インタビュー
オリオン機械 専務取締役 片桐 智美 技術開発本部長
- 投稿日時
- 2024/12/09 09:54
- 更新日時
- 2024/12/09 09:58
「水素の本格的な利活用に向けて」
FCV(燃料電池車)など水素を動力源とするモビリティに欠かせない水素ステーションにおける水素供給ソリューションから水素発生装置、さらには水素を活用したロウ付けなど、来たる水素社会に向けて意欲的な研究開発を行っているオリオン機械。同社の水素関連事業を牽引する片桐智美専務に話を訊いた。
――水素ステーションにおいて貴社の技術が活用されています。
「水素ステーションでは、より多くの水素をFCVに充填するため、水素を82MPaという高圧に圧縮しています。この圧縮した水素をディスペンサーでFCVに充填すると圧力差が原因で発熱し、車体内燃料タンクの上限温度である85℃を超えてしまうので、供給前に冷却する必要があります。そこで当社のプレクール熱交換器とプレクールチラーで水素をマイナス40℃まで冷やすことで、安全な水素の充填を可能にしています」
――貴社の水素ガス冷却装置は文部科学大臣賞も受賞されています。
「地域や季節で異なる周辺温度に影響されず、水素ガスを充填できることや、装置の構成がシンプルかつ、製造及び運用コストの低減を実現したことが評価されての受賞でした。おかげさまでプレクールチラーは国内シェアの5割以上を獲得しています」
――充填システムだけではなく、9月には水素発生装置も上市されました。
「水電解水素発生装置『PGH05A』は露点マイナス50℃以下の低露点で高純度の水素を自動供給するシステムです。発生する水素は1MPa未満ですので、高圧ガス保安法の適用外となり、高価なシリンダーキャビネットなどの設置が不要です。発生した水素は分析装置や集中加熱機、また非常用などの小型燃料電池への直接利用、キャニスターに貯蔵することも可能です」
水素発生装置「PGA05H」
――水素は扱いが非常に難しく思えますが。
「水素は空気より軽く、拡散しやすいので、プロパンガスなど他の燃料源に比べて発火リスクが格段に低いのが特徴です。毒性も無いので環境への影響もありませんので、正しく使えば非常に安全なエネルギーと言えます」
■メリット多い「水素ロウ付け」
――水素を使用したロウ付けにも取り組まれています。
「従来のプロパンガスで行うロウ付けは作業のたびにCO2を排出してしまいましたが、水素ガスによるロウ付けですとCO2排出がほぼ無く、環境にも優しい。またバーナーの燃焼時に酸素の供給量が非常に少ないので、作業面が酸化しにくく、ワークにダメージを与えず仕上がり面良好なロウ付けが可能です。今後はロウ付け工程が必須の熱交換器などを製造する現場に向けてアピールしていきたいと考えています」
――自社での水素活用については。
「須坂インター工場の脱炭素化に向け、太陽光発電とのミックスでの水素活用を推進しています。太陽光発電の余剰電力で水素発生装置を稼働させて、発生させた水素を直接燃料電池に送って発電、またはキャニスターに充填して発電機に供給するシステムを構築中です。2026年からの本格稼働を目指していますが、これにより夜間使用する電力を7割程度削減できると試算しております」
――水素活用の今後について展望をお聞かせください。
「2030年頃から普及が進むと目されていますが、実際に本格的に商用化できるようになるのが2040年代からではないでしょうか。それでも当社は率先して技術開発を行い、来たる水素社会に的確なソリューションを提案できるようにしていきたいと考えています」
水素によるロウ付け
(日本物流新聞2024年12月10日号掲載)