インタビュー
牧野フライス精機 取締役社長 清水 大介 氏
- 投稿日時
- 2025/05/15 09:00
- 更新日時
- 2025/05/15 09:00
創立60年、プロダクトアウト志向に転換
「買ってよかった」と20年後にも言ってもらいたい
工具研削盤の国内販売トップシェアの牧野フライス精機が5月1日、創立60周年を迎えた。ロングセラーの万能工具研削盤C︱40(1962年発売、累計生産1万3千台超)をつくり続ける一方、10軸制御機(82年)や内蔵型マイクロビジョンシステム(2020年)など世界初の技術を披露してきた。清水大介社長に同社の転機を振り返ってもらった。

しみず・だいすけ 慶應義塾大学商学部卒業、英ノッティンガム大学院(マーケティング専攻)修了後、日本精工を経て2008年に牧野フライス精機入社、同年から社長に。40歳から自宅近くのスクールで週末にテニスを始めたが、「同時期に始めた仲間はどんどん上達するのに私は7年で1ステップしかクラスが上がってません」。
――1965(昭和40)年の会社設立から60年が経ちました。清水社長は社長就任からその3分の1近くを過ごされたことになります。
「よくここまで来ることができたな、というのが正直な気持ちです。私は5年勤めたベアリングメーカーから2008年に当社に転職し、1週間後に3代目の社長に就きました。リーマンショックの直前。まだ30歳でしたし、ベアリングのことしか知りませんでした」
――思い出深い出来事はありますか。
「1つあげるとすると、当社のターニングポイントだと思っているのですが、2009年にAGE30(自動ワーク交換装置と砥石・研削液ノズル交換装置を標準搭載する全自動機)をリリースしたことです。この機械から私も開発に関わっています。それ以前の製品はどちらかと言えば、お客様のニーズを広く拾おうとして、マーケットイン志向の開発が多かったように思います。ニーズを捉えることはものすごく大事なことですが、これが強いと製品コンセプトがボケてしまいがちです」
――AGE30はそうではないと。
「AGE30はお客様から要望された機械ではありません。工具研削盤と一口に言っても、目的が工具の製造なのか再研磨なのか。対象とする工具長さ、直径はどれくらいのレンジなのか。大規模の製造ライン向けなのか、多品種少量生産向けなのか。用途によって製品スペックはものすごく変わります。そうした様々な要望を聞いて理解したうえで、当社としてこうだ、とプロダクトアウト志向で開発した機械がAGE30です。なのでそれまでの当社のラインナップと連続性がないように見えます。軸構成が違うし、カラーリングも製品名(従来機はCNシリーズ)も違います。砥石交換装置とローダーを内蔵した機械は初めてでした。価格は倍、質量も倍以上です。これを当社のフラッグシップ機として世に出せたことは感慨深いです」
――社内で意見が割れませんでしたか。
「やはり前例がない製品でしたから、反対意見は多かった。当社の伝統をないがしろにするのかという意見もありました。実際、価格が2倍もするし、リーマンショック直後ですから売れません。当時よく言われたのは、加工精度は3分の2でいいから価格半分の機械づくりをすべきだというものでした」
――当時の市場の反応は。
「お客様は驚かれ、世界的な不況もあってしばらくは売れませんでした。その時、他の工作機械メーカーさんが相次いで投入したのはエントリーモデルでした。ところが景気が回復してきた11年くらいからAGE30は爆発的に売れるようになり、当社の主力機になりました」
――この方向性に確信があったのですか。
「確信なんてものはありません。ただ、当社のありたい姿としてお客様から『牧野フライス精機の機械を買ってよかった』と10年後も20年後も言ってもらいたい。これは当社の上位理念でもあります。私が入社して間もない頃に、実際にお客様から言われた言葉です。『すごく役立っていて助かっているよ』と。それを聞いて私は嬉しくてうれしくてたまりませんでした。まだ気持ちがフレッシュでピュアでしたから(笑)。それを大事にしたいと今でも思い続けています。そう考えた時に、お客様に提供する機械は決してエントリーモデルではありません。最近当社は『精産性』を求めています。精度と生産性と信頼性の高い機械づくりをしていきましょうと」
■オンリー1だからリピート注文に
――貴社のいち押し製品は何ですか。
「極小径工具研削盤『DB1』と内蔵型マイクロビジョンシステム『monocam2』です。DB1が対象とする1番下の径は0.03㍉、上が4㍉というレンジです。百分台をしっかり安定して削れるのがウリです。非常にコンパクトで、日刊工業新聞社さんから十大新製品賞(24年)をいただきました。独自技術であるmonocam2は、搭載できる機種は『AGE30FX』『SG10』に限られますが、連続加工するドリルの自動測定、自動補正を行います。オイルホールや刃先の位相検知、芯厚など7項目ほどを測定できます。ここまでできるのは世界で当社だけで、リピートでどんどんご注文いただいています」
リニアモーター駆動採用のCNC極小径工具研削盤「DB1」
――接触やレーザー方式よりもカメラに優位性がありますか。
「工具がここまで細くなると物理的には情報を拾えません。オイルホールよりもタッチプローブの方が太くなりますから。monocam2は発売から5年が経ちますが類似製品はなく、一般的にはレーザーが利用されています。レーザーとカメラでは得られる情報量がぜんぜん違います」
――今後の方向性は。
「当社は工具研削盤を60年間つくってきて、それ以外できません。やはり歩んできた道を愚直に突き詰めていくしかありません。これまで積み重ねた技術やノウハウがあるから世界に対して競争力をもつのだと思います」
(日本物流新聞2025年5月15日号掲載)