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インタビュー

松浦機械製作所 代表取締役社長 松浦 勝俊 氏

投稿日時
2025/09/11 09:51
更新日時
2025/09/11 09:59

創業90年、マツウラらしさ貫き100年へ

8月に創業90年を迎えた松浦機械製作所。松浦勝俊社長は連綿と続く機械の作り込みと顧客との距離の近さを「マツウラの味」と例え、100周年に向けても守りぬくと語る。工作機械の市場は世界的にまだら模様だが、高精度な5軸と自動化を展開する同社は米国のハイテク産業からの活発な発注を受けている。昨年末に武生事業所に組立棟を新設し生産能力を強化したが、新棟は軌道に乗りフル稼働に近い状態だ。

――創業90年を迎えました。社歴は32年と聞きます。振り返ってみていかがですか。

「社長に就任したのが2007年で、好景気からリーマンショックでこれ以上ないほどドーンと落ちた(笑)。このように山あり谷ありですが32年を振り返ると、それまでは中小企業の延長線を走っているような時代でしたが、それを企業として在るべき形にすべく取り組んできた思いです。当時はトップが目指す方へ皆が走るような体制で、どちらかと言えば指示待ち。そこから皆でベストな方法を考えて進む文化を育むのに苦労しましたね。特に端的だったのが設備投資で、工作機械は景気の波があり、悪い時に経費を削減する時はビシッとまとまるのに長い目で投資を行う時に固まってしまうとか。投資を計画的に予算化し、多少のリスクを取ってもポジティブにチャンスを活かす雰囲気に社内を統一したことが振り返って大きかったと感じます。そういう集団経営体制に移行しているので、海外出張時も会社を任せられる絶対的信頼があります」

――32年の中で会社としての岐路はありましたか。

「米国を自らハンドルするようになったこと。総代理店と40年来、3世代にわたりお付き合いしていましたが、時代の変化で経営も変わり彼らは量を売っていきたいと。対して我々は自社の立ち位置を守り、付加価値の高い機械を売っていきたい。徐々に乖離が広がり、13年に互いの考えを尊敬しつつ協議のうえ別の道を歩むことに。今も昔も米国は我々のライフライン。ですからこれは大きな決断でした」

――量を売る道を選ぶこともできた。

「お客様が期待するのは従来通りのマツウラのパフォーマンスであり信頼性。それを維持して数を追うのは現実的に厳しいと判断しました。結果的にマーケットの声が近くなったと感じます。時代の変化の中で市場のニーズが細分化された結果、今は世界中で『どの産業が忙しい』と一括りで語れる状態ではなくなり、同じ産業でも特定の企業だけが特異に伸びている。彼らはリーン生産を志向するので自動化にも積極的に先行投資し、サプライチェーン化が進む中で結果的にどんどん強くなって他に仕事が出ない。総じてN数(販売機会)は減り、力のある企業に繋がっていないと受注が得られないゼロサムの世界になっていると感じます」

――すると先ほどの米国の例ではないですが、ダイレクトに顧客の声を掴むのが重要になりますね。限られた有力企業に食い込むにはどんな方策が。

「戦略的にやらざるを得ません。1つは販売店や代理店のツテを辿ることで、彼らにいかに感度よく我々の機械が有力ユーザーにマッチすると思ってもらえるかが重要です。地道な取り組みになりますが、SNSも活用し発信を強化しています」

――貴社はすっかりSNS巧者に。動画やXなどの発信が板についています。

「我々は元々玄人集団というか、知っている人にわかってもらえば良いというスタンスでした。お客様を工場に呼んで機械の作り込みを見てもらって関係を強化していましたが、コロナ禍でそれが難しくなって。既存のお客様は『マツウラの味』をわかってもらっており何とか維持はできるものの、新たなお客様にはアプローチができない。そこで始めたのがYouTubeです。それまでは秘匿性を重んじる方針でした。というのも表に出すと真似されるのではと懸念があったんですね。私も抵抗がありましたが、だんだん『見せても(同じことは)できんだろう』という心境になって今は機械の作り方まで発信するように。今では業界でもデジタルの取組みが進んでいると自負しています。我々が当たり前だと思っていたこと、昔からやってきたことが実は業界の中でもユニークだった。それがハマった面もあると思います」

