インタビュー
山善タイランド 堂園 龍児 現法長
- 投稿日時
- 2024/11/15 11:31
- 更新日時
- 2024/11/15 11:34
中国企業の進出続くもEVは踊り場
タイ国内での24年1月〜6月の自動車販売台数は、前年同期比24.2%減。輸出も軟調で自動車産業を中心に製造業を取り巻く環境は決して良くない。しかし、さまざまな創意工夫で逆風を跳ね返している企業は少なくない。1988年の設立以来、30年以上タイの製造業を支えてきた機械工具商社の山善タイランドもその一社だ。タイの製造業を取り巻く現状を商社はどう見るか。同社の取り組みと合わせて堂園龍児タイ現法長に聞いた。
人件費高騰で自動化に熱視線
——タイの製造業を取り巻く状況は決して良くはないですが中国企業の進出は活発ですね。
「アメリカ大統領選挙などを通じてメキシコへの関税強化がクローズアップされたことや、中国への圧力が高まっていることで関税やリスク回避の設備移転という面もありますが、大前提としてタイ政府が中国系企業を積極的に誘致していることがあげられます。約30年前、日系企業を呼び込んで東南アジアの自動車の生産拠点にした、という成功モデルがあります。内燃機関で成功したことをEVでもやりたい。インドネシアなどとも招致合戦を繰り広げ、より良い条件を出したタイに多くの中国系企業が集まった、という構図です」
「23年はEVが好調で進出も活発でしたが24年に入って停滞気味です。タイの富裕層がセカンドカーにEVを買っていたのが、一段落。一般の国民に普及するには充電などのインフラがまだ整っていなかった、との見立てが一般的です」
「日系は全方位戦略で、様子見というところです。トヨタさんやホンダさんは決して悪くないですが、家計債務過多によるローン審査の厳格化の問題で、地方でピックアップトラック系が売れずそれらのメーカーさんや、部品を作っている加工事業者は今苦しいのではないでしょうか」
——商社としても日系加工業者の苦戦は業績に影響しますね。
「様子見で新型車がないので設備需要が出てきません。とはいえ23年はまだ車を作っていたので消耗品は動いていたのですが24年に入って生産自体が落ちているので消耗品の動きも悪くなっています」
「自動車も26年には新型の車種が出るといわれており回復するだろうとは思いますが、それを待っているわけにはいきません。航空機は堅調ですし、データセンターの投資も活発で、水冷のサーバーラックなどの部品加工の仕事は増えています。新産業、好調産業のユーザー企業のサポートを通じて市場拡大を目指します。今後は医療などにもアプローチしていきたい」
「当社社内では『Something NEW』を合言葉に新しい産業、新しい商品に取り組んでいます。一部センサーなどで中国メーカーの扱いも始めました。『こういうコストパフォーマンスがいい商品を求めていたんだ』とお客様から好評です」
「日系商社にとって、状況は厳しいですが、こうした取り組みが奏功してほぼ計画はクリアできそうです。後半戦はもう少し良くなってくるでしょう。その上で自動車が回復してくれば、ありがたい限りですが、車が回復しなくてもしっかりやっていける体制を整えていきます」
■タイメタ、スピーディオ新機種訴求
——直近のMETALEXはアピールの場になる。
「METALEXは普段の営業やプライベートショーではアプローチしにくい、新しいお客様との接点の場と考えています。中国企業の設備の受注につながったなど成果も出ています」
「新型を東南アジア圏でお披露目する機会でもあり、例えば我々の主力であるブラザー工業さんのスピーディオの新機種・Xd2シリーズは注目です。同機は加工エリアをY軸400㍉→450㍉、Z軸300㍉もしくは380㍉(OP選択)に拡大したもので『こんな機械があったらいいのに』とお客様が求めていたものです。ストロークUPした事によりBT40番の領域をカバー出来る範囲が広がりました。鉄製品は40番でしか加工出来ないと思い込まれているお客様はタイに限らないですが少なくないですよね」
「展示方式も少し変えて工作機械の間に関連工具類を配置して、お客様目線で見やすい工夫をしています。またタイでは政府が所得倍増計画を打ち出しており、人件費高騰は避けられず自動化が課題になってきています。ブラザー工業さんの工作機械のワークの脱着を産業ロボットで行ったり、協働ロボットでの測定ソリューションを展示します。今期から採用した自動化の設計担当によるプロモーション動画も投影予定です。人件費が安いから進出した日系企業は多いですが、今自動化に手を付けないと、ますます厳しくなる可能性があります。ライン全体の自動化といった大掛かりなものだけでなく、一部に協働ロボットを入れても高い効果が出ることも。自動化の第一歩をお手伝いできればと思っています」
——貴社は売って終わり、じゃないところが特徴だが。
「山善タイランドの社員は約200人ですが60人がエンジニアで営業より多いです。エンジニアがメンテナンスにタイ国内を走り回っているおかげで、注文も来ます。エンジニアリング力に満足してもらえれば、営業パーソンがいなくても大丈夫、は言い過ぎですがそれだけエンジニアリングを大切にしています。またメトロロジー部門もストロングポイントで、受注設備納入前に社内で加工したものを当社社内で測定が可能。製品精度合格後に設備をお客様に運ぶので、納入後は再現するだけとなります」
(日本物流新聞11月10日号掲載)