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インタビュー

株式会社 山善 代表取締役社長 岸田 貢司 氏 
変化が常態化した時代だからこそ価値創造をフルスピードで

投稿日時
2026/05/15 09:03
更新日時
2026/05/15 09:10

国内卸機能とエンジニアリング力強化、そして海外市場深耕を一気に加速させる

生産財と消費財の専門商社山善の岸田貢司社長に、前3月期の振り返りと今後について、同社が掲げる中期経営計画の施策上のテーマ「価値創造」を切り口にして話を聞いた。岸田社長は、施策の実現に「スピード感」の言葉を幾度も繰り返し、価値の創造に挑むと強調した。


前期、売上高過去最高に

プロアクティブな事業活動に手応え


――前3月期は、3カ年の中期経営計画「PROACTIVE YAMAZEN 2027」の初年度でしたね。業績は計画を上回って増収増益、売上高は過去最高の5418億8500万円(=下記に業績結果と今期見込み)を記録していますが、どう振り返りますか。

岸田 先ずは何といっても、社員が変化する環境の中でよく頑張ってくれました。例えば、生産財の主力需要層である自動車関連の設備投資が回復途上にあるなか、過去最高売上げを記録できたことは誇らしく思います。また業界専門商社のなかで低いと言われる当社の営業利益率が、いくぶんですが向上した点も評価したいですね。

――その主要顧客向けの回復が途上のなか、業績を伸ばせた背景は?

岸田 常に、先手、先手で能動的に戦略を立て、行動しようという中期経営計画の骨子「プロアクティブな活動」が部門によって大きく奏功したと思います。産業ソリューション事業が、環境や人手不足から自動化・省力化対策に資する商材をタイムリーに市場投入し、期を通じて安定した実績を残せました。消費財部門では、住建事業が人口減・住宅着工数減の逆風があるなかで、新エネルギー・非住宅・既築分野など、日頃からターゲットとしていた新領域のビジネスを全国規模で伸ばし、増収を継続しました。こういう時代に合った事業スタイルに先手を打って取り組んだ成果が、前期も出たと思いますね。

こうした成果は、全国各地の販売店様と仕入先メーカー様の全面的な協力無くしては得られません。昨年、誕生50年を迎えた展示商談会「どてらい市」も、主催店である販売店様の真剣な取り組みによって予想を上回る結果を残せました。次の世代へ繋ぐ協業の形が更に強固になったと実感しています。

――他のセグメントについても、課題を含め前期を振り返ってください。

岸田  「変化をチャンスに変えよう」、という取り組み姿勢は全社に広がっていると思いますが、機械事業はもう一歩伸び切れず、ツール&エンジニアリング事業と家庭機器事業は微増収でした。まだら模様の設備投資や、商流がECに置き換わる商材が増えるなか、社員の多くが気構えをもって取り組みましたが、及ばなかった面もあったわけです。家庭機器事業は、やはり円安が響きましたね。

ただ、それぞれの事業部で課題は見えています。前半苦戦した機械事業も、下期には大型受注も増え今期への手応えが出ています。海外事業は中期経営計画で掲げる5つの戦略ポイントの一つである「グローバル展開の加速」が奏功し極めて順調でした。海外市場開拓はさらに加速させてゆきます。

今後を睨むと、各事業部で戦略を深めつつ、全社員が「スピード感を持って」実践して欲しいですね。社員によく言うのですが、「君たちならいつかは絶対やれるでしょう。山善の新しい価値をたくさん創れるはず。しかし、今の変化の時代はそれを創るスピードが成否を分ける」と。この「いつかは…」が、最も危険なのです。




価値創造、フルスロットルで

次世代技術の提案、海外深耕…


――27年度までを「価値創造期」と位置付けられたように、急激に進化・変化する時代の中で山善がどんな価値を生み、役割を果たすか。そこを特に重視されているようです。

岸田 はい。多様な成長投資で山善は価値を広げてゆきます。経営改革スピードの実現という点では、プライベートエクイティファンドのアドバンテッジパートナーズ社と事業提携しました。これにより過去から我々が進めてきた施策の「優先順位と精度」を更に高め、進取果敢に事業へ反映させてゆきます。

