インタビュー
加茂精工 技術部 技術課 課長 片山 嘉丈 氏
- 投稿日時
- 2022/12/26 09:00
- 更新日時
- 2022/12/26 09:00
売上の7~8割を占めるラックアンドピニオン(TCG)を中心に減速機(ボール式、差動式)やインデックスを製造販売する加茂精工。受注生産で多品種変量対応や特注対応に強みをもつ。今月には同社で初となる大型差動式減速機の受注を始めた。
――最近の景況感は。
「当社の年度である昨年10月から今年9月の売上高は期初予想に対して120%と好調でした。この1年以上は上り調子ですが、ここにきて(11月末)落ち着いてきた感はありますね」
――12月に差動減速機「NSPシリーズ」の受注を始めました。
「当社主力のラックアンドピニオン『TCGシリーズ』と組み合わせて使える大型タイプの減速機です。これまで当社製品は片手サイズがメインで、大きなものでも外径160㍉ほどでした。ところが『NSPシリーズ』(許容定格トルク220~1146N・mの3型式)は外径270㍉と従来の2倍ほど、体積で4倍ほど。用途としては工作機械周辺での工程間搬送やロボット走行軸になります」
――貴社の減速機はギアの形状が変わっています。
「当社で最も特徴的なボール減速機(BRシリーズ)は溝の間のボールが転がりながら力を伝えるので音が小さく、バックラッシがなく、伝達効率がよい(高いものだと90%以上も)。テーブルの位置決めなどに向きます。効率がよいとモーターのトルクロスや電力消費を抑えられます。一般的な歯打音でなくボールの転送音なので嫌味な音が出ません。差動式減速機(PSR/PSLシリーズ)は薄くてボール減速機に比べると剛性・トルクが高い。薄いので物理的な自由度が高まり、モビリティなどの駆動ユニットでの採用が増えています」
――減速機生産のための主な設備は。
「高精度のマシニングセンタ(MC)です。5軸機を1台、3軸機は約10台保有しています」
――専用機でなくあえてMCを好んで使われる理由は。
「規格の定まった一般的なギアであれば歯切盤が使われます。当社の減速機はオリジナルの丸みを帯びた歯形状。(減)速比によってギア形状が変わり、いずれの形状もMCなら1台で面の仕上げまで含めて加工できます」
「一般的な歯切盤だと焼入れ後の仕上げは難しい。硬すぎて切れないし、切れても安定性を出すのが困難です。当社のような中小企業で製品ラインナップは多いが生産量はそれほど多くない場合には汎用機のほうが効率よく生産できます」
――減速機の歯車の加工で最も重視していることは。
「ボール減速機の場合はベアリングと同じ様に、ボールがスムーズに転がるよう面粗度に気をつけています。焼入れして硬い状態にしてから切るので、金型加工を1製品に適応しているような重切削です。昔は工具が折れたり欠けたりしましたが、ノウハウが蓄積し今では安定して生産できます」
「ボール減速機では同一形状の大口注文もあり、部品加工から組立までを一貫生産しています。加工者が1人もしくは数人で機械への素材セットから加工・組立・検査まで行うという流れをこの2、3年で構築し、特注品にも1個から受注生産します。将来的には他の減速機にもこの生産方式を適用するつもりです」
――多品種変量生産できることが強みですね。
「他の減速機メーカーさんだとお客様ごとの要望をあまり受け入れられないことがあるようですが、当社は柔軟な生産方法によって入力径や(減)速比などの要望にきめ細かく対応します。要望があれば何でもやる、というスタンスで、オバマ元米大統領が言うよりずっと前から当社の入り口に『Yes, we can.』と示しているとおりです。先代社長(現会長)の思いを込めたスローガンです」
――今後の製品展開や新たな需要開拓の予定は。
「当社の製品は産業向けの重厚なものが多いのですが、新ターゲットとしてサービスロボットで使ってもらえるような減速機を用意したい。また薄型製品はモビリティでの採用が増えていると先ほど申し上げましたが、軽量・高効率の2要素をさらに高め、もっとモビリティに特化したものを加える予定です。これらは早くても2、3年先の発売になると思いますが」
新製品TCG3212~4012型用精密差動減速機「NSPシリーズ」
加茂精工株式会社
1980年設立、社員88人
愛知県豊田市御作町亀割1166
売上の7割超を占めるラックアンドピニオンを月に3000-4000台生産、減速機は月に約600台生産
生産拠点として本社工場(延床3700㎡)とTCG生産専用の出雲工場(島根県出雲市、1600㎡、2020年6月竣工)を構え、中国、韓国には販社をもつ。丸みを帯びた歯形状やボールを用いたボール減速機が特徴で、高精度MCを使った受注生産で顧客の要望に柔軟に応じる。
(2022年12月25日号掲載)