1. トップページ
  2. インタビュー
  3. 「モノ売り」から「コト売り」へ、循環するビジネスを目指す

インタビュー

「モノ売り」から「コト売り」へ、循環するビジネスを目指す

投稿日時
2022/03/10 15:21
更新日時
2024/08/19 13:20

三菱マテリアル 加工事業カンパニープレジデント 執行役常務 田中 徹也 氏
三菱マテリアルはソリッドエンドミルからドリル、肩削り・正面削りカッタ、インサートと幅広いラインナップをもつ。鋼旋削加工では強みのコーティング技術で連続から断続まで対応し、圧倒的な長寿命をもたらした。

三菱マテリアル 加工事業カンパニープレジデント 執行役常務 田中 徹也 氏

――工作機械受注など生産財マーケットが好調です。高水準はいつまで続きそうでしょうか。

「日工会さんの今年の工作機械受注は6%程度の伸びを見込まれており、我々の工具ビジネスもグローバルマーケットとしては今年も来年も67%くらいで伸びると見ています。昨年までは自動車・航空機産業の落ち込みが大きかったのですが、想定されたよりも早いペースで戻りつつあるという感触を得ています」

――国内外の受注環境の変化でポジティブな要素とネガティブな要素にどんなものがありますか。

「自動車産業は基本的には復活しており、半導体の供給不足で稼働停止が見られたものの、それも解決の方向に向かうでしょう。これは自動車メーカーさんと話をしていると強気な生産計画を発表されており、それも週単位で計画が変わったりするのを見ていて感じます。ネガティブな要素はコロナがどう転ぶかわからないこと。あとはエネルギーコスト、資源価格が上昇していること。これらが産業全体のブレーキ要因になっています。加えてウクライナや台湾の情勢がモノづくり産業にとっても大きなインパクトをもたらす可能性があります」

■ダントツの長寿命

――貴社のイチ押し製品は。

1つは鋼の旋削加工用インサート『MC6115』で、日本機械工具工業会賞の技術功績賞を受賞しました。市場でも受け入れられ販売拡大中です。もう1つは『超』モノづくり部品大賞(モノづくり日本会議、日刊工業新聞社主催)を受賞した『MV1020』『MV9005』。当社は新製品を数多く発表しますが、中でもMV1020は卓越した長寿命を示し、一見するとどこが摩耗しているのかわからないほどインパクトがあります」

――やはりコーティングの技術で実現された。

「そうです。アルミの比率を高めることが技術トレンドとしてありますが、それを高いレベルで実現できたのがポイントです。削りにくい耐熱合金旋削においてもMV9005を投入し従来にない長寿命を実現しました」

――求められるニーズは長寿命ですか。

「当社としてはモノ売りからコト売りへビジネススタイルを変えようとしています。とは言え性能が悪ければ商売になりませんから、寿命を含めた品質・性能はダントツである必要があります。それに加えお客様の生産性を上げるための解決策を一緒に考え、提供していく。これがないとこれからの時代は難しいと思います」

――EVの普及は生存競争をいっそう激化させそうです。秘策はありますか。

「あったら教えてほしいです(笑)。当社が目指しているのは環境問題に適応できる、すなわち循環するビジネスに対応できる会社です。超硬工具を製造して販売してそれを回収してリサイクルしてタングステンカーバイトに戻してそこからもう一度工具を作るという循環です。言われているように温室効果ガス排出の削減がキーになります。製品を作るときにどれだけ二酸化炭素を排出しているのかが1つの判断基準になるでしょう。販売を含めてすべてのサイクルを通した温室効果ガスを低減する。そこにコミットできる会社が生き残っていけると思います」

――課題はありますか。

「温室効果ガスを排出しにくい製品に切り替えていこうとすると、コストがかかる方向に向かいがちです。それを新技術でどこまで吸収できるのか。あるいは社会全体としてコストを受け止める仕組みをつくるのか。商品の価格にそのまま転嫁してビジネスが成り立つのか。自分たちの力だけではなかなか解決できない問題だと思います」

――定量的な目標はありますか。

「当社の加工事業カンパニーは、2030年までに製造に使う電力をすべて再生可能エネルギー由来の電力に切り替えます。全社の中でも最もアグレッシブな目標です」

――貴社は商品バリエーションが多い印象です。分野・用途を絞るというお考えは。

「たしかにアイテム数は多いかもしれませんが、すべての領域で満足いく製品かというと必ずしもそうではないと思います。これから注力したいのは微細加工分野。重切削か軽切削かでいうと軽切削の商品レパートリーを増やしていこうと考えています。たとえば今伸びている半導体装置やEV車に載るような部品、あるいはロボットに組み込まれるような部品はバリバリ削るというようなものではありません。そういった分野向けの商品を充実させたいですね」

MITUBISHI.jpg

鋼の旋削加工用インサート「MC6115」(左)と「MV1020

2022310日号掲載)