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エネルギー安定供給とGX実現へ 

ここ数年、地政学リスクや為替変動により、エネルギー価格は上昇を続けている。資源を持たない日本は、エネルギーの安定供給、脱炭素を実現しつつの経済成長という難問を抱えている。原子力から再エネまでさまざまなエネルギーのベストミックスを模索する中、新たな技術の活用も期待されている。


エネルギー自給率の低い日本は、海外から輸入する化石燃料に大きく依存している。1970年代のオイルショックでエネルギー源の多角化が進んだが、東日本大震災以降は再び化石燃料への依存度が高まっている。 

一方で国際エネルギー価格はロシアのウクライナ侵攻に伴う急騰から落ち着きを見せているものの、円安基調が続いており国内での供給価格は一向に下がらない。資源エネルギー庁の試算では2022年の化石燃料の輸入金額は2019年に比べ22.4兆円増加。これが要因となり2022年は過去最大の貿易赤字(20.3兆円)を記録している。





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また世界のエネルギー情勢を巡る不確実性は増加の一途を辿っている。着地点の見えないウクライナ侵攻やイスラエル・パレスチナ情勢の悪化、さらに紅海やパナマ運河といった海上輸送の要衝でも紛争や災害が発生し、安定供給への懸念が生じるなど、サプライチェーン全体の観点からも、エネルギーセキュリティの確保が難しくなっている。

今後の電力需要予測だが、電力広域的運営推進機関が20241月に公表した今後10年の想定では、人口減少や節電・省エネ等により、家庭部門の電力需要は減少と予測している。一方で産業部門は生成AIの伸長やDXの普及により、データセンター・半導体工場の新設が各地で行われていることから、電力需要は大幅な増加を予測している。2030年までに日本の発電電力量は約1兆㌔ワット前後と見られているが、これが2050年には1.35~1.5兆㌔ワットにまで増加する見通しだ。

エネルギーの大半を海外に頼る構造が続く限り、日本は今後も価格高騰等のリスクに晒され続ける。エネルギーを巡る不確実性が高まる中、徹底した省エネや脱炭素エネルギーへ導入を通じて、エネルギー危機に強い需給構造への転換を進めていくことが求められている。

■太陽光発電の技術革新に期待

世界では先進国を中心にカーボンニュートラル(CN)、GXに向けた取組が加速している。日本はCNに加えて「エネルギー安定供給」「経済成長」も求められている。資源エネルギー庁の試算による2030年の発電コスト試算を見ると、東日本大震災以降「悪者」とされてきた原子力による発電コストが最も安い。近年、世界各国でも原子力発電再導入の動きが高まっているのも、コスト面やCO2排出量を鑑みての選択と言えよう。

一方で、再生可能エネルギーの多くは化石燃料による発電より高コストになりがちだ。しかしコストの低減と安定供給を目指す日本は、さまざまな選択肢をベストミックスしていかなければならない。

再生可能エネルギーの中でも、比較的低コストでの運用が可能とされているのが太陽光発電だ。このジャンルにおいてパイオニア的な存在であった日本だが、FIT制度の終了により固定買取価格が下がるとともに、太陽光電池の価格競争が激化。中国メーカーが次第に存在感を強め、国内メーカーは続々と撤退を余儀なくされている。

一方で、太陽光電池の技術革新による巻き返しも期待されている。現在、太陽光パネルの主力となっているのがシリコン系太陽電池。こちらは耐久性に優れ、変換効率も高いという特徴を持つ。しかし、太陽電池自体の重さや、屋外で耐久性確保のためのガラスの重みによる重量があるため、設置場所が限られるという問題がある。

これを解決するとされているのが、ペロブスカイト太陽電池だ。シリコン系太陽電池が重くて厚みもあるのに対し、ペロブスカイト太陽電池は小さな結晶の集合体が膜になっているため、折り曲げやゆがみに強く軽量化が可能なゆえ、設置場所を選ばない。また材料をフィルムなどに塗布・印刷して作ることが可能で、製造工程が少なく、大量生産ができるため、低コスト化も見込める。

加えてペロブスカイト太陽電池の主な原料であるヨウ素の生産量において、日本は世界2位、シェアの約3割を占めている。そのため、サプライチェーンを他国に頼らずに安定して確保できるメリットもある。

現在の課題として耐用年数の低さと大面積化が難しい点が挙げられているが、技術的なブレイクスルーが起これば、再び国内モノづくり企業による太陽光電池シェア拡大も夢ではない。

2024925日号掲載)