インタビュー
牧野フライス製作所 取締役社長 宮崎 正太郎 氏
- 投稿日時
- 2022/09/08 14:52
- 更新日時
- 2024/08/19 13:17
「お客様の困りごとを聞く」に立ち返る
切削加工機を中心に放電加工機やCADCAM、ロボットなどを提供する一方、2020年には精密加工できるレーザー加工機を上市した。牧野フライス製作所はどこまで守備範囲を拡大するのか。6月23日付で社長に就いた宮崎正太郎氏に目指すべき方向を聞いた。
軽量・複合化対応のフレキシビリティのあるMCを提供
――社長に就任されて約2カ月。今の率直なお気持ちは。
「私が入社した36年ほど前は600人ほどの会社でしたが、今は4千人以上になり、10年、20年先の将来を見るようになってきました。ところが先を見すぎてしまい、お客様からは足元が手薄になっているのではというご指摘を受けます。ですからお客様の困りごとを聞くという当初の方針に立ち返るのが私の就任の抱負です」
――欧州勤務が長く、かえって客観的に会社を見られるのかもしれませんね。
「そんな意図もあるのかもしれません。60を過ぎ、本当はそろそろゆっくりしたいという気持ちがあったのですが、働きが足りないからもっとがんばれということなのかもしれません(笑)」
――EV・DX・GX化への対応が求められます。貴社は何を重視されますか。
「すべてに取り組めるわけではありません。開発資源、加工リソース、資金を含め限りがあるので、なるべくうまく選択していきたい。たとえばEVで当社が携われるものは現時点では限られています。一部の部品、バッテリーの金型などの製造でしょうか。EVはまだ過渡期にあり量産段階ではありません。量産になるとやはり専用機、それ以下だとマシニングセンタ(MC)がマッチングします。軽量化、複合化、部品点数減はEVのカギになり、複雑な形状になれば当社のMCがお役に立てるのではないでしょうか」
――EV化で部品点数が減り、必要とされる工作機械が変わると言われます。
「会社内でも様々な意見があり、まとまった1つの考えがあるわけではありません。国内外でエンジンへの関わりがありますので、EV化への危機感はあります。でも当社はエンジンと関係しない仕事も多く、EV化を私はポジティブに捉えています。いい機会なので軽量化、複合化に対応できるフレキシビリティのあるMCを提供していきたい」
――貴社は切削にとどまらず守備範囲を広げつつあるように見えます。
「当社はどうやっても切削。名前からして牧野フライス、Makino Milling Machineですから。ただ切削が研削や旋削領域を少しカバーできないかということに興味があります。ただしお客様が本格的な研削や旋削を必要とされるなら、専業メーカーさんの出番だと思います。餅は餅屋です」
■レーザーをゼロから開発
――貴社がいま最もアピールしたい製品は。
「切削加工、難削材・脆性材の研削加工、EDM(放電加工)に次ぐ新領域として2つあり、1つはレーザーです。7月21日にレーザー加工機『LUMINIZER LF400』を発表しました。放電では追い込めない微細加工、しかも速さの要求もあってレーザーを数年前から手がけるようになりました。数年前はスイスメーカーの機械をOEMで取り扱い、仕組みとしては水流をつくりその中にレーザーを当てることでレーザーの直進性を保つものでしたが、今回のレーザーはゼロから開発をスタートしました。2ミクロン前後のコーナーR加工が必要な半導体装置のセラミック製消耗品などが対象です。フェムト秒(10のマイナス15乗秒)と照射時間が極めて短いレーザーで、水流を用いず5軸制御により直進性を保ちます。もう1つはアディティブマニュファクチュアリングです。シンガポールにある子会社の研究所が欧州企業と一緒に研究開発しています」
――2ミクロンのコーナーR加工ができるレーザー加工機は珍しい。
「欧州に2社ほどあるだけだと思います。この精度をレーザーで加工するという例があまりありません」
――今秋は4年ぶりのリアルJIMTOFの開催となります。出展社として何を訴えますか。
「6~7月に愛知県で開かれたROBOT TECHNOLOGY JAPANで自動化をアピールしたのに続き、JIMTOFでも自動化を絡めた商品をお見せします。機械としては5軸加工機を中心に小~大型機を出品するつもりです」
「ただし納期が長くなっており受注残が多い。当社は日本で年間約3千台生産しており、これを10%増やしても追いつきません。20%増を目指しますが、サプライチェーンの問題もあり簡単ではありません」
レーザー加工機「LUMINIZER LF400」
(2022年9月10日号掲載)