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インタビュー

住友電工 執行役員ハードメタル事業部長 木村 寿良 氏

素材力・技術力をベースにソリューション領域を拡大

住友電気工業(住友電工)は世界トップレベルの素材開発力を誇り切削工具でもダイヤモンドやCBN(立方晶窒化ホウ素)に次ぐ硬さを持つ「イゲタロイ」、CBNに結合材を加え超高圧高温下で焼結したCBN焼結体「スミボロン」や超微粒のダイヤモンド粒子を高密度に焼結したダイヤモンド焼結体「スミダイヤ」などで機械工作分野の生産性向上に寄与している。木村寿良執行役員ハードメタル事業部長に話を聞いた。

ヘッド交換式クイックチェンジホルダAPM型

——切削工具の進捗と受け止めを。

「コロナ前の18年、19年と比べれば十分な回復には至っていません。自動車生産の回復の遅れなど複合的な要因で、昨年度は世界連結でダウンしたものの今期の4カ月間を見れば昨対10%増で推移しています。米国は比較的堅調で中国も底を打った感があるほか、半導体の回復を含め全般的に緩やかな回復を見せています。昨年、新たにインドに立ち上げた販売会社も軌道に乗ってきたので、下期は更なる伸長を期待しています」

——今期の注力施策は。

「EVシフトの踊り場にあります。下期に限ったものではないですがEV車特有の、切削加工に対するニーズも出てきているので当然、工具や素材の開発を進めています。しかし内燃機関がなくなることはありません。競合他社は内燃向けのウエートを低めている様子もありますが、我々としては逆に商機ととらえ、EV向け同様に力を入れています。例えばクランクシャフトを加工するミーリングカッターに新材質を投入するなど開発も強化しています。また数年前から航空・宇宙・防衛向けのツーリングには特に力を入れています」

——新製品などのリリースは。

「JIMTOFに向けて新製品の開発や発売を活発化しています。全体的には加工効率を向上させることを主眼に、ドライ化に最適な新材種『AC8115P』を開発し、環境への配慮などを推進しています。高硬度層や微細結晶配向制御技術の進化、耐塑性変形性能に優れた超硬新素材の採用により耐摩耗性を向上させるとともに潤滑性もあげることでドライ加工に適合させています。条件にもよりますが、一般的な切削加工ではほぼドライ加工していただけ、寿命はウエット加工同等です。また他社同等品の2倍の寿命を実現しています」

「他に力をいれているのが小型・自動旋盤用工具に搭載する『ヘッド交換式クイックチェンジホルダAPM型』ですね。小物部品機械加工では工具同士の間隔が狭く工具交換に時間がかかります。同製品はシャンク部に付与したスクリューの操作のみでヘッドの脱着が可能で、外段取りをしておけるので効率化や時短が叶います。競合製品では嵌合部が円筒の印籠式になっておりサイドからクランプしているものが多いのですが、当社は特許技術のポリゴンテーパ形状を採用することで、刃先繰り返し精度を5ミクロン以内に高め、高い剛性も実現。ビビりに強いのが特徴です」

「もう一つ、難削材のステンレス鋼の旋削用コーティング材種『AC6135M/AC6145M』とチップブレーカ『EH型』を開発しました。ステンレス鋼は工具に溶着しやすくコーティングが欠損してしまい寿命に至ることが多いのですが耐溶着層、耐摩耗層、耐チッピング層などに機能分担した多層構造で優れた安定性と長寿命を実現しました」

——カスタムメイドなども。

「標準在庫品などを充実させるとともに、ユーザー様に合わせたカスタムメイド品への対応も強化しています。航空機産業などはユーザー様ごとに部品の仕様も異なりますし、ニーズに適用させるソリューション領域に近いアプローチですね。このあたりもJIMTOFで展示します」

■センシング技術で勘や経験にDXを

——JIMTOF出展での見どころは。

「これまで紹介した新製品を含むハードの展示ももちろん見どころですが、KKD(勘と経験と度胸)にDX(デジタル技術)をプラスするというコンセプトで、センシングを活用した加工サポートも提案しています。ホルダの中にセンサーを組み込んだもので、刃先の状況を測定し無線で送信しデータを解析します。どこの工程で負荷がかかっているかなどを分析し、加工解析に基づいたソリューションビジネスを展開していきます。歪みセンサーを搭載しており工具座標系XYの切削加重の変化を捉えられるのが特徴で、各切れ刃一つ一つの状態を見える化できます。自社事業でも使用しておりカッタやドリルボディの製造における加工パスの最適化や不良低減のような改善例がありました」

——中長期的な見通しは。

「我々の最大の強みは材料開発力と技術力にあります。しかし工具を作って収めるという従来のビジネスモデルだけでご満足いただけない事業環境へと変化しているのも確かです。切削加工の改善のためのエンジニアも減ってきており先ほどのセンシングツールなども含めたソリューション提案やコンサルティング領域が重要になってきています。切削工具は工作機械と一体的に使われていますが、我々のドメインで解決策や改善策を提案できる領域をいかに広げていくかがカギとなってきます」

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ヘッド交換式クイックチェンジホルダAPM型

■ひとこと


住友電工グループでは超硬合金やドリル・エンドミルなどのほぼ全量(国内販売の100%)を国内でリサイクルできる体制を整えている。使用済みの超硬工具などをユーザーから回収し温式化学処理法でタングステンに再生させる。他社製品もOKとのこと。タングステンなどのレアメタルは、生産国に偏りがあるため供給リスクが存在する。環境負荷低減に加えて、供給の安定にも寄与している。

(2024年9月25日号掲載)