火災リスクは千差万別
- 投稿日時
- 2021/08/06 15:27
- 更新日時
- 2024/08/19 13:21
初田製作所、診断で危険を可視化し最適対策を
相次ぐ半導体工場の火災が、工場における火災リスクの大きさを改めて浮き彫りにしている。それにより生じたサプライチェーンの混乱は長期化の様相を呈し、自動車メーカーはじめ様々な企業が生産ラインの稼働停止を余儀なくされた。こうした事態を受けて企業も生産拠点における防火施策の見直しを急ぐが、総合防災メーカーの初田製作所は「企業ごとに固有の火災リスクを把握しなければ対策は不十分」と話す。業界初の火災発生リスク簡易無料診断サービス「HTCサービス」を展開する同社に、火災リスク診断の必要性や対策のポイントを聞いた。
初田製作所(大阪府枚方市)は、消火器や自動消火システムなどの販売・施工・メンテナンスを一貫して手がける総合防災メーカーだ。2014年には業界初の火災発生リスク簡易無料診断サービス「HTCサービス」を開始。国内外でプロの診断員による火災リスク診断を行ってきた。サービスに含まれるのは①診断員による巡回チェック②危険箇所を可視化した診断レポートの提出③具体的な安全対策の提案―の3つ。診断実績は1240件(21年6月時点)に及び、自社の火災リスクを把握したい企業側のニーズが窺い知れる。
ところで、同社がこうしたコンサルティングに注力するのはなぜだろうか。HTCサービスの責任者を務める上原政也さんは、その理由に「法定点検とHTCサービスの違い」を挙げる。 「法定の消防点検の観点は、あくまで法律に則って設置された防災設備が正常に動くかどうか。対してHTCサービスは企業固有の火災リスクを炙り出すことに主眼を置いており、目的が明確に異なるんです。法定点検ではレイアウトや生産物の種類などの個別の事情はあまり勘案されず、そこに火災対策の盲点があります」
そもそも法定の防災設備は、建物の広さと保有する危険物の量という2つの基準によって規定されたもの。しかし建屋内の状況は企業によって千差万別であり、そうした個別の事情は法規定の範囲外だという。そこが上原さんの言う「盲点」であり、企業が陥りやすい落とし穴というわけだ。
「建物が複雑高度化し現場で扱う危険物の種類も多様化するなか、法定点検で満足していては本当の意味での対策とはいえません。企業ごとの火災リスクを明確にし、最適な対策を打つ必要があります」(上原さん)
■見過ごされやすい火災リスクは
自らもHTCサービスの診断員として各地を回る上原さん。多くの工場には、共通して見過ごされやすい火災リスクがあるという。 「分電盤など電気設備の傍に段ボール等の可燃物がある場合が多いですね。また自然発火リスクも見過ごされやすく、例えば機械油を拭いたウエスは長期間空気にさらされると酸化現象で自然発火の恐れがあります。金属加工業界では対策が進んでいるものの、医薬品や食品業界など業界が異なると対策はまだまだの印象です。また製紙業界では紙粉が工場内を舞っており、火花で着火するなど火災リスクがある。そうした業界特有の事情も盲点になりがちです」
そうした部分を押さえたうえで、工場で気をつけたいのが生産設備だ。特にマシニングセンタや旋盤は異常加工時の火花が原因で油性切削液へ引火・発火する可能性があり、火災の早期発見・初期消火のため二酸化炭素を消火薬剤に用いた自動消火システムなど、生産設備「単体」で対策を打つ必要があるという。またパレットや通い箱などのプラスチックは可燃物と認識されづらいが、「それらすべてが火炎拡大の導火線になりうる」というから保管場所には注意が必要だろう。
こうした防火対策は、過去に火災に見舞われた企業やBCP構築に注力する一部大企業などで対策が進むものの、法定点検で十分と考える企業がいまだ多いのも実情だという。とはいえ火災は企業の存続を脅かす重大事案。上原さんも「『火災はすべてを失う』という言葉があるが本当にその通り。対岸の火事と思わず適切な対策を講じてほしい」と警鐘を鳴らす。
「火災と自然災害を不可抗力として並列に考える人は多いですが、火災は人災と捉えるべきでしょう。逆に言えば、災害のなかで火災だけは事前に発生リスクを低減できます。そうした観点から、今一度自社の火災リスクを見つめ直してほしいですね」
(2021年8月10日号掲載)