――100周年に向けても「マツウラの味」は守る。

「『まっすぐな物はまっすぐに、直角な物は直角に』。そうした作り込みが積み重なって最終製品になりますから、数を追って作り込みの手が抜けていくのはいかがなものかと。電機部品は基本的に各社とも似通ったものを購入するわけですから、その能力をどれだけ引き出せるかがメーカーの力です。モノづくりの原点はきっちり守り、それ以外で改善に挑戦すべきでしょう。機械は長持ちします。現場に行くと他社の新品の機械の横に『まだ精度が出るから』とウチの30年前の機械が置いてあったりして、これだと営業マンの企業人生で1、2回しか売れないじゃないかと思ったりしますが(笑)。ただそうしてアプリシエイションしてもらう方が我々の生き方に合っているんだろうとも思うわけです」

――工場を見学したことがありますが、主軸だけで半端ではない工程数でした。

「こだわらなくなったら存在意義が薄れる。面白い、尖っていると思われる機械でないとダメだと思います。機械だけでなく会社や人間もユニークで、創業当時からお客様との距離が近い。だから相談も受けやすいし『マツウラの機械を買っておけば大丈夫』と信用にもつながります。私も年4割弱は海外のお客様の元にお邪魔します。こういうのを全部ひっくるめたマツウラの味を、お客様にもサプライヤーにも社員にも味わってもらって『ここは美味しいな』とファンを増やしたい。癖になってほしいんです」

■米国好調で新工場も軌道に

――海外比率は7割と聞きます。景況は。

「受注は国内も含めだいぶ上向いています。最も忙しいのは米国。さすがに4月は関税の動向を見守る企業が多かったものの、そうは言っても仕事はあるので5月以降は中堅以上のジョブショップの設備導入が活発に。防衛、宇宙は活況、医療もなだらかに上がり半導体も一部大手の系列が非常に忙しい。ハイテク産業と我々の製品群が噛み合った結果ですが、総じて米国は非常に力強く先行発注をだいぶ受けています」

――欧州は。

「国によりまだら模様が非常に濃い。イギリスとスペインは良く東欧はそれなり。ドイツは厳しいですが、EMOで来年の絵がわかるでしょう。ただ総じて昨年より良くなるのではないかと。ただ関税が決まったことでバタバタしていた状況が落ち着いて、欧州も含めて来年一気に需要が増える事態も、期待込みであり得ると思います。米国以外にはぜひチャンスに賭けていただきたい。生産が埋まってしまい、話をもらった時には短納期が難しいかもしれません」

――昨年末に新たな組立棟が竣工しました。

最大限活用しており、今は新棟がフル稼働に近い状態。効率もさることながら柔軟性が上がりました。(新棟稼働の)タイミングが良く波にうまく乗れた手応えがあります」

――新棟がフル稼働のまま今年度を終えられれば綺麗な形ですね。

「本当にそう思います。あとはアジアですが中国の需要は昨年より少しずつ増えている。日系よりローカルが需要源で、自動化関係が活況。中国はかつては太陽光や液晶、EV、そして次はロボットとカードを切るように激しい競争が起こり残った企業が残存者利益を得る。その過程の設備投資は過去もありましたが、昔と比べそこに占める日本製機械の割合は減ったと感じます。我々にとってポテンシャルが大きいと感じる市場は米国と中国ですが、中国のどのセクターを生きるかは我々も考える必要があります」

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武生事業所に昨年末、新たな組立棟が竣工。本社工場から組立機能を集約し生産の効率と柔軟性を高めた。画像は2412月の竣工当時のものだが、今はこの広いフロアがフル稼働に近い状態という


パレット3枚増、面積変わらず


1022日からのメカトロテックジャパン2025では、新製品の「MX-520T PC7」を披露。旋削機能を持つ5軸複合マシニングセンタで、従来のフロアパレットシステムからタワーパレットシステムにすることでフロア面積はほぼ同等でパレット枚数を3枚増やした。同社の顧客はジョブショップが中心。フロア面積は限りがあるが加工時間が少ないワークもあることから、パレット枚数を増やしたいという要望が寄せられていたという。「スペースは相当こだわった。旋削能力も見てほしい」とする。



(日本物流新聞2025年9月10日号掲載)