インタビュー
椿本チエイン サステナビリティ推進担当 垪和 伸光 上席執行役員
- 投稿日時
- 2025/01/23 15:13
- 更新日時
- 2025/01/24 08:59
「着眼大局・着手小局」で脱炭素
生産工程のエネルギーのムダ見直し
産業用チェーンや自動車エンジン用タイミングチェーンシステムで、世界シェア1位を誇る椿本チエイン。グローバルでカーボンニュートラルの達成を目指し、自社の生産工程から徹底的に見直して取り組む。サステナビリティ推進担当の垪和伸光(はが・のぶあき)上席執行役員は、脱炭素への取り組みの肝を「着眼大局・着手小局」と大阪産業創造館が開催したセミナーで語った。
「カーボンニュートラルは一つの国、ましてや一つの企業で達成できるわけではない。しかしやると決めたらできることはたくさんあり、コストダウンにもすぐに繋がる」と、サステナビリティ推進担当の垪和伸光氏(以下同)は達成までの道のりを「できること」から実直に進めることを呼び掛ける。
同社はCO2排出削減目標を、SBT(Science Based Targets)基準で2030年度にScope1、2で42%以上(21年度比)、Scope3(カテゴリ1、11)で25%(同)としている。SBTは企業が環境問題に取り組んでいることを示す目標設定のひとつで、CDPやUNGC(国際グローバル・コンパクト)等、4つの機関が共同運営している。「国際規格にあった基準にしなければせっかく活動しても認めてもらえません。各地からの問い合わせ毎に答えるのが大変だったこともあり、認定取得し情報開示しました」。
主な取り組みは(1)工場の省エネ活動によるCO2削減、(2)太陽光発電の拡大と(3)カーボンフリー電力の利用拡大だ。(1)は同社環境モデル工場である埼玉工場のモビリティ事業部で開始。21年から2年間で約10%以上の削減を果たした(記事後半で一部取り組みを紹介)。(2)は主に国内事業所を中心に太陽光パネルを取り付け、約200万kWhを年間発電。タイ工場ではオンサイトPPAを導入した。(3)では国内使用電力の約3分の1にのぼる年間約3400万kWhを再エネ証書で購入。「省エネによるCO2削減には限りがあり、普通にやっていては数%程度の効果しか出ないが、まず省エネを徹底すれば(2)や(3)に効いてくる」と要諦を語る。
このほか、埼玉工場ではモデル活動としてEVを蓄電池として活用した電力使用ピーク時の工場への放電等のエネルギーマネジメント実証実験(同社、EV充放電装置「eLINK」でEV接続、25年1月完了)、電気エネルギーを水素に変換して蓄積する水素活用実証実験も着手する(25年2月~)。
■省エネの「ジャスト・イン・タイム」
短期間で10%以上の削減を果たした埼玉工場の取組みを垪和氏はエネルギーの『ジャスト・イン・タイム』と表現。コストダウンしながらCO2を下げることがポイントとした。大きなところでは、不必要な運転を停止・廃止する「やめる」とムダな運転をこまめに「とめる」。「過去に決めた管理値は余裕をもって決められている可能性が高い」と指摘。暖機運転の時間の削減や、設備の寄せ止め(生産量を平準化してできるだけ設備を計画停止する)など、数値を少しずつ調整し、品質確保に十分注意しながら適切な生産条件を探った。
「例えば電気を多く使う熱処理設備では、稼働時以外に電気を完全に落とせるかどうか。立ち上げ時は暖機運転が1時間必要とされているなら、30分はどうかと試す。また電気をオンにしている時は素早く部品加工をスタートし、電気を垂れ流さない。『必要な時』に『必要な場所』に『必要な量』のエネルギーを持って行く『ジャスト・イン・タイム』です」
他にもコンプレッサーのエアー圧力の低減やLED電球への置き換え、熱処理炉には保温材や保温塗料を施工し放熱を防止、高効率モーターへ変更するなどを実施。エアー漏れ箇所を超音波カメラで早期発見し、漏れ対策を行ったのも有効だったという。
今後の課題は、海外事業所におけるカーボンニュートラル。「当社の売上は海外比率が高いが、どのように脱炭素に挑むか国別の有効策や難易度を把握しているところ。30年度の42%削減達成に向けて国内含めてどこに比重を置くかが課題です」 (昨年12月11日、大阪産業創造館で開催した「事業推進セミナー 「『小さく』始める! 椿本チエインのカーボンニュートラル実践術」より)」
(日本物流新聞2025年1月25日号掲載)