今期も増収増益を見込みますが、昨今のイラン・中東情勢など不安材料も多く、常に見通しが難しいですよね。こういう時代だからこそ、繰り返しますが、時間軸を短くして施策立案と実行スピードを大きく上げねばなりません。私は、こんな時代だからこそ山善の役割をどう果たすか?山善の存在価値をいかに高めるか?に向けて全社員とともに一点集中するつもりです。

そうしたなかで欠かせないのが事業投資や新組織展開です。これまでも新事業やユニークな企画を計画しましたが、正直なところ「やってみないと分からない」部分もありました。今の時代は、目線を定め、KPIを立てて進めないと確実な成果は得られません。「やってみないと分からない」は、命取りになる怖い時代です。

例えば、昨年4月に新設したICT本部は、これら(役割と存在価値向上)の実現に向け、フル活用します。少し経緯もお話すれば、効率化対策の一大プロジェクトだった新基幹システム(SAP)の導入です。この導入負担は想像以上でした。直後は混乱をきたし、お客様にご迷惑をおかけしましたし、社員の負担も想像を超えました。本当に苦労しましたよ。今はやっとスムーズに機能しており、嬉しいことに先行した生産財に続いて消費財部門へも展開が完了、年明けからは全社で機能しています。私が申し上げたいのは、新基幹システムの全社稼働が実現したということです。

ICT本部は、この新基幹システムが吸い上げる膨大なデータをつなぎ、分析して市場動向をタイムリーに予測し、営業にフィードバックする、まさにDX戦略を担う組織として登場したわけです。

――つまり、今おっしゃった、「やってみないと分からない部分」に正確な答えを出していける?

岸田 そのとおりですね。山善社員は、常に営業の前線で市場ニーズやお客様の個別要求に対応しようと懸命に取り組んでいます。ここにデータを活かせる態勢を整えたことで、営業の現場でさらに精度の高い、つまりお役に立てる提案ができるようになります。例えば、今注目されているデータセンター向け設備の具体的な需要、成長戦略に掲げられている半導体や造船、航空宇宙、防衛装備品等の市場動向把握は本当に重要ですよね。この実現にはデータの掛け合わせによる緻密で価値の高い営業提案が今の時代には必要です。私は、Yamazenデータの活用によって「人の優れた感性を大きく成長させられる山善らしい強みを後押しできる」と期待しています。もちろん、勘と経験と度胸も大切ですよ。

――さて、新たな価値創造ではDXモノづくりの提案もあれば、関心を集めるヒューマノイドロボット関連のプラットフォームなど、新しいビジネススタイルの構築を進められています。工具・機器類のECプラットフォーム「teraido」も育っていますね。

岸田 ヒューマノイド(人型)ロボットの社会実装は、確実に新たなビジネスを派生させると思っています。当社のトータル・ファクトリー・ソリューション(TFS)支社が軸となり、この現象を加速させようと、INSOL-HIGH(インソルハイ)社が主導するコンソーシアムに参画しました。そして、この新設立のコンソーシアムを 『J-HRTI(ジェイハーティ)』と命名し、フィジカルAI・ロボットデータ収集センターを立ち上げることを3月に発表しました。ロボットを動かすデータをこのセンターで蓄積し、ヒューマノイドロボットを実際の現場へ導入することを目指しています。

ご指摘のteraidoもそうですが、こうしたプラットフォームビジネスは、パートナー様のご理解を得ながらともに進めてゆきたいし、そのための協業体制も、時間をかけずに深めたいですね。

――海外事業も、今年に入ってマレーシア、インドネシアの現地専門商社をM&Aで買収したほか、ドイツでソディックと射出成形機販売の新会社を設立するなど活発ですね。

岸田 確かに手は打っていますが、まだまだ途上ですよ。海外は本当に難しい。昨年4月に海外事業部を新設した際、私は海外生産財の売上高を近年の800~900億円水準から27年度には1200億円まで押し上げるとお話しました。「そんな短期間に売上げを4割も伸ばせるのか?」などのご意見もいただきましたが、海外ビジネスの領域拡大はプライオリティの高い戦略として引き続き注力してゆきます。

