インタビュー
山善 深圳 吉倉 雄二 現法長
- 投稿日時
- 2024/10/10 15:21
- 更新日時
- 2024/10/10 15:25
中国・福建省に「産教融合技術交流センター」設立
機械工具商社「山善」の海外子会社「山善(深圳)貿易有限公司(山善深圳)」は9月24日、福建省化油器(キャブレター)工業協会、福建省福鼎職業中等専門学校と提携し「産教融合技術交流センター」を設立した。吉倉雄二現法長に話を聞いた。
産官学連携で地域経済の発展を
――広東省東莞、湖北省武漢に拠点があるが、交流センターの違いは。
「既存の2拠点は、山善単独のテクニカルセンターですが、交流センターの特色は産官学連携にあります。当社には、地域経済の発展に貢献したい想いがあります。同エリアは2輪、4輪の内燃機関車の部品であるキャブレター製造の集積地。EVシフトで斜陽化が懸念されており、同協会としても登録企業の新たな技術や装置・部品の開発能力を高めたい」
「また中国でも、若者の製造業離れが進んでいて、市政府は専門学校の教育に力を入れています。我々のような最新の設備や高い技術を持った専門商社が教育に参画することでより有能な人材育成につながることが期待されています。3者の目的が一致しました」
■山善エンジニアが、先生に
――先生になるのは。
「山善深圳のエンジニアが先生になります。教わるのは日本で言えば高校生に当たりますからまずは基本的なところからですが、優秀な生徒は夏休みにブラザー工業やシチズンマシナリーなどに研修に行ってもらったり、インターンを受け入れるなど民間企業だからこそ出来る実践的なプログラムも提供していきます。当社のエンジニアは、中国のトップレベルの理工大学卒より優秀なエンジニアに鍛え上げると意気込んでいますよ」
――社会貢献を持続的に行うためにはビジネスの裏付けも必要では。
「3者の連携により、ビジネスの拡大に寄与する様々な情報を収集することが出来ます。また中国ビジネスでは人脈が重要になってきますが、人脈の構築や拡大につながりますし長期的には、山善のブランド力の向上も期待できます。重要なのは、顧客や情報が集まる仕組みです」
「我々が最終的に目指すところは、持続的な成長企業をつくり『我々の暮らしを豊かにしていく』ことが企業活動の本質であると考えており、地域社会に貢献することでそれを実現したい。結果として山善のビジョンである『世界のものづくりと豊かなくらしをリードする』を体現できるファシリティにできると考えています。今回の提携を契機に、福建省周辺エリアでの取引拡大や新規顧客獲得に注力し、26年度には同エリアでの売上20億円を目指しています」
――近郊には、車載バッテリーメーカー「CATL」の本拠地もあるが。
「23年度で売上8兆円を超えているCATLのような巨大企業に、人脈が重要な中国で日系企業が食い込んでいくのは簡単ではありません。産官学連携でブランド力を高めながら市政府からの情報収集や人脈の拡大を通じて同関連企業を含めた取り込みを狙っています」
――多くの商社やメーカーが中国に進出していますが、山善が選ばれた理由は。
「工作機械メーカーが教育機関と連携する例は比較的多いですが、自社の機械に限定されてしまいます。我々は『トータルソリューションプロバイダー』として多くのメーカーの設備を取りそろえているだけでなく、ユーザーの生産性を向上させるソリューションも提供しています。工場丸ごと、全てのソリューションを提供できる総合力が評価されたと理解しています。加えて海外含め長年エンジニアリングの活動を行っていることも強みです」
――どんな設備を揃えていますか。
「まずは加工機の技術習得が求められますからブラザー工業のマシニングセンターやシチズンマシナリーのCNC自動旋盤。それに関連した切削工具や治具、測定器を各メーカーにご協力いただき設備しています。1年後に新技術棟が竣工予定で製品の幅もより広げていきます。未来を担う子どもたちのためにもサプライヤーの協力は不可欠ですね」
――中国市場をどう見る。
「私は二度目の中国駐在です。一度目は02年から08年で中国がイケイケの時代でした。当時は大量生産・大量消費の時代で日本製が飛ぶように売れました。二度目が22年からで、今の中国はさまざまな面で非常に厳しい状況です。人件費や物価が上昇し、中国製品の品質も向上している中で、更には中国政府の国産化政策の後押しもあり価格競争が激化しています。モノが高く売れない中、売上・利益を拡大し、組織として如何に生産性を上げていくかも重要な要素となっていますが、地域にしっかり根付いていけば中国全体で売り上げ1000億円を、近い将来に達成できると確信しています。そのためには、常に変化の半歩先にいるプロアクティブな企業を目指していきます」
9月24日 福鼎市副市長などを招いて開所式が執り行われた。
(日本物流新聞10月10日号掲載)