インタビュー
大東精機 代表取締役副社長 杉本 直也 氏/執行役員 営業本部長 兼 西日本統括営業部長 森中 健二 氏
- 投稿日時
- 2025/06/09 09:58
- 更新日時
- 2025/06/11 11:46
自動化の幅を広げ労働力減少に挑む
大東精機が手がける鉄骨一次加工のフル自動化ライン「DASP」が好調だ。杉本直也副社長は「自動化がユーザーのメインテーマになりつつある」と言う。同社はDASP以外にもドリルコーピングマシンや梁溶接ロボットを展開、鉄骨の大型化に対応する加工機も新開発し、自動化の選択肢を広げている。業界の人手不足は深刻。杉本副社長は「ユーザーとスクラムを組んで大労働力減少時代と闘いたい」と語る。

【写真右】杉本直也副社長と【写真左】森中健二執行役員。マスコットキャラクター・バンドソーくんを手に
――建築の人手不足が深刻です。
代表取締役副社長 杉本直也氏「建築需要はありますが人手不足で建てられず工期遅れに。目詰まりしている状況です」
執行役員営業本部長兼西日本統括営業部長 森中健二氏「我々の製品も需要の山谷で言えば今期は谷間。国内鉄骨需要も400万㌧割れが続くと言われ、受注ペースも秋頃から落ちてきました。ただその中でも一部有力ユーザーは伸びており、鉄骨一次加工の全自動ライン『DASP』が好調。前々期は売上がバブル後で最高、前期もほぼ横ばいでしたが牽引したのはDASPです。人手不足が客先の最大の課題になっています。また本来なら主な仕向け先は鉄骨ファブリケーターですが、前期は鋼材流通の加工部門がDASPの導入件数で上回りました」
――鋼材商も一次加工をすべて担うようになっている。
森中「一次加工をすべて担ったうえで加工の全自動化に舵を切る商社が増え、この流れはまだ続きそうです」
杉本「今まで生産性がユーザーのメインテーマでしたが、今は自動化になりつつある。2040年には日本の労働力が1100万人不足するとされ、産業界全体で対策すべきです。我々は長年、自動化に注力しており実績が多い。そうした背景でDASPが需要を集めています」
森中「DASPは約30年前から手がけています。元はドリルマシンとバンドソーだけでしたが、スケーラーと開先加工機も加わり溶接前の一次加工をすべて担えるように。ただDASPは個別のカスタムが基本で生産は月1ラインが限界。そこでパッケージ型の『標準DASPライン』を開発しています。従来通りカスタマイズにも対応しますが、標準型ならより納入・立ち上げが早い。新たな選択肢として今後、標準DASPを推します」
――自動化の幅を広げたわけですね。DASP以外の自動化ではドリルの加工とロボットのプラズマ切断を集約したドリルコーピングマシンがありますが、こちらの需要は。
森中「コーピングがメジャーな海外で絶好調で、昨年も10台近く北米などへ納入しました。国内も15台ほど実績があり、昨年は1300㍉幅のH鋼に対応する『DCM1300』を初めて納入。建築物の超高層化で部材が大型化しています。同様にH鋼向けDASPも従来は1000㍉幅が主力でしたが、1300、1500㍉幅が増加傾向に。こうした大型化の需要も取り込み、受注の幅を広げます」
森中「また鉄骨に加え製罐も重要な市場です。従来は小型のバンドソーや複合機による切断と穴あけが主でしたが、その先を狙いたい。製罐は機械フレームの製作で鋼材を複雑な形に切欠く作業が多く、これに向けて500㍉幅の小型コーピングマシンを新開発しました。小型化を望む製罐業界の要望で開発した機械です。ヒット商品になると期待しています」
■梁溶接ロボ普及なるか
――これまで鉄骨一次加工の自動化について聞きました。後工程を担う梁溶接ロボットも展開していますが、普及動向は。
杉本「かなり興味は持って頂きますが導入にはいくつかハードルも。BIMを元に教示レスで溶接パスを自動作成できますが、国内はまだ2DCADが多く3D化が課題です。回り込んでの溶接など人の方が柔軟性も高いので、無人溶接を前提に設計から逆算して対策を織り込む必要も。ただ、多品種少量の鉄骨溶接を教示なしで自動化するロボットが導入に至ればゲームチェンジャーです」
――建築の3D化が進めば伸び代は大きそうですが。
杉本「欧米では3Dが主流で未導入の企業を探す方が難しいと言われます。日本も徐々に3D化が進んでいますが…。ただ国内でも、既に一部の先進的な企業は梁溶接ロボットを導入頂いています。我々としても業界を牽引するお客様とスクラムを組み、大労働力減少時代と闘いたい。一番の敵は労働力不足。世界中で溶接技能者が不足して確保に必死です。『生産性』という言葉がある種、足かせになっています。沢山の人で溶接する方が生産性は高いですが、今はそんな状況ではない。見方を変える必要があります」
製造現場→創造現場に
製造業を、あそび場に。この新鮮なキャッチフレーズを大東精機が打ち出した。幹部から新入社員まで半年、議論を重ねて目指すビジョンを具体化したもの。どんな意味が込められているのか。
「端的に言えば製造業に人が集まらない状況を変えたい。単調で過酷な仕事は機械やロボットに任せ、人はその傍らでクリエイティブに仕事をする世界観です」(杉本直也副社長)
実際に大東精機の機械やシステムを納入した顧客の雰囲気が、ガラリと変わる瞬間があるそうだ。「事務所で様々なデータを試してどうすればこの機械に自動で加工をさせられるだろうと皆が集まってワイワイ知恵を絞り、完成した仕事を機械に任せる。まさに目指すビジョンです」
この言葉を大東精機自身が体現しようとしている。オフィスを改装して働きやすい環境を整え、社員の家族や友達も無料で使えるジムを作り、服装も自由化して自然体で働ける環境を築いた。社員にファンが多いことから阪神タイガースのパートナーになり、割り当てられた観戦チケットをすべて社員に配るなど楽しく開放的な職場づくりに奔走する。
「日本のGDPを支える製造業を軽視してはいけない。栄えさせないといけない。ただ、このまま生産性を追い求めるだけでは持続しないですよね。単なる効率化を超え、もっと楽しく働ける魅力的な製造業にしていきたい」
(日本物流新聞2025年6月10日号掲載)