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インタビュー

イワシタ 代表取締役社長 岩下 大介 氏 
三刀流のバランス経営、福井県下最大の温浴施設「かいほつの湯」オープン

投稿日時
2026/09/10 13:33
更新日時
2026/09/10 13:37

「AI社員」で多角経営をさらに強靭に

創業77年の工作機械メーカー、イワシタ。実は同社を率いる岩下大介社長は、福井県を中心に11店舗の温浴施設を展開し、警備事業へも参入する独自の多角経営を続けている。さらに足元では、生成AIを活用して「AI社員」や「AI顧問」による合議体制を構築し、自社アプリの開発まで手掛けるなど、その経営スタイルは合理的かつ型破りだ。福井市内にリニューアルオープンした温浴施設「かいほつの湯」で、岩下社長に詳しく話を聞いた。

――工作機械のイメージが強いですが、温浴事業も展開されていると聞き驚きました。

「工作機械は今年で創業77年目。温浴事業のきっかけは30年前のバブル崩壊でした。当時福井にあった13社ほどのフライス盤・旋盤メーカーの多くは廃業か、またはマシニングセンタ(MC)へ移行しました。うちもMC開発を手掛けたが正直なかなかうまくいかなかった。何とか会社を立て直す必要がありました」

「そこで鯖江市の工場を福井市にあった創業時の工場に移転集約しました。不要な機械は売却し、社員も移転時は約20人に縮小。本業は顧客の要望に応じた専用機や、サッシ向け長尺加工機へ集約し再起を図りつつ、空いた鯖江の工場跡を活用したんです。敷地の半分に温浴施設を建て、残り半分にジーンズショップや本屋を誘致する家賃収入モデルを構築しました」

――同時期に転換を迫られた同業の中でも、転換の幅が大きい。

「それくらい(工作機械だけでは)間に合わなかった。同業は、口にこそしませんが『よくそんなことするな』と思ったはずです。工作機械の会社がサービス業を始めるわけですから。手探りでしたが、振り返れば『父も自分も風呂好きで客目線になれたこと』が功を奏したのかもしれません。今でも全国で流行っている商業施設や食べ物、アートなど、ヒントを掴むために何でも見に行ってベンチマークします。私が家業に戻った2001年は2店舗でしたが、ノウハウを蓄積しながら役所の施設運営代行(指定管理)も引き受け、今は11店舗まで拡大しています」

――福井市内に宿泊設備も備えた県下指折りの大規模施設「かいほつの湯」がオープンしました。

「ノウハウをすべて詰め込みました。施設を引き継ぐまで、中学生以上限定の施設だったんです。しかしコロナ禍以降、売上が戻らず常連客中心の利用に限られていました。経験上、対象が限られると客層が固定化します。そこで全世代が楽しめる施設へ全面改修しました。福井は三世代同居も多い。祖父母と孫が一緒に来られる場所を目指しています。館内はゾーニングを徹底し、お子様連れで賑やかに過ごせるエリアと、静かに寛ぎたい大人向けエリアを明確に分けています。食事にもこだわりました。麻雀室も残しましたよ」

――9月開業のサウナゾーンにも工夫があるそうですね。

「全国から“サウナー”を呼び込む仕掛けを用意しています。温度は少し抑え目でじわっと長めに入れる設定。プールの遺構と井戸水を使用した深さ1.4m80cm2段階、長さ14mの大型水風呂も作りました。通常の水風呂はそこまで長く浸かりませんが、じっくり浸かって体を冷やした後、小屋の中のバーで会話やドリンクを楽しみ、再びサウナに入る本場フィンランド風の滞在スタイルを目指しました。施設は永平寺や東尋坊、恐竜博物館の中間に位置するため、観光客が立ち寄るハブとしても機能させたいと考えています」

差し替えサウナゾーン.jpg

かいほつの湯に9月に開業したサウナゾーン。プールの遺構を活用した長さ14mの巨大水風呂は混み合ってもゆったり浸かれる。中央の小屋にはバーカウンターも

――工作機械と温浴施設では経営感覚がまったく違うのでは。

「企業相手か個人相手かの違いはありますが、やるべきことは大差ないと考えています。工作機械なら『機械が壊れてもしっかり面倒を見る』、温浴なら『お客さんの意見を聞いて現場を改善する』。顧客視点や組織づくりなど根本は変わりません。朝は工作機械の話、午後は温浴の話をするみたいな日々になりますが、語学と同じです。日本語と英語を切り替えるように、慣れてしまえば大きな負担には感じません」

