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インタビュー

ダイキン工業 東京支社 空調営業本部 事業戦略室 企画担当課長 埴岡 浩 氏/営業開発部 副参事 澤田 宏司 氏

投稿日時
2025/04/15 13:11
更新日時
2025/04/15 13:17

2025年4月から! ビル用マルチエアコンでR32対応義務化

4月1日から新設用ビル用マルチエアコンの冷媒が、R410AからR32へ移行が義務化される。ダイキン工業も昨年11月からR32対応のビル用マルチエアコン「VRV7」の販売を開始。地球環境への負荷を低減する取り組みを加速させている。今回の取り組みについてダイキン工業・東京支社空調営業本部の事業戦略室企画担当課長の埴岡浩氏と同営業開発部副参事の澤田宏司氏に聞いた。(以下、敬称略)

【写真右】ダイキン工業・東京支社空調営業本部の事業戦略室企画担当課長の埴岡浩氏
【写真左】同営業開発部副参事の澤田宏司氏

安全対策で設計・施工・管理負担増?
総合力で進める環境対応
環境性能・省施工・DXで差別化

――4月1日からビル用マルチエアコン(ビルマル)でR32冷媒対応が義務化されますね。

埴岡 2018年に家庭用エアコンから始まったR32冷媒対応は、店舗・オフィス用エアコンに広がり、ついにビルマルが指定製品化(義務化)となります。4月1日から対象となるのは新設用の冷暖切替機だけですが、当社はそれに加えて、冷暖同時運転機でもR32対応した「VRV7シリーズ」を用意しています。

――R32対応によって変わることは。

澤田 R32冷媒は従来冷媒R410Aより地球温暖化係数(GWP)を3分の1程度に低減できます。一方で、微燃性があるため万が一に備え、従来はなかった遮断装置の設置など安全対策を取る必要があります。今回の改正は我々メーカー側だけでなく、様々なステークホルダーに影響を与える内容となっています。

――R32対応で先行してきましたが、ここからは横並びになります。どう差別化する。

埴岡 仰る通り、冷媒自体の差というのはなかなか生まれづらいと思います。VRV7シリーズでは、効率的な冷媒制御による環境性能向上と安全対策の簡素化、DXにも繋がる制御面の拡充の3点で差別化を図っています。

――まず環境性能による差別化ポイントを教えてください。

埴岡 R32の方がR410Aに比べて冷媒効率が高いため、冷媒充填量を減らすこと自体は各社可能です。しかし、制御の仕方によって削減できる量は変わってくるので、R32に合わせた制御をどう行っていくかが差別化ポイントとなります。当社はR32をいち早く空調機器に搭載してきました。また、ビルマルも市場に先駆けて展開し約45年の実績があります。一番歴史のあるメーカーとして、一日の長があると自負しています。実際に、VRV7は冷媒配管を細径化し、冷媒充填量を10%以上低減しています。

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VRV7シリーズの室内機。検知器を標準搭載する

■従来と変わらぬ導入しやすさ維持

――安全対策についてはいかがでしょうか。

澤田 安全対策については、(一社)日本冷凍空調工業会がまとめたガイドラインがあり、各社それに則った安全対策手法をラインナップしていると思います。しかし、従来よりも手間やコストがかかるため、ビルマル自体の市場優位性が損なわれる可能性もある内容となっています。当社としては環境対応と安全対策を両立しながら、従来と変わりのない導入しやすいシステム設計にこだわっています。

――具体的には。

埴岡 VRV7は、漏えい想定箇所から除外可能な配管継手「フレアレスジョイント」(ねじ接合継手:ISO14903適合)を標準搭載しています。一般的に室内機はフレア接続で施工されていますが、フレア接続部は冷媒の漏えい想定箇所となります。つまり、室内機ごとに検知器を設置する必要があるということです。また、検知器を居室内に設置する場合、設置箇所が定められているため、施工だけでなく設計段階からの作業負担増が予測されます。フレアレスジョイントを使用すれば、そもそも検知器を設置する必要がないため、設計・施工の手間を省くことができます。なお、現地配管の接続部には同様のねじ接合継手である「クイックパイパー」をオプションで用意しており、当社製品の配管接続部分は検知器レスを実現できます。

澤田 空調業界は担い手不足や高齢化などが進み、短工期での施工が求められる現場も増えています。フレア処理は銅配管の広げ方や締め方に技量がいるため、施工品質の均一化が困難なことも問題になっています。両製品は誰でも簡単、迅速かつ施工品質を一定に保てることも特徴です。こうした継手を室内機ユニットに標準搭載しているのは当社だけであり、安全対策が義務化された今、大きな差別化ポイントになると見ています。

――制御面はいかがでしょうか。

埴岡 機器単体と管理の2つの側面で工夫を凝らしています。機器単体では、新たに設置が必要になった遮断装置や通風装置を使って制御をより高度化しています。遮断装置で用意した「マルチ冷媒温度制御」は、遮断装置を使って室内機に送り込む冷媒量を調整することで、運転を止めずに快適な温度をキープします。狭い居室などでよく見られる頻繁にON/OFFが切り替わる無駄の多い運転を改善できると見ています。

澤田 管理側では、VRV7の設置とオプションの設備管理サービス「DK-CONNECT」を契約いただいた方に、AIを使った制御システム「遠隔自動省エネ制御」をお使いいただけます。お客様の稼働データと建物の向きや環境情報などを学習し、先回りして制御を行うものです。(25年春提供開始予定)

――効果のほどは。

埴岡 お客様の利用状況や建物状況によって変わってくるのですが、実証実験を行わせていただいたヤマハ様の本社ビルでは年間消費電力量を最大2割削減できました。

――制御の部分は今後もアップデートされていきそうですね。

埴岡 そうですね。設計、施工人材だけでなく管理者側も人手不足が深刻です。今後は、年1回求められる回路検査もDK―CONNECTを使って簡易検査可能なシステムを構築したいと考えています。

澤田 R32対応で新たな安全対策機器の設置が必要になりました。ただ機器を設置するのでは、お客様からすると単純なコスト増にしかなりません。VRV7シリーズは安全対策にも付加価値をのせています。システム全体で一石二鳥、三鳥の環境対応をしていきませんかと提案していきたいです。



(日本物流新聞2025年3月25日号掲載)