海外では、どの国や地域も現地の需要とトレンドに合う専門性が問われます。現地ローカル企業との関係をどう作るか?現地ネットワークをどう有効活用するか?の視点で戦略を進めます。昨今は、アセアン地域を中心に中国勢の進出が著しい。彼らは、もう強いライバルになり、競争は本当に熾烈ですよ。有力な現地商社様とパートナー関係を深めることは、山善の価値であり強みである「販売力と技術力」つまり「心と技」の強化に繋がります。アセアン市場のみならず、ターゲット先そのものも見直しながら事業を拡大させます。




卸機能やエンジニアリング力を強化

創立80周年を控え、パートナーと協業深める


――事業拡充に向けては基本的に大きく3つの強化、「卸売機能」、「エンジニアリング力」、消費財分野中心の「PB商品拡大」を掲げていますね。

岸田 最注力すべきは、パートナーの皆様と『ともに』変化する市場へ挑戦すること。これは消費財、生産財を問わず、両分野においてです。山善は専門の卸商社として、それこそ専門力を高め、皆様のお役に立てる提案営業を実践します。その実現には、前述したヒューマノイドロボットもそうですが、より広い意味でのエンジニアリング力が求められます。この方針に基づき、専門人財の雇用や社員教育などの人財戦略を進めます。商戦を価格だけで挑み、勝ち続けるのは厳しくなってくるでしょう。パートナー様とともに付加価値をつけて挑む、そして当社の価値として技術サービス面でさらに貢献できるよう成長してゆきます。

――卸売機能の強化はパートナーとWIN-WINの関係を深める為にも欠かせませんね。

岸田 そのとおりですね。「どてらい市」が象徴的ですが、真剣に協業しあえるパートナー様あってこその山善です。「三位一体」、この経営方針は決してブレません。近年は販売店様の経営者も世代交代されていますが、若い経営者様との新たな協業、細分化したコラボレーションを、もっともっと進めさせていただきたい。当社が強化してゆく専門性をベースに、新たな販売策などもご提案したいですね。さらに80年間にわたって理解し合えている皆様とハート(心)でしっかり寄り添い、時代にあった感性も持ち合わせ、『ともに』成長したいと切に願っています。

――最後の質問です。トピックとして来年5月、山善はその創立80周年を迎えますね。

岸田 80年もの長い歴史は、販売店様・メーカー様とともに歩み、その積み重ねで作られてきました。本当にありがたいことです。この記念すべき佳節に、私は何らかのお礼をしたいと思っています。

当社のパーパスは「ともに、未来を切拓く」。この志で「変化が常態化した」今の時代に進取果敢に臨みます。




近況private


就任以来「現場主義」を重要視する岸田社長。山善では、毎朝「商機は常に現場にあり」を唱和する。代表取締役として4年目を迎え、相変わらず国内外を飛び回る多忙の日々を過ごしているが、奥様から、「少しはリラックスする趣味の時間も持ちなさい」と、お説教されるらしい。「今年は少し落ち着いたスケジューリングで動きます」とのこと。

趣味の質問には、「今やってますという趣味はないけど、夢はあります」との弁。ダブルウィング専門商社のトップだけあって、木工作業などは得意で道具にも詳しいらしい。米国駐在中は自宅の床張り替えなど大掛かりなセルフリフォームの経験も。「アメリカの自宅ガレージに並べた工具類は、ちょっとした専門店のようでしたよ」と述懐する。また本気かどうか、いつかは山奥の一軒家で自立した暮らしをしたいな、と夢を語る。「妻は虫が嫌いで、許してくれそうにありませんが」と言いつつ、最近の週末は昭和の喫茶店に加え、大阪の美味しい洋食屋を奥様と探しておられるそうです。



(日本物流新聞2026年5月15日号掲載)