――両事業を並行して展開する利点は。

「山谷が重ならないことです。例えばリーマンショック時、工作機械はガタガタでしたが温浴事業は順調で経営を支えてくれました。逆にコロナ禍では温浴事業がどん底で、工作機械は悪くありませんでした。大きな谷が来た時に片方が機能することでバランスが保てます。2年前に警備事業も始めました。警備の人手不足に悩む建設業界のニーズに応えるためです。スタッフが警備後は福利厚生で入浴できるようにして、現在は十数名規模で運営しています」

■自分の仕事をなくしてほしい

――多角的な事業をより強化すべく、社内で高度なAI活用を進められていると聞きます。具体的にどのようなシステムですか。

「生成AIClaudeを活用し、単なる検索や文章作成ツールではなく、最終的にAIに仕事をさせることを目的としています。具体的には、PC内に専門知識を持つ『AI社員』を多数構築しています。工作機械事業ならSNS運用、Webデザイナー、アフターサービス、グラフィックデザイナー、コピーライター、システムエンジニア、マーケティング、営業、管理、技能伝承教育などのAI社員を用意し、業務ルールを覚え込ませてチームで資料や提案を作成させます。さらに経営判断の壁打ち用に『AI顧問』を構築しました。松下幸之助氏など名経営者の思想を学習させたエージェントたちです。アイデアを思いついた際『顧問全員で意見してくれ』と投げると、各視点から厳しい意見が出されます。それでも必ずどこかに問題は潜んでいるので、『欠点を見つけて反論することに特化した専門エージェント』が徹底的に穴を探します。現実にそんな社員がいたら嫌ですが、役員や部長では言いにくい指摘も忖度なく出してくれて、内容も非常に的確です」

――AIを経営に取り入れたきっかけは。

「かいほつの湯のリニューアル計画時、資材高騰で見積もりが想定の1.8倍で出てきて、悩んでいました。コストは下げなきゃいけないけど、分からんから業者に『気合で下げてくれ』しか言えない。そこであるプログラマーを頼ってAIシステムに精査させたところ、削減すべき具体的なポイントとともに『1.3倍まで落とせる』と提示されました。実行したところ本当に1.3倍までコストを抑えられ、事業をスタートできた。『これはすごい』と。今まで騒がれてきたIoTDXと今回のAIはモノが違います。PCが世の中に出た時と同じで、一過性の話ではありません」

――AIで社内業務のアプリ化も自身で進められているそうですね。

「訪問内容を入力するだけでCSV化できる日報アプリや、若手がニュースを見ないので業界ニュースや入札情報を自動収集する『イワピックス』、社長不在時でも社員に返答する『AI社長』などをAIで自作してテスト中です。外部のサブスク型サービスを解約して置き換えることで、コスト削減と業務効率化を両立させています。いずれも年度内に本格運用を始めたい。社員には、自分の仕事をなくしてほしいんです」

――すると社員には何を求めますか。

「事務処理や資料作成、メール返信といった日々の業務は、AIが代行できる。しかし、AIが作ってくれた資料を抱えているだけでは、何も変わりません。本当に重要なのは、その資料を持って『ひたすらお客様の元へ足を運ぶ実行力』です。AIによって時間が浮いたからこそ、あえて昭和の時代のような顔を合わせ、時にはお酒を交わしながら生の情報を聞き出す『泥臭い対面コミュニケーション』に立ち返ってほしいと考えています。そこではこの人に仕事を出したいと思ってもらえる人間力も重要な要素になると考えています」

――数年後の貴社の姿が楽しみです。最後に、本業の工作機械の市況と今後の見通しをお聞かせください。

「受注状況は非常に好調で、前年比でほぼ倍増ペースです。半導体関連のアルミフレーム加工や制御装置系、航空機関連の構造部材の需要が立ち上がっており、強みである長尺MCの引き合いが強くなっています。JIMTOFでも自動化対応やツール本数を増やした長尺MCの新製品を出展予定です。世界的な半導体・AIサーバー向けインフラ投資を背景に、今後34年はこの需要水準が続くと見込んでいます。ただ懸念もあり、部材調達が難しくなってきました。注視する必要があります」

かいほつの湯外観.jpg

かいほつの湯の外観。宿泊設備も備える大規模な施設だ