インタビュー
京セラ 執行役員 機械工具事業本部長 長島 千里 氏
- 投稿日時
- 2022/09/08 14:49
- 更新日時
- 2024/08/19 13:20
CO2排出量をライン単位で可視化
脱炭素に向けた取り組みを進める京セラが7月、ユーザー向けに新たなサービスを開始した。切削加工における生産ラインごとのCO2排出量を自動算出するもので、ソフトは同社HP上に無料で公開。サプライチェーン全体での脱炭素化を強力に支援する。生産ラインという細かな単位でCO2排出量を可視化し、企業規模を問わずカーボンニュートラルへの参画につなげる。
――足元の景況感は。
「総じて堅調ですが、円安や部材費高騰など懸念材料が多く先読みの難しい状況です。ただ半導体や医療など国内外ともに好調な分野も多くあります。自動車の電動化に伴う産業構造の変化が進み、カーボンニュートラル(以下CN)も産業界に根付きつつあります。そうした変化をしっかり捉える方針です」
――CNへのユーザーの意識も変わってきていますか。
「足元で感じるのが、自動車業界におけるCNに向けた取組みの活発化。特に中部地方ではその潮流を肌で感じます。我々も昨年からCNに向けた提案を強化し、切削工具の新製品を採用頂くことによる高能率加工をPR中です。切削加工は機械の電源を入れるだけで電力を消費しますから、加工時間の短縮が消費電力の削減、ひいてはCO2排出量の低減に直結します。その考え方を国内に定着させるべく啓蒙活動を行っています」
――加工時間を短縮できる加工条件とはどのようなものですか。
「感覚的に高送り加工は電力消費が激しいと想像しがちですが、我々の検証では逆。消費電力の削減で重要なのは、荒加工の時間短縮と低速高送り加工です。これは社内で行った膨大な検証による結論。以前は毎分数万の高速回転が工作機械のステータスでしたが、この考えは転換点を迎えつつあります。また蓄えた知見に基づき、7月には生産ライン単位でCO2排出量を可視化するサービスを開始しました」
――サービスの概要は。
「機械の出力や消費電力、所在地(CO2排出係数に関係)などを入力し、実態に近いCO2排出量を算出するものです。ツールはHPで無償公開しており我々の切削工具ユーザー様に限らず自由に活用頂けます。環境負荷という観点で改善の余地がある箇所を炙り出し、そこにメスを入れることがCO2排出量の削減につながります。こうしたサービスは少なくとも国内では業界初という認識です」
――ティア2以降の中小企業など、CNに対し何から取組むべきかわからない企業の助け舟になりそうです。
「まさにそうした企業の方々を想定して設計しています。CNは取組みが始まった当初、工場単位でのCO2排出抑制を目指す流れでした。この場合、工場電力をクリーン電力へ代替するなど比較的アクションは容易です。しかし昨年秋から自動車メーカーを中心に、生産ラインや製品単位でCO2排出量の可視化と削減が求められはじめました。ティア2以降の企業にとってCO2排出量の細かな数値化は難しく、CNを阻む大きな壁。我々はその打破を目指します」
■DXで加工時間・負荷を最適化
――CO2排出量を可視化したうえで、どのような提案につなげますか。
「1つはデジタルトランスフォーメーション(DX)活用による合理化提案です。ユーザー様に全体の加工プログラムを提供頂き、シミュレーションソフトで加工負荷を解析。送りを上げられる工程や負荷が高い工程など加工負荷のバランスを取り、同時に加工時間を短縮します。またこの際に工具の刃先状態も考慮し、クーラントや工具材質の変更など刃具寿命を最大化する提案も行います。CO2排出抑制につながる工具選定も可能です」
――貴社の工具でCO2削減効果が高いものは。
「高能率の高送り加工ができるMFHシリーズは非常に有効です。日本では海外より高送り工具の普及が遅れており、『高送りは金型用』というイメージも根強い。しかし海外ではすでに部品加工でも高送り工具が使われています。また、我々の高送り工具でどれほど加工能率が上がりCO2排出削減ができるかを算出できるオープンサイトも開設しています。こうしたツールも活用し高送り工具の提案を進めます」
――こうしたCNを切り口にした提案は販売に結びついていますか。
「正直に申し上げ、ティア3・4のユーザー様への波及効果はまだ薄く、これからの状況です。とはいえ企業規模を問わずCNへの取組み要求は確実に強まり、長期的には実需につながると考えます。我々の工具の目的はお客様の生産性向上に尽きますが、そこにCO2排出削減やDXなど様々な切り口を加え複合的なサポートを行います」
高能率の高送り加工ができるMFHシリーズ。加工時間の短縮がCO2排出量の削減につながる
(2022年9月10日号掲載)