、汎用ドリルと同等の長寿命を実現している。
「従来、バリを抑制しようとすると加工条件をどうしても下げなければならなく、工具寿命も短くなる傾向にあった。当社のバリレスシリーズは加工条件や工具寿命も汎用ドリルと同等でありながら、バリの出ない加工を実現できる」(同社)
同製品はドリル、タップ、エンドミルをラインナップ。バリレスタップ「SGスパイラルタップ バリレス」は、めねじの内径を総形で削るシェービングエッジがバリの発生を防ぎ、切りくずの噛みこみや工具の刃欠けを抑制する。
バリレスミル「アクアREVOミル バリレス」は左ねじれと右ねじれの入った形状で、上面、下面のバリを抑制するダブルヘリカルの採用によりバリの発生を防ぐ。「左ねじれの刃と右ねじれの刃で加工自体に上下の力がかからないので、薄板加工においてもたわみやびびりを減少できる」(同社)
不二越アクアREVOバリレスシリーズ
■関連記事LINK
(一社)バリ取り・表面仕上げ・洗浄協会 北嶋 弘一 理事長 (関西大学名誉教授)
(2024年7月10日号掲載)