インタビュー
巴山建設 土木部技術システム課 課長代理 松村 大生 氏
- 投稿日時
- 2024/12/11 16:03
- 更新日時
- 2024/12/12 14:43
ICT施工で残業時間を半減
ドローン・ICT建機・ソフトの三位一体で改革
多摩地域を中心に計画から測量・施工・出来形管理・工事完了まで一貫して土木工事を請け負う巴山建設(東京都調布市)は、2020年からICT建機やドローン、3Dプリンターなどを使用した施工業務のデジタル化に取り組み、工事日数の短縮や残業時間の低減などを実現している。ICT施工を主導する同社・土木部技術システム課課長代理の松村大生氏に話を聞いた。
「現場作業員の残業時間や重機オペレーターの技術格差を懸念していた社長の一声で、2020年にICT建機やドローンを使ったICT施工の導入が決まり、現在は測量から施工、工事後の検査まで一貫して内製化しています。導入前の20年時点では月平均39時間あった施工管理職の残業時間が、昨年には19時間と約半減させることができています」
同社・巴山一済社長からICT施工の推進を一任される松村氏はそう成果を話す。
土木工事の生産性向上を目的として国土交通省が推進するICT施工「i-Construction(アイ・コンストラクション)」には、測量ドローンやICT建機、ソフトウェアなど様々な設備投資が必要になる。そのため、中小企業で取り組めている企業はまだ多くなく、国土交通省の調査によると大手ゼネコンなどが受注する政府直轄のプロジェクトではICT施工率が87%(22年度時点)であるのに対し、地方自治体でのICT施工の実施割合は21%と低水準だ。
ドローン、ICT建機、ソフトの三位一体の改革が重要になる
一方で、同社は現在、6億円規模の設備投資をすることで、測量用のドローン4機とICT建機20台超、デジタルデータを視覚化するための3Dプリンター3台などを揃え、元請工事のほぼ100%でICT施工を実現している。
「ICT建機の保有数は中小企業に限ると首都圏で随一と聞いています。測量から検査まで一貫して自社で行える体制を整えることで、施工期間中に何度もドローン測量を行うことができ、品質の高い工事を提供できる体制を整えています」
■丁張作業ゼロに
そもそもなぜ、ICT施工を行うと生産性を向上できるかというと、ドローンを使用することで測量時間を約80%削減できるだけでなく、施工前に木杭と水糸で基準を作る丁張作業をなくすことができることが大きい。
丁張は1つ打つのに1時間ほど要することに加えて、現場が動いている時間に行うことができず、実作業前後に残業として行うケースがほとんどであった。それをドローンを使って測量したデータとそれに対してどういう地形を作るのかを示す図面やプロジェクト、それらを使って動きを制御するICT建機を掛け合わせることで、丁張なしで施工できるようになった。
「新人作業者が丁張をできるようになるには年単位の時間がかかる。加えて、従来は施工の際、重機オペレーターの他に重機のバケット近くで施工状況を確認するための手元作業員が必要でした。ICT建機を使えば図面に合わせて動作に制御がかかるので、図面よりも過度に掘り進めたりすることがなくなります。それによって、工事品質の向上や人手を削減するだけでなく、重機稼働中の手元作業がなくなり安全性も向上しました」
各業務にもたらす好影響は計り知れないが、ICT施工のメリットはそれだけではないようだ。測量や施工の工期短縮と1現場あたりの人工(にんく)を減らすことができるため、同人数でも以前よりも多くの現場を手掛けることが可能になり、売上増にもつながっている。同社は21年時点の売上が22億円ほどであったのに対し、24年は41億円へと倍増させた。
こうした経営的余裕を活かし、今後は設備投資から人材投資へ軸足を移していくという。既に現場に女性専用スペースを設けるなど、多様な人材が働きやすい環境づくりを推進する。そうした取り組みもあってか、例年1、2人であった新卒入社も、今年度は6人が入社した。ICT施工の導入を機に良い循環が生まれつつあるようだ。
開発中の屋外運動施設「パンダフィールド」
Profile
巴山建設株式会社
東京都調布市/社員数58人
多摩川などの河川工事や橋梁工事、街路築造工事、災害復興工事など多摩地区で数多く物件を手掛ける同社は現在、自社で取得した土地に国際基準レベルのサッカー場を含む屋外運動施設「パンダフィールド」(東京都町田市・八王子市)を建設している。29年完成予定で、地域の子供などに無料で開放する。「当社は70年以上、多摩地域で工事をやらせてもらっている。地域の方々に工事を通して恩返ししたい」と話す。
(日本物流新聞2024年12月10日号掲載)