インタビュー
エアバス・ジャパン コミュニケーション・ディレクター 野坂 孝博 氏
- 投稿日時
- 2024/10/01 13:01
- 更新日時
- 2024/10/01 13:06
日本の生産技術は航空機製造にも活用可能
航空機産業における巨人・ボーイングを5年連続で上回る受注を獲得、世界の空におけるプレゼンスを大きく拡大しているエアバス。近年は日本企業との連携の深化や、研究開発拠点を設けるなど積極的な展開を図っている。同社日本法人の野坂孝博コミュニケーション・ディレクターに、同社が目指す日本企業との関係性と、脱炭素に向けての施策を聞いた。
エアバスが開発中の次世代機
――直近の受注状況をお教えください。
「2024年度は8月末時点で432機を受注しています。うち32機はJALからのもので、ワイドボディのA350を21機、ナローボディ(単通路型)のA321neoを11機受注しています。9月含め残り4カ月、まだまだ受注は積み増していくと予測しています」
エアバスが開発中の次世代機
――コロナ禍を経て航空機需要が一気に回復しています。
「コロナ禍前の2019年の受注1131機から、コロナ禍で一時的に落ち込みましたが、2023年は過去最高となる1257機を受注しています。世界的に見ると、国内線はコロナ禍前の105%、国際線も98%まで回復しています」
――今後も需要増が続くと見ていますか。
「2042年までの約20年間で必要な旅客機の数は4万850機で、1万7170機が代替機、需要増への対応で2万3680機が必要になると見込まれています。うち8割がナローボディ、2割がワイドボディになります。また貨物専用機も約2500機必要になります。こうした観点からも、今後も旺盛な需要が見込まれます」
――需要のトレンドは。
「LCCを中心に、A321LRやA321XLRといった、航続距離の長いナローボディ機が人気です。日本国内からオーストラリアまで飛べる上、国内線でも活用できる汎用性の高さが選ばれている理由だと思います」
――需要増に対する取り組みは。
「ハンブルクや天津工場の生産能力の拡大に加え、トゥールーズ本社工場のA380製造ラインを需要の多いA320ファミリーの生産ラインに切り替えるなどし、A320ファミリーは2027年に月産75機の生産体制としていきます」
――日本のサプライヤーとの関係性についてお聞かせください。
「日本国内のサプライヤーは100社以上に上り、調達額は18億㌦に達しています。2017年に経済産業省とフランス航空総局との間で民間航空機産業における協力関係を強化する合意が交わされ、エアバスと日本の航空産業との連携強化を目的とした『日エアバス民間航空機産業協力ワークショップ』を設立しています。こちらでは定期的な会議を開催しており、エアバスの次世代機開発に向けた材料や航空システム、製造技術などの協業を促進しています。また、サプライヤーだけではなくスタートアップ企業への出資も行っています」
■自動化技術に着目
――本年5月には研究開発拠点となる「エアバス・テックハブ・ジャパン」を立ち上げました。
「エアバス・テックハブはエアバスが促進する世界的な研究開発拠点で、シンガポールとオランダ、東京の3カ所に開設しています。世界中で活動しているエアバスR&Tチームと各国の産業界、学術機関との協力関係を促進し、航空宇宙の未来に備えて技術革新をもたらすことを目的としています。東京の拠点では新素材の開発、脱炭素技術、自動化を主な研究分野としてクローズアップしていきます」
――日本のモノづくり業界に期待していることは。
「日本には優れた技術がたくさんあり、エアバスにとっても重要なパートナーとして位置付けています。サプライヤーとして、また新たな技術の開発といった点でも期待していますが、特に製造における自動化技術に注目しています。エアバスにおける生産工場もかなり自動化が進んでいますが、それでもまだ人手に頼らなければならない部分があります。日本のモノづくりは自動車産業を筆頭に、生産技術に秀でています。またロボット活用に関しても世界トップクラスです。生産ラインにおける最適化を手掛けてきた企業からロボットSIerまで、多くの日本企業との連携を期待しています」
――貴社はSAF(循環型の原料で製造された持続可能な航空燃料)の利用をはじめ、水素燃料電池航空機の開発など、脱炭素化にも注力されています。
「エアバスではゼロエミッションを達成するひとつの手段として、SAFの利用促進を進めています。エアバスの航空機はヘリコプターなどを含むすべての機体が燃料にSAFを50%使用して飛行できます。これを2030年までに100%にまで引き上げていきます。またSAFの利用においては昨年、日本国内で製造されたSAFの商用化と普及・拡大に取り組む団体『ACT FOR SKY』に加盟しました。技術的な知見の提供や研究開発に協力するとともに、国産SAFの盤石なサプライチェーン構築を支援します」
――SAF、水素ともに現状では運用コストを考えるとまだ先の技術に感じます。
「航空機業界自体の二酸化炭素排出量は2・5%ほどですが、今後も機体数は増加の一途を辿っていきます。その中でカーボンニュートラルを達成するためには、いまから新しい技術に取り組まなければなりません。ですので、日本における研究拠点の開設や日本企業との協業促進は、次世代機開発において重要な役割を果たすと考えています」
■民間ヘリ市場でも存在感
エアバスのヘリコプターは、世界の民間向けヘリコプター市場において、約54%と高いシェアを誇っている。日本においてもタービンヘリコプターの5割以上が同社製で、消防、報道、救急、警察、など幅広い分野で活用されている。また2021年には川崎重工と共同開発したヘリコプター「H145//BK117 D-3」が就航。国内外からの受注を獲得している。
(2024年9月25日号掲載)