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インタビュー

限られたユーザーに質の高いサービスを

投稿日時
2022/03/10 15:12
更新日時
2024/08/19 13:17

キタムラ機械 代表取締役社長 北村 彰浩 氏(工学博士)

1970年代にマシニングセンタ(MC)を製品化し、世界でも先行したキタムラ機械は2003年、大量生産ではなく、自動化と使いやすさを重視した付加価値の高い機械・サービスを限られたユーザーに提供する方針に切り替えた。老舗メーカーとしての考え方を、中部大学の客員教授など多くの公職にも就く北村彰浩社長に聞いた。

――生産財マーケットが高水準で推移しています。この好調はいつまで続きそうでしょうか。

40年近く工作機械の営業をやっていると、工作機械はだいたい5年の周期があることがわかります。2017年くらいに始まった今回の波はまだピークに達していません。今年の暮れくらいまでは好調が続くでしょう」

――受注環境はよいと考えていいですか。

「カーボンニュートラル、SDGsEV…と様々な産業が新しくできています。ただ、ネガティブな要素もたくさんあります。海外で商売をしていて肌で感じるのは日本のエネルギーの危機的状況です。日本の電気料金が先進諸国のなかで1番高い。ドイツ、イタリアを環境優等生に思われる方も多いのですが、再生可能エネルギーだけで賄えないとフランスから原子力で作った電気を輸入しています。当社も早くから工場にソーラーパネルを載せていますが、本日のような雪の日は発電量はほぼゼロですね。再エネだけで賄うことは難しく、風力、水力などではとても値段が合いません」

――貴社製工作機械は海外売上比率が高いです。

8割近い。KITAMURAブランドで通っていますので。世界で7社しかなかった頃からMCを製造しているのは日本では当社くらいでしょう。当時は自動フライス盤と言っていましたね」

――MCは今やIoT化したハイテクマシンです。

「当社の医療機器や半導体分野を狙った5MCMedCenter5AX』(2018年発売、約1200台の販売実績)にはカメラやスピーカーが付いており遠隔操作でき、切削音も拾え会話もできます。リモートメンテナンスも標準仕様です。キタムラ独自の制御装置により、作業経験を問わず誰でも使いやすいようにアイコン操作だけで動きます(08年に世界で初めて発売)。当社の機械づくりの経験すべてを集約した機械です。省スペース(設置面幅1奥行2㍍、バッターボックス並み)なので国内に向きます」

――ところが海外で売れている。

「残念なことに当社のメインマーケットは海外。日本ではロボットなどを使った自動化設備には労働安全衛生法という縛りがあり、24時間自動で動かすには有資格者を常駐させる必要があるからです。中小企業でこんな運用はまずできません。協働ロボットと出力80㍗未満なら資格者は要りませんが、協働ロボットでは無人自動化は困難であり、工作機械の出力を80㍗未満にすることも困難です。これだけセンサー技術が進んでいても人の目に頼る安全規格のほうが日本では信頼できるという考え方です。だから長時間完全自動の最先端工作機械の主戦場は海外になります」

■ソフトの陳腐化防ぐ

――変化の激しい時代です。生き残るために欠かせない取り組みは。

「的を絞った営業展開しかないと思います。ボリュームを狙わずに限られたお客様だけに質の高いサービスを提供しようと、私が社長に就いた2003年に方針転換しました」

「長持ちするようにハードを一生懸命つくり込んでもソフトの方が陳腐化してしまいます。それがすごくフラストレーションでした。大枚をはたいて買っていただいたお客様に申し訳なくて、それで自社製の制御装置をつくりました。フリーでアップデートしていただくことで陳腐化するのを防げます。こうしたサービスは裾野を狭くしないと提供できません。これまではいいものを安くつくってたくさん売るという考えが当たり前でした。日本の労働生産性の低さはここにあります。欧州の自動車大手と話をすると『日本の車はエンジンがダウンサイジングして燃費もよくなってる。なのになぜ高く売らないんだ』と言われます。彼らにとって性能が上がれば高く売るのは当然。製造コストが下がれば安く売るという日本のやり方では企業に開発費は残らず、十分な社員教育もできません」

――それで量を目指すことをやめられた。

「当社の機械、ソフト、サービスを評価してくれる人だけをターゲットにして質の高いサービスを提供する方針です。だからボリュームはあまり気にしません。実際、かつて月に200台生産していましたが、今は年間700台です。シェアをとろうとして無理して販売してもぜんぜん儲かりませんでした」

――今年は4年ぶりのリアルJIMTOF開催です。

「第5世代のMCを出品する予定です。第1世代はNCで動き、第2はテープリーダーなどで動き、第3はシリアルインターフェースでデータ転送します。第4になるとUSBメモリーやデータサーバー、光ファイバーになり、第55G通信です。NTTドコモさんと協力して実用化したものを発表する予定。便利な機能をたくさん備えてお見せします」

KITAMURA02.jpg

5MCMedCenter5AX

2022310日号掲載)